庄内医療連携座談会 庄内は一つ、連携強化へ

2012.06.08

庄内医療連携座談会 庄内は一つ、連携強化へ 
2012.06.07 山形新聞 

 人口減少社会の本格到来や少子高齢化の進行など近年、地域医療を取り巻く環境は大きく変化。 
高齢化や医療技術の高度化に伴い、医療費は年々増え続け、医師、看護師の不足も深刻化している。 
多様化する県民の医療ニーズに応え、充実した医療を提供し続けるには、地域の医療資源を有効活用し、より効率的な医療システムを再構築していくことが不可欠だ。誰もが、いつでもどこでも適切な医療サービスを受けられる体制を確立するため、庄内地域の医療連携をどう築いていくか。 
関係者に課題と今後の展望を聞いた。 


【現状と課題】厳しさ増す病院経営-投資重複避け将来に備え 

 -まず庄内地域の医療の現状と、抱える課題をお聞きしたい。 


 栗谷 公立病院である日本海総合病院も鶴岡市立荘内病院も、病院経営を地方交付税に依存している部分が大きい。 
今後、国の財政赤字が拡大した場合に、地方交付税の行方が気掛かりだ。 
緊縮財政が不可避になったときに備え、庄内の地域医療が生き残るためのモデルを早急につくっていく必要がある。 

 酒田地区は、日本海総合病院と医師会との医療連携が比較的うまくいっている。 
県立病院と市立病院が統合し、それぞれの病院では互いに不足していた医師の数が合算されたほか、新たな診療分野の医師を迎えることもできた。 
経営面でも統合のメリットは大きかった。 

 課題は、高齢化、医療の業務拡大に備え、これからの投資をどう進めていくかだ。 
投資の重複を避けるためにも、2次医療、3次医療を庄内全体で進めるべきだ。 
北庄内、南庄内の中核病院となっている日本海総合病院、荘内病院は運命共同体で、どちらかが立ち行かなくなれば庄内の地域医療は大崩壊してしまう。 
そうならないため、今から備える必要がある。 


 三科 一番の課題はやはり医師不足。人口10万人当たりの医師数(2010年12月末現在)を見ると、庄内地域は176・4人で県平均221・5人、全国平均230・4人を下回っている。 
酒田地区の方が鶴岡地区よりも医師の数が多いが、両地区とも県平均と比べ人口10万人当たりで40~50人は少ない状況だ。 
少ない医師をどう増やしていくか、あるいは少ない医師でどう医療水準を確保していくかを考えなければならない。 

 鶴岡地区では、救急医療について「地域連携パス」の導入などにより、医療施設の機能分担が進められているが、私個人としては全国的に外科系の新規参入医師が少なくなってきていることを懸念している。 
このままでは10年後、鶴岡地区でがんの摘出手術ができなくなるのではないかとさえ心配される。 


 本間 2008年4月に県立日本海病院と市立酒田病院を再編統合し、地方独立行政法人山形県・酒田市病院機構が誕生した。 
二つの医療資源が統合したメリットを今、地域の方々が感じている。 
二つの病院が共存していたならば医師の数も今ほど確保できず、市民への医療サービスの提供もスムーズにはなっていなかっただろう。 

 酒田地区では11年4月に酒田地区医療情報ネットワーク協議会を立ち上げた。 
電子カルテを使い、日本海総合病院などからの開示情報を46診療所で共有している。 
登録患者数は1年間で3千人を超えた。 
また、病院機構と医師会、酒田市が協力し、日本海総合病院の中で、夜間の急病に対応する地域連携平日夜間診療を実施しており、日本海総合病院を中核にスムーズな医療連携が図られていると言える。 

 課題は看護師不足。酒田、鶴岡両地区医師会のアンケート結果で、診療所の約4割が看護師、准看護師の不足を感じており、地域内で絶対数が不足している。背景には県内、特に庄内における看護師や准看護師の養成施設が少ないことが挙げられる。Uターン組の定着率向上などを含め、抜本的な取り組みが急務だ。 


