<暮らしはどこへ 衆院選>医師偏在 揺れる地域医療*「国や候補は現状よく見て」

2012.12.07

 

<暮らしはどこへ 衆院選>医師偏在 揺れる地域医療*「国や候補は現状よく見て」
2012.12.05 北海道新聞

 ここ10年ほどの医療政策の変化で大きな影響を受けたのが地方の医療機関だ。
都市部に優位な政策によって医師の偏在が進み、地方では中核病院でも医師が慢性的に足りない状態だ。
さらなる高齢化が進む中、地方の実情に目を向けて安定した医療基盤を確立する方策が求められる。(塚本博隆)

 「もっと手術の多い病院で働きたい」。留萌市立病院では10月末に脳神経外科の医師が退任し、緊急時を除いて脳外科の手術が難しくなった。
「沿岸部なので塩分摂取量も多く、他地域より脳卒中の割合も多いのだが」と笹川裕院長。
医師2人の小児科についても「夜間に呼び出されることもあり、負担が大きい。3人態勢が望ましい」と頭を悩ませる。

 地域の中核病院ゆえ、自らの病院のことだけを考えるわけにはいかない。
医師が不足する道立羽幌病院に医師を派遣。常勤医がいない天売島の診療所に笹川院長自ら出向いて診療することもある。

 医師がもっといてくれれば地域の医療ニーズに応えられる-。例えば放射線によるがん治療だ。
札幌や旭川の病院で治療を受けても、完治の見込みが低くなると「最後は地元で」と戻されるケースも多い。
「放射線は末期がんの強い痛みを軽減する効果もある。
留萌で導入できればがん治療を充実できる」と笹川院長は語る。

 道内の2010年の人口10万人当たりの平均医師数は218人で219人の全国平均とほぼ同じ。
しかし全国平均を超えているのは21ある2次医療圏で札幌と上川中部だけ。
日高は102人、根室は94人、宗谷は91人と道内平均の半分以下だ。

 留萌も133人と少ない。管内人口約5万3千人、南北約160キロに及ぶ広い2次医療圏を支える中核病院の留萌市立病院も31人の常勤医はいるが、必ずしも十分ではない。

 こうした地方の医師不足の一因が04年に始まった臨床研修医制度だ。
新人医師が研修先を自由に選べるため、都市部の病院に集中。大学に残る医師も減って大学が地方に医師を派遣する力が弱まった。

 医療の効率化を狙う厚生労働省には、2次医療圏の設定を見直す計画もある。

 人口20万人未満で、他圏域で入院する患者が2割を超える圏域は統合する案が検討され、計算上、道内の2次医療圏は11に減る。
面積が広く、冬場の交通網に不安のある道内の実態に即しているのか。
留萌市立病院を支援する住民グループ「留萌がんばるかい」の森義和事務局長は「住んでいる地域で最後まで闘病できるのが住民の理想」と力説する。

 同病院の累積赤字は一時33億円あった。市の一般会計からの繰り入れなどによって11年度で解消したが、高橋定敏市長は「公立病院を抱える自治体は、病院支援に力が割かれて他の住民サービスに力を入れることができなくなる。
地方の実情に合わせた国の支援が必要」と話す。

 衆院選に向け各政党とも「医師不足を解消する」などとうたうが具体的な対策は示していない。
笹川院長は「医療機関は一度壊れると立て直しは難しい。国や候補者は地方の医療機関の現状をよく見てほしい」と訴える。

*看護師流出/実情に合わぬ国の制度*「都市部中心」招く

 地方の医療機関は医師不足だけでなく、看護師不足や地方の実情に合わない国の制度にも悩まされる。

 留萌市立病院には本来、一般病床は350床あるが、看護師を確保できないため300床に減らしている。
2006年の診療報酬改定で、患者7人に対して看護師1人を配置する「7対1看護」が設定されたのが引き金だ。

 「7対1看護」の診療報酬は留萌市立病院が行っている「10対1看護」より大幅に引き上げられた。
人件費分を差し引いても収入増となるため都市部の病院が相次いで導入。地方の看護師の流出につながった。

 国の「地域医療支援病院」制度も、実態にかなっているとはいえない。日常的な診療を行う中小医療機関を支援する中核病院が指定され、診療報酬が加算されるため増収につながるが、同病院は見送らざるを得なかった。
「他の医療機関からの紹介率40%以上」の要件がネックとなった。

 笹川裕院長は「地方では中核病院にしかない診療科目も多く、最初から中核病院で受診する患者が多い。紹介率を40%に上げるのは厳しい」と都市部中心の制度を批判する。