病院はなぜ大型化するのか。大型化は患者に何をもたらせるのか。 国内病院グループのトップに大型化の意味を問うた。・・・週刊ダイヤモンド

2012.10.23

特集 頼れる病院 消える病院 (3/5) 
2012.10.27 週刊ダイヤモンド 44~59頁  



Interview 巨大病院グループトップ群像 


病院はなぜ大型化するのか。大型化は患者に何をもたらすのか。 国内病院グループの2強である徳洲会グループと中央医科3グループのそれぞれのトップに大型化の意味を問うた。 


病院よ、甘えるな! 


徳田虎雄●医療法人徳洲会 理事長 


 現在の私は、ALS(筋萎縮性側索硬化症)という難病のために体を動かせず、人工呼吸器をはずすこともできない。 
しかし、知恵を使う仕事なら普通にできる。 
かつて政治活動などで多忙だったころに比べれば、ますます頭は冴え渡り、病院経営と医療の仕事に専念できている。 

 グループ病院を大きく増やしてきた徳洲会だけに、自治体病院の指定管理者になって運営を引き受けたり、もっと買収を増やさないのかと聞かれることが多い。 

 しかし、私はやみくもに自治体病院の運営や買収を増やしたいとは思わない。 
徳洲会では今後5年間で約30病院の建て替えを控えており、専念すべき課題が多いからだ。 
過去、買収した病院もそれほど大きな病院はなく、経営面で大きなプラスになったわけではない。 

 ただし、例外がある。その病院が地域に必要とされ、引き受け手が必要である場合だ。 
このような条件で頼まれれば、徳洲会が手を挙げることもあるだろう。 

 もっとも、多くの自治体病院では「徳洲会が指定管理者になる」といううわさが立っただけでも、身が引き締まり、経営は改善するようだ。 

 自治体病院の多くは「医療は金もうけではない」という口実で経営をサボっている。 
やがて人口は減るのだから、民間病院を含め、10年後、20年後には成り立たなくなる病院が増えるだろう。 

 そもそも日本政府は財政赤字が大きい割に医療全体を甘やかしている。 
民主党が政権を取ったときに知り合いの民主党議員が私に「民主党政権は医療費を上げる」と説明しに訪れた。 

 それに対し、私は「上げる必要はない」と言い切ったが、党内には響かなかったようだ。 
欧州や英国は医療費予算を厳格に引き下げている。日本も欧州並みに削減せざるを得ないはずだ。 

 前年度の各病院グループの業績を見れば増収減益のところが多いが、いずれ増収は止まるし、利益ももっと減るだろう。 
目の前には消費税の増税も控えている。消費税が上がれば、受診抑制も起こるだろう。 
消費税自体の影響も生じる可能性が高い。病院経営はさらに難しくなる。 

 徳洲会は、経営に対する姿勢が厳しいといわれる。しかし、考えてみてほしい。 
徳洲会のような民間病院では、自治体病院のように補助金はもらえない。 
徳洲会が力を入れている離島・僻地や開発途上国の医療を継続するには、厳しい経営を行って、その費用を自前で捻出するしかない。 

 徳洲会の病院はそれぞれの地域で必要とされている存在なのか、患者さんの支持があるのか──。私はいつも、臆病なほどに、それが気になって仕方がない。 

 これまで徳洲会が医師会との対立を繰り返しながら、曲がりなりにも成長することができたのは、患者さんに必要とされてきたからだ。患者さんの支持を失うことが何よりも怖い。(談) 




病院だけで済まない時代 日本最大級の介護施設も 


中村哲也●イムスグループ 理事長 


 地域に愛される病院であるために、ただ病院だけを運営していればいい時代ではない。 
昨年、東京都の入札を経て、板橋区にあった旧東京都立養老院跡地の再開発の一部を任せてもらった。 
2年後に開所するのは、定員200人の特別養護老人ホーム、定員80人の介護老人保健施設を中核とした福祉施設だ。 
通所や訪問のリハビリテーション施設なども併設する。介護施設は運営しているが、ここまで大規模なのは初めてだ。 

 福祉発祥の地に日本最大規模の施設を建設する機会を得て、病院と介護を連携させた総合的なサービスが求められていることを強く認識した。 
高齢者が寝たきりにならない、リハビリに重点を置いた施設にしたい。もっとも入札では健全な財務体質、資金調達力といった面も評価されたようだ。 