 三原 鶴岡地区ではここ数年、在宅医療の充実に力を入れている。訪問看護や訪問リハビリ、訪問入浴を行う在宅サービスセンター、介護老人保健施設「みずばしょう」、ケアプランセンター「ふきのとう」、地域包括支援センター「つくし」、湯田川温泉リハビリテーション病院など、医師会が介護系施設を運営。08年度からは「緩和ケア普及のための地域プロジェクト」の地域に選定され、11年度からは在宅医療連携拠点事業室を開設して多職種の連携を支援している。 

 課題となっているのは病院内科医の不足と、救急医療を担う病院勤務医の疲弊。高齢化が進むにつれ、在宅、施設での「看(み)とり」をどうするか、医療と介護の連携をどう充実していくかも考えていかなければならない。 


【克服に向けた対策】在宅の拠点づくり必要-地域医療の集約一つの手法 

 -課題克服のため、具体的に取り組んでいることがあれば紹介してほしい。 


 栗谷 厚生労働省の推計では、2015年に「ベビーブーム世代」が前期高齢者(65~74歳)に到達し、25年には高齢者人口がピークになる。 
一方、日本国債は、わずかな金利の上昇で利払い負担が大幅に増加するリスクが高まっており、債務残高の増加や一般会計収支へのしわ寄せが懸念されている。行政も財政難に苦慮しているが、地域医療も国の行く末と財源を見据えながら対策を考えないといけない。 


 三原 効率化という意味では、在宅医療はとても非効率で、患者にどこかに集まってもらい、そこに訪問看護師や介護士などが訪れる仕組みにしないと合理的なケアはできない。 
今の在宅医療システムは限界があり、そこでの「看とり」は増えていかないだろう。 
そうなった時、まちのどこかに在宅の拠点をつくり、給食や介護などのサービスを提供することを考えなければならないだろう。増加する空き家を活用するのも一つの方法だ。 


 中目 日本の医療費はこれから毎年1兆円ずつ増えていく。この財源をどう確保していくかは国全体で考えなければならない。 
これまで医療費は聖域化されてきたが、財源不足が深刻化すればそうはいかない。 
医療費削減には、地域医療の集約も一つの手法になるだろう。 


 本間 酒田には今、お産ができる医療施設が日本海総合病院を含め二つしかない。 
1年間に庄内で出生する約2600人のうち7割は鶴岡市内の産婦人科医を利用している。 
交通アクセスが便利になり、鶴岡が庄内一円の産婦人科、新生児医療を担っているのが実態だ。 

 医師が各専門医に細分化されている現在、一つの病院で全ての診療科目をそろえるのは不可能に近い。 
県立日本海病院と市立酒田病院が統合する前、われわれ開業医などは、それぞれ専門医に患者を紹介し、対応してきたが、これと同じように日本海総合病院と荘内病院を中核に庄内一円で医療ネットワークを構築できないか。 
病院を経営する上での課題はあるが、県がスーパーバイザーになって実現を目指す必要がある。 


【話し合った人たち】(順不同) 

県知事 吉村美栄子氏 

地方独立行政法人山形県・酒田市病院機構理事長、日本海総合病院長 栗谷 義樹氏 

鶴岡市立荘内病院長 三科 武氏 

酒田地区医師会長 本間 清和氏 

鶴岡地区医師会長 三原 一郎氏 

県医師会常任理事 中目 千之氏 

司会/山形新聞庄内総支社長 桑嶋 誠一 




庄内医療連携座談会 地域医療のモデル構築~2 
2012.06.07 山形新聞   


【地域医療の方向性】医師、看護師確保さらに-救急体制の拡充も不可欠 

 -それぞれの現場から課題や対策を挙げてもらった。ここで吉村知事に地域医療の目指すべき方向性について話してほしい。 


 吉村山形県知事  

県民の誰もが、どこでもいつでも適切な医療を受けられることが最も大事で、医療は県民生活の安全安心を考える重要な社会基盤の一つだ。 
県は県保健医療計画で県内を四つの医療圏に分け、その中で医療資源の効果的利用を図るため医療連携を進めるなど、地域の医療体制の確保、充実に努めている。 

