インタビュー 日本医師会・横倉義武会長――「日薬は調剤のあるべき姿の議論を」

2012.10.09

 

インタビュー 日本医師会・横倉義武会長――「日薬は調剤のあるべき姿の議論を」 
2012.10.05 薬事ニュース   


 日本医師会の横倉義武会長は本紙のインタビューに応じ、今後の医療のあるべき姿と日医の役割、そしてTPP(環太平洋経済連携協定)対応をはじめとする各課題への取組みなどに対して見解を示した。 

そのなかで、定例会見における所信表明でも言及した調剤報酬の問題について、一部の調剤薬局チェーンが高い収益性を挙げている現状を問題視。 

日本薬剤師会に対して「職能団体として調剤のあるべき姿を会内で議論してほしい」と訴えた。 


――まずは今後の医療のあるべき姿について、会長ご自身の率直なお考えをお聞かせ下さい 
  
国民皆保険体制がスタートしてから今年で51年目を迎えた。日本の反映を築く礎となったのは、ある意味で国民皆保険といってもいい。 

誰でもきちんと治療を受けられる仕組みの確立が、日本の経済成長に繋がってきたと思う。 
今後に向けても、経済格差によって受けられる医療が異なることがない社会づくりを、日医として主張していかなければならないし、また主張することが国民の生活に安心を与えると信じている。 
  
さらに、医療費の伸びを問題視する声も頻繁に挙がっているが、実際には国際比較でみると、日本の総医療費の対GDP比は先進国の中でかなり低い。 

つまり、日本の医療制度は比較的低い負担で高度な医療を提供しているといえる。 
このように他国にはない日本の医療制度の良い点を、アジア諸国にもお示しすることができれば、同じく高齢化が進んでいるアジア諸国にとってもよい参考になるのではないか。 
  
日本でも10年後には、いわゆる”団塊の世代”の方々が後期高齢者になる。 
団塊の世代の方々は集団就職などで、東京や名古屋、大阪などの大都市に職を求めて移ってきて、そのまま周辺地域に住んでいる方も多い。 

高齢化のスピードが速く、医療施設数が足りなくなるため、従来の医療提供体制で対応できるかと言えば難しくなってくるかもしれない。 
そうなると地域の中で、様々な医療機関・医療職種との連携によって対応する仕組み作りが必要になってくる。 
  

――会長選挙への立候補の表明以来、一貫して「地域医療の充実」を訴えてこられました 
  
地域間の格差がまだある中で、どのように医療提供体制を充実させていくかが重要な課題だ。大きく分けて言えば、今後に向けて非常に高齢者が増える地域と、すでに高齢化が進展している地域がある。 

今後高齢者が増える地域では、今から施設を設けるといった施策だけではとても対応できない。 
医療と介護の連携がとても重要になってくるし、在宅医療をバックアップする仕組みも求められてくる。 

 一方、すでに高齢化が進展している地域では、様々な施設が整備されてきているものの、人口減少に歯止めがかからない過疎地と呼ばれるような状態にある。 

しかし、そのような人口減少が著しい地域でも、生活している住民にとって医療は当然必要。 

そのためにも、必要な医療がしっかりと提供できるような医療従事者の確保などの条件整備に力を注がなければならない。 
このように、それぞれの地域に合った医療体制の整備に向けて、問題点を集約して国の政策に反映させていくのが日医の役割だと思っている。 


――その上で今後の日医のあるべき姿についてもご見解をお示し下さい 
  
日医では現在、国民の皆さんに理解を深めて頂くために「綱領」をつくりたいと考え、委員会を立ち上げて検討に着手している。 
7月に第1回の委員会を開いて議論をスタートさせた。日医は来年4月の公益法人への移行に向けて準備を進めているが、そのときに「綱領」を発表できればと考えている。 
  
政治家やマスコミは日医について、圧力団体、利益団体という言い方をするが、我々は今まで、医療界の利益を追求する主張をしたことはない。 
日医はこれまで国民の医療・健康のための政策提言をしてきたのであり、このスタンスは変わっていないし、今後も絶対に変わることはない。 

そういう意味ではこれらの方々に、利益団体などと言われることには憤りを感じる。 
  
昨今では、医療を営利化して利益を生み出したいと考える新自由主義的な発想が広がりつつあるが、日医としては、医療が社会の共通資本であり、普遍的な存在であることを今後も強く主張していく。 

