座談会 地域医療の現状と課題 超高齢社会まず全体構想・特集=中部・・・ 2013.01.09 読売新聞 

2013.01.10

座談会 地域医療の現状と課題 超高齢社会まず全体構想・特集=中部
2013.01.09 読売新聞 


 世界に例のない速度で超高齢社会へと突入した日本。高齢者が安心して暮らせるよう、地域医療の充実が急がれる中で、大島伸一・国立長寿医療研究センター総長、松尾清一・名古屋大学医学部付属病院長、柵木(ませき)充明・愛知県医師会長の3人に、南砂(まさご)・読売新聞東京本社医療情報部長が現状や課題をたずねた。急激な社会変化を見据え、3人は医療の新たな在り方や国民の自覚を異口同音に訴えた。

 ◆人口構造変化に対応を/大島氏 受け皿は街づくりから/柵木氏 20年先にらみ人材育成/松尾氏

 --高齢者が安心して暮らすために、地域医療の充実が必要です。
まず、愛知県大府市の長寿医療研究センターで国の司令塔を務める大島先生から、高齢者の医療をめぐる概況や課題をお聞かせください。

 大島 65歳以上の人口が総人口に占める高齢化率は2012年には24・1%と日本が世界でも突出し、21%以上とされる超高齢社会に突入しています。
高齢化のスピードも問題です。1970年に7%を超え、94年に14%を突破と、わずか24年で高齢化社会から高齢社会となりました。
フランスでは110年以上かかりました。
2055年には高齢化率が40%を超えると予測されています。
急激な社会の変化をどう見るか、変化にどう対応するか、大きな問題に直面しています。

 医療や介護の需要は人口構造の変化にともなって質・量ともに変わります。高齢化率7%と20%超の社会が同じ制度、システムでやっていけるわけがありません。
このような社会環境の中で、地域医療の在り方が問われています。

 --松尾先生は大学病院のトップとして、この超高齢社会をどうみていらっしゃいますか。

 松尾 医療人材の育成で、従来通り臓器別の専門家をつくり続けていいのかという問題が浮上しています。
多くの病気を抱えるお年寄りを何人もの専門家が群がるようにして診察することは不可能となるでしょう。医師以外の医療スタッフとの連携も、医師に必要な能力となります。
一方で、大学には次世代の新しい医療を開発する使命があり、グローバルな競争を繰り広げています。
これらの点を熟慮しながら、10年後、20年後の大学の在り方を考えなければなりません。

 --地域医療を担う医師会の立場で、柵木先生はどうお考えですか。

 柵木 高齢者の多くは、できたら家族の介護を中心に、自分の住んできた地域で医療や介護を受けたいと願っています。
しかし、2025年には高齢世帯が2千万、その3分の2は高齢者の独居か夫婦という高齢者だけの世帯となります。
元気なうちはいいが、医療や介護が必要になると、独居の場合はもちろん、夫婦でも老老介護は困難で、やむなく住み慣れた家や地域を離れ、介護保険施設や老人ホームを終(つい)の棲家(すみか)とせざるをえません。近い将来、民族移動ともいえるような、高齢者の大移動が起きます。

 このような高齢者にどのような医療、介護を提供していくのかが問題です。行政と地域、医療関係者が一体となって高齢者の受け皿づくり、しかも街づくりのレベルから取り組まなければなりません。
すでに東京では、受け皿を求めて多くの人が群馬や埼玉へ移住しています。
名古屋を中心とする大都市部でも同様の状況が予想され、受け皿づくりが遅れれば大きな社会問題となるでしょう。

 --その受け皿づくりでは、医療人材の質、配置が問題になりませんか。

 大島 「広辞苑」で医療を引くと「医術で病気をなおすこと」とあります。では終末期医療や緩和医療は医療ではないのか。
高齢者の慢性疾患も、基本は進行を止めるだけです。このような医療需要の増大こそが高齢社会の特徴です。20世紀型医療の枠にはおさまりません。
高齢者医療で大切なのは全体のバランスです。
多くの臓器に病気を抱えているのに、特定の臓器だけ100%完治を目指しても、かえって全体のバランスを崩します。
専門医がバラバラに診断するより、まずは総合的、全体的に診るゲートキーパー的な役割をする医師が必要となるでしょう。

