精神科診療、民間頼み 輪番制で対応、悩みは医師不足 /大分県

2012.08.13

(リポートおおいた)精神科診療、民間頼み 輪番制で対応、悩みは医師不足 /大分県 
2012.08.12朝日新聞 


 県立病院に精神科の設置を求める声が高まっている。 
夜間に重症患者を受け入れる民間病院は医師不足に悩まされ、比較的軽い患者を夜間・休日に診療する態勢も整っていない。 
都道府県立の病院に精神科がないのは全国で大分など3県だけ。 
県も常時対応できる救急態勢の必要性を認めるが、現状は民間頼みで精神科設置の動きは見えない。 


 自分や他人を傷つける恐れがあるとして、精神疾患患者の保護を求める通報が増えている。 
2003年度は全国で1万1776件だったが、10年度は1万7033件まで増加。 
県内でも03~05年度は年間60~70件台だったが、11年度は131件で、ほぼ倍増した。 

 精神保健福祉法は都道府県に精神科病院の設置を義務付けているが、大分、佐賀、鳥取の3県の県立病院には精神科がない。 
ただし、佐賀と鳥取には230~550床の精神科病床を備えた国立病院がある。 

 県内の国立病院と言えば大分大医学部付属病院に30床、国立病院機構別府医療センターに40床。大分大は9月、身体合併症のある精神疾患患者用に5床増やす予定だが、まだ少ない。 

 県内では民間病院が精神医療の多くを担う。重症患者を入院させる措置入院は、県の指定を受けた民間病院が輪番制で24時間対応している。 

 だが、県精神科病院協会の山本紘世会長=鶴見台病院(別府市)理事長=は指摘する。 
「精神科は他の診療科と比べて診療報酬が低い。 
医師不足で、夜間も対応できる民間病院は限られる。こうした不採算部門は政策医療として行政が担うべきだ」 


 ◆救急態勢作り、喫緊の課題 

 措置入院に至らない軽い症状でも、夜間や休日に対応できる病院が県内にはないという現状に、患者や家族は不安を感じている。 

 精神疾患患者の家族でつくる県精神保健福祉会には「興奮した患者が同居中の父親に大けがをさせた」「病院に行ったが夜間の宿直医がおらず、朝まで職員に付き添ってもらった」など、様々な事例が会員から寄せられる。 
会長の藤波志郎さん(72)は「患者の症状が、いつ悪化するか分からず、苦しむ家族は多い。24時間対応できる病院があれば、安心できる。 
その役割を果たすのは公立病院ではないか」と訴える。 

 けがや他の病気を併発した患者への対応も課題だ。 

 年明けに「男性がマンションから飛び降りた」という通報が県内の警察署にあった。 
患者は大分市内の救急病院に運ばれ、一命を取り留めた。けがなどの容体が落ち着いてから、市内の精神科病院に転院した。 

 県内の精神科病院のほとんどでは外科的治療が受けられない。 
この警察署の担当者は「患者に無理な移動をさせずに入院させられるのが望ましい。 
外科も精神科も兼ね備えた病院があれば利点は大きい」と話す。 

 厚生労働省の外部有識者の「今後の精神保健医療福祉のあり方等に関する検討会」が09年にまとめた報告書には「総合病院精神科では、精神・身体合併症の入院診療を提供することが期待されている」とある。 

 だが、実現は容易ではない。 
県内の精神科の病床数は5250床で、県の医療計画が定める4321床を超えている。 
これ以上、増やすには、薬物による中毒性精神疾患や身体合併症などの特殊な診療機能を持たせて、厚労省の許可を得る必要がある。 
精神科救急医療に8人以上は必要とされる医師の確保も難題だ。 

 なぜ、大分には県立の精神科病院がないのか。県障害福祉課によると、その理由や経緯は不明という。 

 「法律に義務付けられた病院がないのは事実。 
24時間の救急態勢作りも喫緊の課題だ」と池永哲二課長。昨秋には応急入院の輪番制を整えた。 
だが「24時間態勢」に向けた次の具体策は決まっていないという。 

 (新宅あゆみ) 


 ◆キーワード 

 <精神保健福祉法による入院>  
精神疾患患者の入院は、本人の同意に基づく「任意入院」が原則だが、症状の重さによっては強制的に入院させる制度もある。 

(1)自分や他人を傷つける恐れがある場合、2人以上の医師が必要と診断すれば本人や保護者の同意なしで入院させる「措置入院」 

(2)傷つける恐れがなくても、すぐ入院しないと医療や保護に著しい支障が出る場合、本人や保護者の同意なしで入院させる「応急入院」 

(3)医療や保護のため入院が必要と認められる場合、保護者の同意で入院させる「医療保護入院」がある。