 医師や看護師の確保は病院経営にも関係する問題だ。医師が減少している病院は患者数も減り、経営悪化につながる。医師不足の解消に向けて県は2010年度、山形大医学部などと連携して「山形方式・医師生涯サポートプログラム」を策定 
12年度からは「山形方式・看護師等生涯サポートプログラム」にも取り組んでいる。医師と看護師をしっかり確保できるようさまざまな施策を推進している。 

 医師不足対策として県は05年度から「医師修学資金貸与制度」を導入しており、利用者は累計で122人。 
ようやくその中から12年度に2人が地域医療に従事することになった。 

今後、順次、各地域の医療に従事してもらう。 
看護師については、養成した看護師の4割が県外に流出しているのも課題だ。 
全国平均の地域定着率は70%ほどあり、本県は10ポイント近く定着率が低い。 
まずは養成した看護師に、県内に定着してもらうことが大事だ。看護師養成定員を増やすには看護教員を養成する必要があり、13年度に本県初となる看護教員養成講習会を開催するための準備を進めている。 

 救急医療体制もしっかり充実させたい。庄内では10年4月に荘内病院を地域周産期母子医療センターに指定し、11年4月には日本海総合病院に救命救急センターを開設するなど、医療体制の強化を図っている。 

また、小児救急電話相談に続き、全国2番目となる大人向けの救急電話相談を開始しており、さらに適正受診を推進し、2次医療、3次医療機関が本来の機能を果たすことができるようにしていく。 
ことし11月にはドクターヘリの就航も予定している。県内を30分でカバーできる。県内は過疎地域が多く、災害時に孤立が懸念される集落が400余りあるので、ドクターヘリへの期待は大きい。 

 庄内は医療連携やIT(情報技術)の活用が進んでいる地域と認識している。県としても庄内をモデルにして、他の地域でも医療連携が一段と充実するように、地域医療再生基金を活用して医療情報ネットワークの整備を進めていきたい。 


 -次に、中目氏に県医師会の立場から話をうかがいたい。 


 中目 看護教員の養成講習会は全国でも画期的な取り組みだ。 
東日本大震災の影響で東北の被災3県はこうした取り組みができない。 
ぜひ東北全体に情報を発信し、東北の中で山形が看護教員養成のイニシアチブを発揮してほしい。 

 これからの地域医療は各地区医師会の力量で決まる。地区医師会主導で地域医療を構築するということでないといけない。 
25年をピークに外来の患者数は急激に減り、逆に在宅や施設で往診を待つ患者が増える。ある統計によると、外来と往診の割合が6対4になるという。在宅医療を充実させるには、行政や基幹病院の主導ではなく、地区医師会主導で地域医療を構築していかなければならない。県医師会もそのためのサポートを各地区医師会にしていく。 

 鶴岡地区のようにたくさん事業を展開し、資金がある地区医師会もあるが、多くは会員からの会費だけで運営されている。 
各地区医師会の取り組みについては、しっかり中期計画を策定した上で、県と協議して予算を組んでもらうような仕組みづくりが必要だ。 
そのために県医師会もサポートしていく。 


【今後への提言】経営統合も視野に-人的補完の仕組みを 

 -庄内地域の医療連携を今後、どうすれば強化できるか。また、さらに充実するには何が必要か。各氏に提言をいただきたい。 


 中目 日本経済が低迷し、国の財政が危機的な状況の中、庄内の医療圏は緩やかな連合体をつくる必要があると感じている。 
そのためには日本海総合病院と荘内病院の両トップが話し合い、共通認識を持つことが大事だ。 
医師の人的交流は既に始まっているが、交流だけでなく派遣が必要。 
とりあえず荘内病院の医師不足を解消するため、日本海総合病院から5人、10人単位の医師を1年間派遣できないか。 


