果たして大学病院は無用の長物か?

2012.07.02

 

果たして大学病院は無用の長物か?(その11)ある地方大学元学長のつぼやき 

鈴鹿医療科学大学元副学長、三重大学元学長、国立大学財務・経営センター理事長の「つぶやき」と「ぼやき」のblog(引用させて頂きました) 

2012年03月07日 | 医療 10回にわたって大前研一氏の週刊ポスト誌2月10日号の記事に対するコメントを書いてきましたが、Dさんから以下のようなご意見をいただきました。 

1)内容が豊富で、しかも長文になってきましたので、ある段階で、大前氏の記事内容の問題点とそれに対する先生のコメントを簡単にまとめて頂けると有難いのですが、如何でしょうか? 

2)戦国時代に城を攻める際、一箇所退路を設けておいた方が見方の被害が少ないと言われています 
。先生のブログの中で、大前氏の意見を認められているという表現もされていますが、どうなんでしょうか? 

Dさんありがとうございます。言いたいことは今までのブログでお話しましたが、10回にもなると、言いっぱなしではわかりにくいですね。 
それと、Dさんのおっしゃるように、大前氏のおっしゃることにすべて反対というわけではありませんので、その点も整理しておかないと、読者には分かりにくいでしょうね。 

その前に、大前氏の週刊ポストの最後の文章について、まだコメントが終わっていませんでした。 

「とにかく医師不足の問題は文科省や大学に任せていたら、是正できない。根本的な解決策は、厚労省が実務面から市場原理で医師を最適配分する仕組みを作り上げることに尽きるのだ。」 

となっています。実は、それまで書かれていたことを全く読まずに、これだけを読めば、私は大前氏の意見に基本的に賛成です。 

医師不足の問題を文科省と大学だけで解決できないのは大前氏のおっしゃる通りです。ただし、これは、最初からあたりまえといえばあたり 
まえですね。医師不足を含めて医療政策に責任を持つ官庁は厚労省であり、文科省は教育や研究が管轄ですからね。 
しかも、大学医学部の学生定員を変えることも、文科省だけではできません。 
厚労省が医師数抑制政策をとり続けてきたことは、前のブログでお話しましたね。 

だから、大前氏がそれまでの文章で、医師不足や医師偏在の問題について、文科省や大学病院が何もできないことを批判するのは、そもそも筋違いということにもなります。 

平成17年前後に日本で地域医療が問題となった時に、最初は大学病院が槍玉にあがりました。 
本来なら、医師不足は厚労省の管轄なのに、不思議なことに国会で文科省の役人が答弁をしていたことを思い出します。 
私も、当時、厚労省出身の方から大学病院の責任だというようなことを直接言われたこともあります。 

また、一部の厚労官僚の方は、“医局”が研究のために医師をプールするので、地域の医師偏在問題が解決しない、と考えておられた節があるように感じています。今回の記事の大前氏の大学病院批判と同じ考え方のように思えます。 

そして、厚労省の責任の下で実施された、平成16年の新医師臨床研修制度により若手医師の流動化が起こり、特に地方大学の医局が弱体化しました。 
つまり、医局の医師プールが減少して、結果的には大学外へ医師が放出されたわけですから、一部の厚労官僚の方が期待しておられた通りの結果が得られたことになります。 

ところが、“医局”が弱体化して実際に起こったことは、地域の医師不足の解消ではなく、逆に、地域病院の医師不足のさらなる悪化でした。 
そして同時に、大学の研究力も低下することになりました。 

もし、厚労省が、新医師臨床研修制度を実施する前に医師数を増やしておけば、そして、大学から全国へ放出された若手医師が、地域病院へ赴任する何らかの別の仕組みを確立しておけば、地域病院での医師不足は防ぐことができたかもしれません。 

ただし、当時は誰もそのようなことが起こると想定していませんでした。いわゆるthe law of unintended consequencesということなのでしょう。http://en.wikipedia.org/wiki/Unintended_consequences 

今、東日本大震災の被災地の病院での医師不足が問題となっています。 
短期間の医師ローテーションによる医療支援は全国の大学病院や地域病院が協力してつないできましたが、恒久的な医師の支援となると難しいようです。 
昨日の朝のNHKニュースでも女川町の病院の医師不足問題が取り上げられていました。 
医師や病院の善意に頼るのではなく、何らかの仕組みが必要であると。 

まったくその通りですね。医学部定員増の効果が出るのはまだ数年先ですし最初に地域病院での医師不足が問題化してからずいぶん経つのですが、従来の“医局”に代わる有効な医師供給システムは、未だに確立されていません。 

大前氏の最後の一文である 

「根本的な解決策は、厚労省が実務面から市場原理で医師を最適配分する仕組みを作り上げることに尽きるのだ。」 

には、まったく賛成です。 
ただし、厚労省だけでも解決しなかったわけですから、医局が弱体化したとはいえ、大学も協力しないといけないし、地方公共団体の協力も必要だと思います。 

それに、医師不足の根本的な解決策は、医師数を増やすことですから、それも加えたいですね。 

 また、市場原理を活用した、あるいは市場原理に逆らった経済的インセンティブの付与(つまり皆の行きたくないところへ行く医師の給与を上げる)とともに、何らかのマイルドな規制的な仕組み、たとえば、若い時期に短期間の遠隔地勤務を義務付けるような仕組み(例えば専門医の資格要件として遠隔地経験を加える)などを組み合わせることも必要なのではないかと、私は思っています。 

 もし、最後の文章を私が書くことが許されたなら 

「根本的な解決策は、厚労省と文科省および地方公共団体が協力して、実務面から、医師数を増やすとともに、市場原理に各種のインセンティブを組み合わせることで医師を最適配分する仕組みを作り上げることに尽きるのだ。」 

というような感じになるでしょうか。 

 次回は、Dさんのご要望に応えて今までお話したことを整理することにしましょう。 

(本ブログは豊田の個人的な感想を述べたものであり、豊田が所属する機関の見解ではない。)