 病院経営のテーマの一つに、デジタル化がある。当グループはエックス線画像を担当医だけでなく、東京本部でもチェックして診察の精度を高めている。 
患者さんの待ち時間が短くなるよう、電子カルテも導入済み。経営効率化にもつながるが、患者さんの満足度、利便性を向上させる。(談) 


地域医療の存続に向け都内の名門病院をM&A 

中村 毅●戸田中央医科グループ 副会長 


 当グループは地域完結型の事業展開を志向している。 
地域で産婦人科から小児科、そして老後の医療・介護までを展開できるのが理想だ。 
その実現のためにM&Aは機会があれば取り組みたい。 
依頼は多いものの、買収先の負債状況などとの兼ね合いもあり、なかなか実行には至っていないが、地域の医療の存続のため手がけていきたい。 

 2007年、09年には相次いで東京都内の老舗病院がグループ入りした。地域に根差した名門病院で、住民からの信頼も厚かったが、経営面でさまざまな問題を抱えていた。グループ入りしたことで、物品の共同購入を進めてコストカットを行い、運営ノウハウの横展開も可能となり、経営の健全化が図れた。 

 当グループにとっては別のメリットもあった。近隣に保有するグループの病院と連携することで、建て替えが必要になったときに患者を相互受け入れすることなどにより地域住民への迷惑を極力抑えることができる。病院を“点”で配置せず、“面”で展開することを目指しているからこそ可能なことだろう。(談) 


求められていない病院はニーズある機能に大転換 


中村康彦●上尾中央医科グループ 副会長 


 地域に根差し、揺りかごから墓場まで対応できる病院や施設をグループ内で面展開していくのが基本戦略だ。地域から求められていない病院と判断すれば、地域で不足している機能を持つ施設へと大胆に転換する。9月に開設した横浜なみきリハビリテーション病院は、移転に合わせてリハビリ中心の病院へ切り替えた。2004年に当グループ入りした総合西荻中央病院も、07年に杉並リハビリテーション病院へと名称を変更し、科目も大きく変更した。必要なくなった核磁気共鳴断層撮影装置(MRI)は移設した。単独の病院では、こうした思い切った転換は難しいだろう。 

 さまざまな病院をマネジメントできるのは、米ゼネラル・エレクトリックが導入している「シックスシグマ」と呼ばれる経営管理手法を取り入れて、過去のノウハウを共有しているからだ。すでに導入13年目。救急受け入れ率を約80%へと引き上げた事例、会計の待ち時間を短縮した事例のほか、事務職の残業代ゼロを達成した事例もある。問題に直面したときは、蓄積された過去の事例を参考にスピーディーに解決している。(談) 


経営とカネ 


建て替えラッシュで融資合戦も 銀行が見通す病院の淘汰・再編 


建て替え時期が訪れ、病院の資金需要が増している。しかし、銀行は性急には融資を決めない。彼らは病院のどこをチェックしているのか。また、資金繰り悪化の先には何が待ち受けているのか。 


 近年、地方銀行を中心として医療機関向け貸し出しの専門部署を設置するところが増え、銀行間の融資競争が激化している。 

 高齢社会で患者数が増える中、病院に対する社会的ニーズが萎むことはない。いきおい、病院は、景気の冷え込みによる貸出先不足に頭を抱える銀行にとって数少ない成長業態に映るわけだ。多少の浮き沈みはあるが、医療・福祉機関に対する銀行の貸出残高はこの10年、8・8兆円前後で安定している(図2‐10参照)。 

 一方、病院もこのタイミングで資金を欲している。よりよい治療には最新機器を導入する必要があるなど、もともと病院には装置産業の側面がある。加えて最近は介護分野へ進出するべく、さらなる投資を行おうというところも多い。 

 とはいえ今、病院が資金を欲する最大の理由は建て替えにある。「1980年代に建てられた病院が多いため、5年くらい前から建て替えラッシュが来ている」(銀行関係者)のだ。 

 一病院で数億~数百億円の資金需要が生まれるこのチャンスを逃すまいと腕まくりする銀行が相次いでおり、他行に負けまいと金利を1~2%にまで落として貸し出すことも珍しくない。行き過ぎた金利競争に、「金利上昇リスクをどう考えているんだ」とあきれる声も聞こえる。 

 貸出期間も「地銀は20年も当たり前。まるで住宅ローンだ」とメガバンク関係者は冷ややかだ。公的機関である福祉医療機構の貸出期間が30年などと長いため、単にそれを基準に長期化させている恐れもあるというから悩ましい。 