 本間 病院機能について従来の感覚を変える必要がある。例えば心臓血管手術。 
荘内病院ではやっていないが、日本海総合病院では年間200件近くある。 
新たな施設を整備するには5億円以上の費用がかかるが、一つにセンター化すれば人的な問題も解決できる。 
荘内病院には人工透析などの専門的な分野がある。 
それぞれが専門化された領域をセンター化していけば庄内地域全体の医療の質が確保される。 
庄内は交通アクセスが向上してきており、専門的なセンターに集約した方が患者のメリットは大きい。 
少ない医師資源をどうこの地域で有効活用するか。新しい視点として考えてもいいのかもしれない。 


 栗谷 自治体も病院もこれから財務状況が厳しい時代を迎えるだろう。 
その際に庄内の地域医療は、資金の移動を含む緩やかな経営統合なくして難局を乗り越えていけないのではないか。 

例えば病院同士の資金融通や人的融通など、補完し合う仕組みづくりが必要だ。 
そういうことを実績として積み重ねていけないか。 
もちろん、いきなり日本海総合病院と荘内病院を経営統合するのは難しいだろう。 
しかし、これからの時代は規模を大きくし、相互に補完し合える新しい事業計画を策定できないところは生き残ることができない。 
行政も庄内一体として考える時代が来ているのではないか。 


 三科 病院間の機能分担は当然なされる必要があり、現在でも疾患によっては行われてきている。 

今後、ITを活用した情報のやりとりにより、一層活発になることを期待している。医師の交流については今の仕組みの中でもできるが、経営統合には難しい問題がある。 

まずは患者さんにメリットがある分野で補完し合うことから始められればいいと思う。 
荘内病院の場合で言えば、勤務医の4分の3は庄内地域外の出身者。 
医師不足解消には、鶴岡に住む理由を持った医師を育てる必要があり、地元の高校生にも期待したい。2015年度には、医学部卒業生が現在より千人以上増加する。その時に地方都市にあっても勤めたくなるようなまちと病院であることが必要と考える。 


 三原 さまざまな課題を抱えながら、まずは現場、現場で医療の質を上げる努力を続けなければならない。 
急性期医療については皆さんが言うように、病院間の緩やかな融合が必要だと思う。 
一方、患者は何かしら後遺症がある状態で病院を退院し、地域に戻るケースが多い。 
そういう患者が地域に多くなるにしたがって、医療だけでなく、介護や福祉を含めた多職種連携が不可欠になってくる。 
地域医療の質を上げるツールの一つに地域連携パスがある。 
パスを地域の中で動かすことによって多職種連携が育ち、医療の質を担保することができる。 
「市民と共に」という視点も大事だ。高齢化社会を迎え、市民が市民を支えるシステムづくりも必要になる。 


 本間 看護師の数の格差が庄内と内陸にある。 
庄内における看護師養成施設の拡充に県としても力を貸してほしい。鶴岡では年間1億2千万円ほど看護師養成の経費を使っており、酒田も同様。 
これを合わせた形で、県も相乗りして新しい養成施設ができないか、検討してほしい。 


 -最後に、吉村知事に座談会の感想を交え、県の支援策についてお話ししていただきたい。 


 吉村 庄内の地域医療を支えている皆さんから将来の医療体制を見通した話をお聞きし、大変有意義な会になった。 
医療を支える皆さんと県が一緒になって取り組んでいくことが大事だと感じている。 
医師、看護師不足の問題についても一緒になって考えさせてほしい。 
県は本年度、13年度から5年間の保健医療施策の基本指針になる第6次県保健医療計画を策定する。この計画で県全体と、各地域ごとの計画を策定することになっている。その中で今後の人口構造の変化を見据え、中核病院と地区医師会など関係機関が連携し、医療体制の充実、強化が図られることを期待する。 
庄内地域は、医療と福祉の連携や、地域内の「病・病連携」「病・診連携」で先駆的な取り組みが進められている。これを県全体に広められるようにしていきたい。