 松尾 現在の医療政策の基本は1960年代、70年代に作られました。
当時とは人口ピラミッドが大きく変化し、矛盾を抱えています。
医師不足に短期的な視野で対応しても解決にはなりません。
まずは10年先、20年先の医療のグランドデザイン(全体構想)をつくること。そうすれば医師の需要も明瞭になるでしょう。
各大学の医学部は画一的な人材づくりではなく役割分担しなければなりません。

 柵木 愛知県医師会でも県内の医師の不足数を出そうとしましたが、例えば心筋梗塞に対処できる医師を365日24時間体制で配備するにはといった仮定での計算しかできず、現実的ではありませんでした。

 --医療のグランドデザインを描くためには。

 大島 問題は財源です。限られた財源で、増加する新たな需要をどうさばくか。
意見の一致点を見つけてデザインしなければパンクしてしまうし、決めれば決めたで、あらゆるところから異論が噴出してくる問題でもあります。

 柵木 その実例が75歳以上の高齢者を対象とした後期高齢者医療制度に沸き上がった反発です。
元々は医師会側が制度の必要性を言い出しました。
高齢者の医療と若い人の医療の在り様が異なることを理解していたからです。
制度継続の是非や修正について、今後、社会保障制度改革国民会議で議論されるそうですが、私個人は年齢での切り分けは必要だと考えています。

 ◆医療連携、リーダー大切/柵木氏 「退院後」の需要に配慮を/松尾氏 質・量の転換期覚悟必要/大島氏

 --国は地域での医療機関連携を提唱していますが。

 柵木 急性、重篤な症状の患者が入院して治療を受け、回復リハビリを行う療養型の病院に移り、最後に自宅へ戻るというのが国の描いている図ですが、残念ながらシームレスな連携は実現していません。
システムづくりには情熱のあるリーダーが重要で、人材育成が課題です。
名古屋市内でも、せっかくつくり上げた医療連携、在宅支援のシステムが、当初のリーダーが辞めたら、あっという間に無くなった例もあります。

 松尾 急性期の治療を中心とする病院の入院期間は確かに短くなっていますが、その裏で早急に転院先を探さねばならず、患者や家族だけでなく、医療関係者にとっても大きなストレスになっています。

自治体の首長からは、急性期病院の医師の充足を求める要請を受けます。
救命医療はもちろん大事ですが、退院後の膨大な医療需要に対する整備にも配慮してほしいと、逆にお願いしています。

 大島 高齢化は救急医療の現場に高齢者の集中という問題を起こしています。
一次や二次救急で対応すべき比較的軽度な患者まで三次救急に運び込まれ、本当に三次救急が必要な若い患者がたらいまわしになってしまう。
「どちらの命が重いのか」という不毛な議論をするより、高齢者の症状に合わせ、搬送先を選別するシステムの構築が肝要なのです。

 --高齢者が住み慣れた地域で安心して暮らす社会をつくるために、何が必要なのか、ぜひ訴えておきたいことを。

 大島 医療や介護の質・量の大転換期を迎え、どう対応したらいいのか、答えはまだわかっていません。国民一人ひとり、専門家、行政、政治家すべてが、事態を正面からとらえ、自ら変わる覚悟がなければ、たいへんなことになります。

 松尾 最期は住み慣れたところで迎えたいと思いながら、現状では家で亡くなるのは10人に1人ぐらい。
この現状を変えるには、医療を含めた社会の仕組みを、どのようなプロセスで転換していくか、しっかり考える必要があります。

 柵木 自宅で最期を迎えるのは理想ですが、ますます困難になるでしょう。
超高齢社会にふさわしい街づくりが必要で、そこに医療や介護、生活支援を付加していくという発想を持たなければなりません。


 ◇愛知県医師会長 柵木充明(ませき・みつあき)氏

 名古屋大学医学部卒業。1982年から上野産婦人科(名古屋市千種区)院長、96年から医療法人博報会理事長、2012年から愛知県医師会長。

 ◇名古屋大学医学部付属病院長 松尾清一(まつお・せいいち)氏

 名古屋大学大学院医学研究科修了。中部労災病院内科副部長、名古屋大学医学部付属病院教授を経て、2007年から同病院長、09年から名古屋大学副学長。

 ◇国立長寿医療研究センター総長 大島伸一(おおしま・しんいち)氏

 名古屋大学医学部卒業。同学部教授、同学部付属病院長を経て、2004年から国立長寿医療センター総長、10年から国立長寿医療研究センター総長。