がん医療の要「拠点病院」の課題

2012.11.26

 

がん医療の要「拠点病院」の課題
11月13日 NHK


日本人の2人に1人がかかるがん。
がんで亡くなる人を減らすため、都道府県は今年度中に地域のがん対策を見直すことになっています。
こうしたなか、今、注目されているのが、地域のがん医療を行う要となる「拠点病院」です。

もともとは、国が専門医の数や治療設備など厳しい条件を基に指定するものですが、最近、自治体が独自に指定するケースが増えています。
中には国の基準に満たない病院も多く、がん医療の質が保たれるのか、患者から疑問の声が出ています。
科学文化部の籔内潤也記者が解説します。


増える拠点病院、戸惑う患者

「同じような名前の病院があって混乱する」、「自分のがんを得意とする病院が見つけられない」。
先月、奈良県で開かれたがん患者たちの集会で聞いたことばです。
討論では、さまざまな拠点病院があるなかで、どの病院に行けばよいのか分からないという声が相次ぎました。

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患者団体「がんと共に生きる会」、副理事長の濱本満紀さんは、拠点病院でも必ずしも十分な医療が受けられていないケースがあり、「看板に誤りがあるのではないか」と指摘しています。


なぜ増える拠点病院

国が高いレベルのがん医療を全国どこでも実現することを目指して作られたはずのがんの拠点病院。
なぜこんなことになるのでしょうか。

国が指定する「拠点病院」は、全国に397か所。
肺がんや大腸がんなど患者数の多い5つのがんについて、十分な治療が行えることが基準になっています。

ところが、ここ数年、37の都府県が独自に「拠点病院」を指定し、その数は274か所に上ることがNHKの調べで分かりました。



自治体指定の拠点病院は、「拠点病院」のほか「推進病院」や「支援病院」などといった名称がついていて、ほとんどが国指定より条件が緩くなっています。

例えば、国の拠点病院では、放射線治療の機器や、患者の痛みを取る緩和ケアの実施などが求められていますが、自治体指定では、条件に入っていないケースもあります。

患者を集めるために「がんを診る病院」を打ち出したい病院側と、地域に「がんの病院」を作りたいという

自治体側の事情で、拠点病院は増えてきたのです。
地域のがん医療に詳しい国立がん研究センターの渡邊清高室長は、「拠点病院で受診してもきちんとした医療が受けられないということが起きるかもしれない。病院の役割分担を明確に示し、指定の在り方について議論することが必要だ」と指摘しています。


始まった拠点病院改革

こうしたなか、改革の動きも出てきています。
その1つが大阪府南部の泉州地域です。
全国で最も多い60の拠点病院がある大阪府。

泉州地域でも、国と府の指定病院が合わせて8か所あり、中でも府の拠点病院は、この3年間に相次いで7か所、指定されました。
ところが泉州地域では、患者が診断から5年後に生存している割合が、乳がんでは府内で最も高い地域より6ポイント低い82.9%、胃がんでは9ポイント低い52.3%でした。
拠点病院は多いのに、がん医療の成績表ともいわれる「5年生存率」が低かったのです。



和泉市立病院の挑戦

府の拠点病院の1つ、和泉市立病院の福岡正博がんセンター長は、おととし4月の赴任直後から改革に乗り出しました。
国の拠点病院と比べ、何が足りないのか。
福岡さんが重視したのは、患者の痛みを抑えながら治療する「緩和ケア」でした。



以前の和泉市立病院では、効果的な治療をするために痛みを抑えることが重要だとは考えられておらず、国の拠点病院で求められる「緩和ケア」ができなかったのです。
そこで、新たに人材を確保して専門の病棟を設置。
その結果、進行したがん患者の生存期間が延びたケースも報告されています。
去年9月に大腸がんが肺や肝臓に転移し、余命4か月と告げられた60代の女性。
腸閉塞を併発し、抗がん剤治療ができなくなりましたが、緩和ケア病棟で痛みを抑えながら腸閉塞を治療すると、体調が回復しました。
以前だと治療をあきらめていたケースでしたが、抗がん剤が再開できました。
女性は、自宅で家族と暮らし、「お正月はもう迎えられないと思ってたのに、お正月が迎えられた。来年の今頃になって、もし元気たったら、また、その次の年を目標にしようと思っている」と笑顔で話してくれました。



拠点病院の連携で患者本位のがん医療を
さらに福岡さんは、拠点病院どうしの連携にも乗り出しました。
実は、それぞれの拠点病院には治療経験が豊富ながんと、少ないがんがあります。
例えば、福岡さんの和泉市立病院は、去年の4か月間に肺がんの患者は117人入院して診ている一方で、乳がんは19人しか診ていません。
福岡さんは、患者を1つの拠点病院で抱え込まず、経験のある病院に紹介しあうほうが患者のためになると考え、地域の拠点病院や診療所などに呼びかけて、連携を進めるためのNPOを設立しました。
NPOには患者も参加し、患者の立場に立った連携を模索。
今後、8つの拠点病院で、それぞれが得意な部位のがんの患者を紹介しあい、地域全体で患者を診る態勢を作ることにしています。
福岡さんは、「病院の壁を超えてお互いに紹介しあい、どこで治療を受けても同じレベルの治療が受けられるようにしたい。拠点病院である以上、期待に応えられるような態勢を取っていくことが大切だ」と話しています。



拠点病院の在り方については、来月にも国の検討会で指定条件の見直しなどの議論が始まります。
患者が望むのは、それぞれの拠点病院がどのような治療を行っているのかや、どの病院に行けば適した治療を受けられるのかを知ることができるようになることです。
その中で泉州地域の連携は、患者本位のがん医療を目指すモデルになるものと期待されています。