 しかし、病院融資の歴史が長い銀行ほど「それほどもうかる業態ではなく、ともすると利益率が限りなくゼロに近づいてしまう」と性急な貸し出しを嫌厭する。というのも、「病院は公共財として見られることが多く、経営不振に陥ったからといってすぐに手を引けない」(銀行関係者)ことを重々承知しているからだ。 

 地域の医療を一手に支えているような病院であればなおさらで、タイミングを間違えようものなら銀行の風評リスクを高めるだけ。損失をかぶらないためには、貸し出しの可否や融資の“引き際”に慎重にならざるを得ない。 


銀行が見る10のポイント 医師・看護師の離職に敏感 


 では、銀行は病院の何を見ているのか。図2‐11にまとめたので、以下で主なものを説明していこう。 

 まずは病院の将来性。成長業態とはいえ病院間の競争は激化しており、「差別化できなければ生き残れない」(金融機関関係者)。「今、この分野が国から優遇されている」などと小手先の対策ばかり講じる病院は、その地域になくてはならない存在になれずに淘汰されかねないと見られる。 

 しかし理想ばかり掲げていても経営は行き詰まる。「事務方は発言権を持てないことも多い」(地銀関係者)が、コスト管理をしっかりできる人がいたほうが銀行の信頼は得やすい。何しろ医療法人の一般病院の利益率は診療報酬が引き上げられた今でも「3%程度しかない」(金融機関関係者)のだ。 

 信頼の構築には、戦略について明確に説明し、銀行の納得を得ることも重要になる。それを怠り、「(貸し出しを増やそうとする他行に)チヤホヤされ、危ないと止めても過大投資に走るようだと見方が厳しくなる」(銀行関係者)。やみくもな事業拡大は要注意だ。 

 ただ、病院への適正な貸出額を、「キャッシュフローの7倍程度」(地銀関係者)とする見方もある。もちろん、案件にもよるが、それ以上の借り入れは取り付けにくい場合もある。 

 また、医師や看護師が辞め始めたら、よからぬことが起きている恐れがあると警戒を強めるというから人材のケアにも手が抜けない。そもそも、医師や看護師が不足すれば病院経営が立ち行かなくなるのは自明の理。名簿の提示まで求めることがあるほど銀行はその獲得状況に敏感だ。 

 病院が経営の成り立つ環境にあることも前提条件として必要だ。が、銀行は現状のみならず、将来的にライバルが出現しても耐えられる病院か、患者への対応のよしあしなどについて目を光らせていることも忘れてはならない。 


淘汰・再編時代の到来予感 銀行の甘い顔に油断するな 


 しかしここまで見ていても、診療報酬の引き下げなどで経営が苦しくなる病院は出てくるだろう。 

 特にこれまでは中小企業の救済を目的とする中小企業金融円滑化法の下、返済条件を変更してもらって急場をしのいでいた病院もあったが、銀行も将来の見えない病院に対してずるずると融資を続けるわけにはいかない。今後は事業継承や経営陣の入れ替え、M&Aに乗り出してくるはずだ。 

 銀行は淘汰・再編の引き金を引くキープレーヤーでもある。融資で好条件を提示され、油断している病院経営者がいるなら、一度、銀行の瞳の奥を見たほうがいい。 


銀行はここを見ている! 2-11 銀行が注視する10のポイント 


1 他の病院との差別化ができていない 

2 流行に左右され、小手先の対策ばかり講じる 

3 事務局長など、コスト管理をしっかりできる人がいない 

4 理事長などがやみくもに事業を拡大しようとする 

5 経営不安があり、診療報酬債権を担保として取られている 

6 キャッシュフローの約7倍を超える借り入れがある 

7 医師や看護師が辞め始めている 

8 後継者や、病院の要となる人が不在 

9 周辺地域の人口が減っているなど、一定の患者数が獲得できない 

10 患者への対応の仕方が横柄であるなど、将来的に患者離れが起きそう 


Column 優等生の亀田にもつらい過去 “欠かせぬ存在”で命拾い 


 今年3月に3206病床の増床が決まり、500億円とも試算される新たな資金需要をめぐって、県内どころか近隣の銀行まで沸かせている千葉県。しかし、同県にはこの増床以外でも、貸し出しを行おうと銀行がこぞって集まる医療機関がある。 

 水族館の鴨川シーワールドに程近い、医療法人鉄蕉会が経営する亀田総合病院を中心とした亀田メディカルセンターだ。大勢の患者が訪れ、医師不足にあえぐ病院が少なくない中でも研修医の人気を集める「南房総半島における医療と雇用を支える唯一無二の存在」(地方銀行関係者)である。 

