新城市民病院10年ぶり黒字 「医師引き揚げ」回復に努力

2012.08.01

 

ニュースを問う 稲垣太郎 (新城通信局) 新城市民病院10年ぶり黒字 「医師引き揚げ」回復に努力 
2012.07.29 中日新聞  


 医師不足で救急車の受け入れなど診療の縮小を余儀なくされ、典型的な医療危機に陥った愛知県新城市民病院の単年度収支が昨年度、十年ぶりに黒字に転じた。 
黒字額は四千六百万円余りとわずかだが、医師の大量引き揚げに遭った自治体病院がどん底からはい上がった努力の証しで、その意義は大きい。 

 「やっとここまで来たかという感じですね」。再建を託されて二〇〇六年四月に着任した綿引洋一院長(56)はそう振り返った。 

 新城市民病院は奥三河地方の玄関口に位置する基幹病院だ。少子高齢化に住民の流出が重なって、急激な人口減に苦しむ地域を抱える。 

 高齢者入院減る 

 単年度収支が〇二年度から赤字に転落したのは、介護保険制度導入で高齢者の入院が減ったため。 
その後も診療報酬引き下げで赤字が続いた。さらに国が〇四年度に新たな医師臨床研修制度を導入するのを見込み、大学医局が派遣していた医師の引き揚げを始めたのが決定的だった。奥三河で唯一の産科も休止、医師不足が頂点に達した〇六年四月には時間外の救急車の受け入れができなくなった。 

 病院側は、退職者の不補充や経費節減などで支出を抑える一方、県内の自治体病院の中で下位だった医師の給料を上位に改善。 
市は一般会計から市民病院に毎年度、五億円から八億円近い額の繰り出しを続けてきた。昨年度は約六億六千万円を投じた。 

 この金額について「多すぎる」と指摘する専門家もいて、単年度収支の黒字化も意味がないという見方もある。 
だが私はそうは思わない。医師不足に苦しみ、かつて取材した群馬県の自治体病院の院長が「市が道路や橋を造ることには何も言わないのに、市の予算から病院に繰り出すことにどうして批判的なのか」と吐き捨てるように言ったのが強く印象に残っている。 

 繰り出しは国が定めた基準を基に自治体が裁量で行うものだ。新城市民病院と同様に医師の大量引き揚げに遭い、以前取材した千葉県銚子市の市立総合病院は、市が財政難を理由に繰り出しを続けられないとして一時休止を余儀なくされた。 

 公営存続を貫く 

 新城市の穂積亮次市長は一貫して市民病院を公設公営のまま存続させる方針を貫いた。 
繰り出し額の多さについて「自治体としてでき得る限りの最大限のことをやってきた。市民病院の収支が改善し、生きた金になっていると認識している」と話す。 

 このような背景の中、一一年度の収支が黒字になった要因は主に二つだ。一つは、愛知県から派遣される自治医科大卒業医師の増員。自治医科大卒業医師は卒業後九年間の義務年限中、出身都道府県の公立病院を中心に地域医療に従事することが求められる。一〇年度は二人だった派遣を一一年度は四人に増やしてもらい、四人で総合診療科を担当し、平日夜九時まで救急車を積極的に受け入れた。 

 〇一年度には三十五人いた常勤医が〇六年度には二十一人まで減り、その後は二十人前後で推移して増えていないが、同じ自治医科大卒の医師で一つのチーム医療ができるようになった。 

 もう一つはこれまでゼロだった整形外科の常勤医を独自に一人確保できたこと。高齢者の多いこの地域で、骨折などの患者を受け入れるためには常勤の整形外科医が必要だった。この二つが外来、入院とも患者数を押し上げた。 

 だが安心はできない。市民病院に大学医局(浜松医科大)から医師が派遣されるのは外科と泌尿器科だけ。自治医科大卒の医師の派遣が減ったり、医局派遣以外の常勤医が辞めれば再び赤字に転落する可能性がついて回る。綿引院長は「県から派遣され、義務年限が明けた自治医科大卒の医師に定着してもらうのが課題」と言い、本年度、初めて一人が残った。 

 自治体病院にとって、医師は「来る」ものではなく「来てもらう」時代になった。穂積市長が言う「生きた金」の使い方も含め、医師が定着してもらう地域になるにはどうしたらいいか、住民も一緒に考えたい。