地方の医師不足 地域医療の義務化で解消を 

2012.11.12

(私の視点)地方の医師不足 地域医療の義務化で解消を 田巻健治
2012.11.09 朝日新聞

 私が勤める岩手県立宮古病院は2年前、偽医師事件で世間の注目を集めた。
常勤医不在だった循環器科に採用を決めた人物が無免許と分かり、警察に逮捕されたのだ。
事件の背景には、かつて50人いた常勤医師が26人まで減るという深刻な医師不足があった。

 県都の盛岡市から車で2時間の宮古市にある宮古病院は、約9万人が住む三陸沿岸中部で唯一の総合病院だ。
救急患者はすべて受け入れており、救急担当医の負担は重い。日常業務をこなした後、わずかばかりの仮眠を取りながら、夜間救急を担う。
2日にまたがる32時間を超す連続勤務だ。医師不足のあおりで、若い医師は当直勤務を月に4、5回担当する。

 多くの地方で起きている医師不足。最大の要因は医師の偏在だ。
具体的には、地方より都市部に偏り、勤務医より開業医に偏っている。
その結果、地方で勤務医が不足する一方、都市部の開業医は過剰になっている。

 地方の医師を確保するため、多くの医師が少しずつ分担し、地域の医療を支える仕組みはできないか。
そこで、専門医の資格を取得する条件として、地域医療勤務を義務付けることを提案したい。

 いま、ほとんどの医師は専門医を目指す。
大学医学部の卒業生の多くは都市部の病院で研修を受け、10年ほど実務経験を積んだ後、資格を取得する。
この資格を取る前に、地方の病院などで1カ月間程度、勤務をさせる制度を導入するのである。

 地域医療で求められる救急医療や総合医療に携わることは、研修医時代に習得したプライマリーケア(初期診療)のブラッシュアップになり貴重な経験となる。
地域のためにひたむきに医療に携わる医師たちと交流することは、地域医療の理解にもつながるはずだ。

 問題は期間だ。できれば1年間が理想的だが、実現は難しいだろう
。1カ月というのは、実現可能性を考えた、ぎりぎりの提案だ。

 宮古病院は東日本大震災時、3カ月ほど全国から支援を受けた。その際、1週間程度の短期支援でも機能することを経験した。
さらに、当院では現在、県立中央病院から1カ月交代で若手医師の応援を受けている。
彼らは救急外来を担当しているが、救急はほとんどが新規の患者なので、外部の医師であっても大きな戦力になる。
数人規模の応援で、3交代制で24時間対応の救急医療体制が取れるのである。

 多くの医師は1カ月なら何とか都合がつくだろう。地方の病院にとっては1カ月であっても貴重な戦力。医師不足対策として実現可能な対策から着手すべきだ。

 (たまきけんじ 岩手県立宮古病院理事、循環器科医師)