 ただ、そんな亀田も常に順風満帆だったわけではない。鉄蕉会自体も2007年度に10億円の債務超過に陥るなど一時業績不振に苦しんだが、それより深刻だったのが「複数の関連会社に散らばった200億円の負債」(銀行関係者)だったという。メーンバンクとされる千葉興業銀行は「回答は控えさせていただく」としているものの、結局、銀行側はそのうち199億8500万円を債権放棄したといわれているのだ。 

 「千葉興銀がエースを財務担当として送り込んでいる」こともあり、今では経営不安はないと取引銀行は口をそろえる。 

 しかしながら、かつてのいきさつにより、貸出額の拡大に慎重な構えを崩していない銀行があるというのも事実だ。 

 もっとも、そもそも債権放棄をのんでもらえたのは、亀田が地域にとって欠かせない存在だったからだ。そうでなければ、いくら「つぶしにくい」(銀行関係者)医療機関といえども、救われることはなかっただろう。 


Column 東京駅周辺に集まる有名病院 “出店”で富裕層患者を獲得 


 東京駅周辺の一等地に有名病院の附属クリニックが続々と誕生する。 

 聖路加国際病院は10月29日、大手町に附属クリニック、聖路加メディローカスを開業する。 

 これに続いて2013年3月、千葉県で亀田総合病院を運営する医療法人鉄蕉会は、東京建物などが京橋に建設する再開発ビル内に亀田京橋クリニック(仮称)を開業する計画だ。 

 それ以前の06年には、南東北病院グループが著名医師をそろえて、鳴り物入りで丸の内に東京クリニックを開業している。 

 有名病院がなぜ、相次いで東京駅周辺にクリニックを開業するのだろうか。 

 利便性の高い場所だけに、病院への入院患者を集めやすい。入院していた患者のサポートを継続的に行いやすいというのもある。 

 特に、富裕層の外国人や高所得の患者を取り込めるメリットは大きい。外国人の治療や会員制の人間ドックなどは保険外収入であり、収益性の高い運営が見込める。聖路加国際病院や亀田総合病院は医療施設の国際的な認証規格、JCIを取得し、外国人患者への対応に力を入れている。 

 ただ、東京駅周辺は土地代や賃料が著しく高い。その一方で、診療報酬は全国均一であり、医療機関の経営には不向きといわれてきた。 

 事実、東京クリニックは「ここ1年でようやく黒字化したが、開業してから4年間は20億円以上の赤字が出た」(渡邉一夫・南東北グループ総長)という。 

 このため、「有名病院の東京駅周辺での開業は広告的な意味合いが強い」という見方がもっぱらだ。少なくとも、楽な経営というわけではなさそうだ。 


Column ヒマな職場として医師には人気 住民支持なき東電病院の末路 


 はたして東京電力病院を引き継ぐ医療機関はあるのか──。原子力発電所の事故により、厳しい経営合理化を進めている東京電力は10月上旬、傘下の東電病院を売却すると発表した。 

 東電病院は医師や看護師を被災地域での医療支援に派遣していたという理由から、当初は合理化計画の対象にはなっていなかった。しかし、受診できるのは東電社員とOB、社員の家族に限られ、一般に開放されていないという運営内容から存在意義が問われていた。 

 許可病床数は113床。病床利用率は20~30%で推移、病院経営で黒字化の目安といわれる80%を大きく下回っていた。 

 慶應義塾大学病院に隣接していることもあり、常勤医師12人は大半が慶應出身者だ。非常勤医師も慶應からの派遣が多く、「ヒマで研究に集中できた」「頼めば最新の医療機器をどんどん買ってくれた」として人気の職場だった。 

 東電は「医療法人などが買い取って病院を継続してくれることが望ましい」としているが、病院として継続できるかは微妙だ。 

 というのも、東電病院を買い取っても113床の病床を確保することができないのだ。 

 「東電病院は一般向けの病院ではなかったため、他の医療法人などが買収しても新規の病院開設として申請し直す必要がある」と東京都医療安全課は説明する。都内で新たに病床を確保することは一般的に難しい。仮に新規開設できても、慶應義塾大学病院という有名病院の隣で100床程度の小さな病院を運営するのはなかなか難しいだろう。 

 東電社内では「慶應が引き取るのが最も望ましい」という希望的観測が流れている。