新自由主義的な考えに基づく医療は、経済的な理由で受けられる医療が制限されるため、国民にとって大変不幸な事態になるからだ。 
それはどのような経済状況下であっても、我々は訴え続けていかなければならない。 


――こうした新自由主義の流れに対抗するためには、政治面での活動も重要になってきます 
  
まずは日医の活動を、国民の皆さんに理解・支持して頂くことが最も重要だ。 
その次に政治面の活動になると考えている。各政党との距離感に関しては、与野党分け隔てなく交渉するスタンスを継続していく。 
次期参議院選挙での候補者擁立についても、現在会内で議論している最中だ。 
基本方針としては、日医の考える医療政策の実現に向けて、協力して頂ける方を支援するということで準備を進めていきたい。 


――TPP(環太平洋経済連携協定)問題や社会保障・税一体改革関連法案など、日医が直面する各課題についてもお考えをお聞かせ下さい 
   
米国や日本政府はTPP交渉に参加したとしても、国民皆保険を守ると言っているが、これまでも米国からの要求をみても中医協における薬価決定プロセスなどが守られる確証は全く無い。 
また、株式会社の参入や薬価、医療技術が対象に載せられる懸念もあることを踏まえれば、現時点でTPP交渉に参加することは賛成できない。 
  
一体改革関連法案に関しては、消費税増税による増収分をすべて社会保障に充てるのであれば支持する。 

日本の国家財政を考えると、ある程度は国民の方々にも等しくご負担を頂かなければならない。 
しかし、一体改革関連法案の文言の中には、消費税収を成長戦略の各課題や公共事業に配分される方向性が示されているなど、幾つか危惧せざるを得ない箇所があり、そこについては今後の行方を注視していきたいと考えている。 


――中央社会保険医療協議会における診療側委員の連携も欠かせません 
  
今は日医の推薦として鈴木邦彦常任理事をはじめ、京都府医師会の安達秀樹副会長、全国医学部長病院長会議の嘉山孝正相談役の3人の委員を出している。 

安達先生は日医の社会保険診療報酬検討委員会の一員であり、執行部にこそいないものの、実質的に日医の考えを理解して中医協に出て頂いている。 
薬価専門部会での安達先生の主張は、日医の主張と受け取って頂いても結構だ。 

大学病院代表の嘉山先生とも、我々はしっかりと意見交換をしている。そして2人の先生には、鈴木常任理事をサポートして頂きたいとお願いし、約束も頂いているので3人のチームワークも以前と比べてかなり良くなっていると思う。 


――ここで医薬品産業全般についてお聞きします。中医協では現在、次期薬価制度改革に向けて、長期収載品の薬価のあり方などに関して議論を進めています 
  
まず製薬業界に対しては、外国企業に負けないだけの開発力を備えてほしいと思っている。 
日本の製薬企業は武田薬品工業を除き、世界の売上高ランキングの上位には載っていないが、各社が協力し合えばトップ3に入るぐらいの力を持っている。 
製薬企業の高い収益性に関しては、医療機関の側でも様々な意見があって然るべきだと思うが、私自身は製薬企業が儲け過ぎているという批判をしたくない。 

むしろ確保した高い収益を開発に投資し、外国企業を上回る力を身につけてほしい。 
  
その一方で、長期収載品の薬価の問題については以前から、特許が切れた段階で後発医薬品と同じ価格にまで下げるべきと主張してきた。 
そうすれば、わざわざ後発品を使用する必要性も無くなる。 


――最後の質問ですが、会長は就任後の初の定例会見で調剤医療費の高い伸び率を問題視され、「医薬分業が患者のためになっているのか検証が必要だ」とご発言されました。昨今の調剤を取り巻く現状についてもご見解をお示し下さい 
  

我々は医療に携わる者として、社会保障費を財源としながら活動している。従って常に自分達の行動に対する検証が必要になる。 

社会保障を財源とする医療職種として、一部の調剤薬局チェーンが過剰な利益をあげている現状はいかがなものか。 

日本薬剤師会には職能団体として、調剤のあるべき姿を会内で議論してほしい。調剤報酬の議論に関しては、まだ我々が踏み込む段階ではないし、もう少し様子を見たい。ただ、患者側からも利便性の面で、院内処方を望む声が出始めている。日薬も検証も含めしっかりと考えて対応されなければ、大変な問題に発展するのではないかと、医療職種の仲間の1人として危惧する。