第2特集 消費増税 残された問題点】--非課税取引--医療機関が負担する「損税」 増税分は診療報酬上乗せも

2012.07.28

 

第2特集 消費増税 残された問題点】--非課税取引--医療機関が負担する「損税」 増税分は診療報酬上乗せも 

2012.07.28 週刊東洋経済 

【第2特集 消費増税 残された問題点】 非課税取引 

医療機関が負担する「損税」 増税分は診療報酬上乗せも 

 消費税には、医療や教育など非課税扱いされている取引が13項目ほど存在する。社会政策的な配慮や「課税になじまない」という理由からだ。 

 ところが、今回の消費増税に当たり、日本医師会をはじめとする医療関係団体から社会保険診療にかかる非課税扱いを改め、課税取引にするよう求める声が上がっている。 
「非課税取引となっていることで、高額の設備投資を行う医療機関を中心に“損税”となっている」という。 

非課税でも仕入れに課税 医療機関に実質的な負担 

 仮に、医療が通常の課税取引と同じ扱いになった場合、患者は医療機関の窓口で支払う自己負担割合に、5%(増税時には8%、もしくは10%)分の消費税を上乗せして支払うことになる。 
安くはない医療費の負担が消費税分増えるとなれば、大きな反発が予想される。 

 左ページ図のように、通常の課税取引と非課税取引は、仕入れにかかった消費税負担を消費者に転嫁できるかどうかで大きく異なる。 
消費税率が5%の前提で、製造業者(卸)、小売店(病院)、消費者(患者)の3段階から成る取引を考えてみる(3000円分の商品の購入、あるいは治療を受ける場合を想定)。 

 製造業者から1000円で商品を仕入れ、小売店は3000円で消費者に販売するとしよう。 
通常の課税取引の場合、小売店は1000円の5%分、50円を上乗せした価格で仕入れ、消費者に対しては売価3000円の5%、150円を上乗せして販売する。 

 製造業者が納税する額は、小売店に上乗せ販売した50円。小売店が納税するのは、150円から50円を差し引いた100円だ。 
小売店は消費者から預かった税金(150円)から、自分が仕入れに際して負担した税金(50円)を差し引いて(控除して)、税務署に納税する。 

 これに対して、社会保険診療のような非課税取引では、患者から消費税を預かっていないので、仕入れに際してかかった消費税(この場合、50円)を控除できない。 
課税取引では消費者が消費税を負担するが、非課税取引では、医療機関が実質的な消費税の負担者になっている。 

 その結果、通常の取引では売り上げから仕入れを差し引いた利益は2000円であるのに対し、非課税取引では仕入れにかかった消費税50円分を負担することになり、病院の利益は1950円に目減りする。 
この50円分を、医療団体側は「損税」だと主張している。 

 こうした実情について、全国約1000の医療法人で作る日本医療法人協会の伊藤伸一副会長は、「消費税の仕入れ税額控除分を病院が不当に負担させられている。 
このままだと消費税のために医療機関が崩壊し、ひいては地域医療も守れなくなる」と批判する。 

 日本医業経営コンサルタント協会が昨年出した推計によれば、1年間の損税負担は診療所で2018億円、病院で1974億円に上る。 

 いったい何が問題なのか。 

 厚生労働省や財務省はこれまで「消費増税分は診療報酬に反映されており、損税は存在しない」という立場をとってきた。 
1987年の消費税創設時と97年の消費税率引き上げ時には消費増税分を加味し、診療報酬をそれぞれ0・76%、0・77%ずつ上乗せ改定した。 

 しかし医療機関側は、「合計36項目の診療報酬が加点されたが、次の年以降は加算分が減額されてしまっている。 
補填分がどこにどれくらい入っているのか誰も証明できない仕組みだ」(伊藤副会長)と強く反論している。 

 同じ非課税取引であっても、医療が教育などと違う点は、医療サービスの対価である価格が公定価格であり、2年に一度の診療報酬改定で決められる点だ。 
つまり、医療機関側に価格決定の自由度がない。 

 売価に反映できる十分な競争力があれば、市場取引の中で、仕入れにかかった消費税負担を吸収できるともいえる。 
しかし、医療サービスの場合は、こうしたことは不可能だ。 

 この医療機関の負担する消費税問題をテーマに、中央社会保険医療協議会では6月から「医療機関等における消費税負担に関する分科会」を設け、議論をスタートさせた。 
消費税に関する過去の対応と医療機関の消費税負担の実態、さらに2014年4月の診療報酬改定で、どの程度消費増税分を反映させるかが検討される。 

再び診療報酬見直し増税で医療費も増加 

 伊藤副会長は、「今まで存在しないといわれてきた問題が正式にあると認められ、実態調査が約束された。ものすごく大きな一歩だ」と高く評価する。 

 6月に開かれた初回会合では、保険者代表の委員から、「国民に消費税相当分を診療報酬で支払わせる仕組みであること自体が非常に問題。 
ある意味で国民をだましているのではないか」(健康保険組合連合会の白川修二専務理事)という激しい声も飛び出した。診療報酬改定をめぐって、普段激しく対立する支払い側と医療機関側の委員が、こと消費税に限っては足並みをそろえるという「呉越同舟」の不思議な光景も見られる。 

 医療機関の負担する消費税のあり方は、司法の場でも争われている。 

 兵庫県の病院理事長ら4人が原告となり、国を相手取った国家賠償訴訟を10年9月、神戸地方裁判所に起こした。訴状などによると、原告は「現行の消費税法の社会保険診療についての規定は違憲であり、病院の負担は受忍限度額を超えている」などと主張。 
国に対して4000万円を支払うよう求めている。 

 原告の一人で、兵庫県民間病院協会の吉田耕造会長は、「病院の利益率は2~3%もなく、急性期医療などをしっかりやればやるほど赤字になる。消費税がこれ以上引き上げられると潰れてしまう」と訴える。 

 「訴訟は、問題を国民にアピールした点で大きな意義がある」──。医療関係者がかたずをのんで見守る判決は、10月16日に言い渡される。