医療 医師不足、今なお偏り

2012.03.07

(くらしの足もと 2012知事選:4)医療 医師不足、今なお偏り /熊本県 
2012.03.06朝日新聞  
  
熊本市から車で約2時間。宮崎県境に近い山間地の一角にある山都町の町立蘇陽病院で昨年10月、7年間務めた男性医師が今年3月末での辞表を出した。 
「単身赴任だったが、子供の進学もあり戻りたい」という申し出に、医師の苦労を知る水本誠一院長(56)は返す言葉がなかった。 

 県から救急告示の認定を受けている蘇陽病院は、24時間態勢で患者を受け入れる。 
救急搬送は年間250~300件、土日を含める時間外の受け付けは2200~2500件。 
続けていくには医師の確保が欠かせないが、2年前に5人いた常勤医は4月から3人になる。 
他の病院などに掛け合い、週1回ずつ交代で応援医師が来てくれるが、当直などは3人で回さなければならない。 

 「いつこうなるかとハラハラしていた」と水本院長。この病院の法定医師数は6~7人。
ここ数年ずっと医師の募集をかけているが、応募はまだない。水本院長は「態勢としては限界だが、うちが診なければ患者は緊急時に遠くの病院に行くしかない。 
公立病院としての責任感と医師の良心でやっている」。 

    □  ■ 

 地方の医師不足は、研修医制度が変わって研修先を自由に選べるようになったことなどから全国的に深刻化した。 
高度な医療設備があって専門的な指導が受けられる都市圏に研修医が集まるようになり、大学病院側も地方の公立病院に医師を派遣する余力を失い、引き揚げが進んだ。 

 県内でも医師の偏りは激しい。医療機関が集積する熊本市は、幸山政史市長が「医療環境は全国トップレベル」と胸を張るほどの充実ぶりだが、他の自治体は人口10万人あたりの医師数=キーワード=が全国平均を下回っているところが多い。 

 県も手をこまぬいているわけではない。2009年度から国の基金を活用し、50億円をかけて地域医療再生計画を実施。 
阿蘇中央病院の整備やドクターヘリの導入のほか、熊本大学に寄付講座を設け、地域医療の課題把握などのために19人の専門医を地域の病院に派遣した。 

 だが、医師偏在の根本的な解決には至っていない。 

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 医師が不足している公立医療機関への就業をあっせんする県ドクターバンクは、08年の開始から就業が成立したのはわずか4人にとどまる。 
「県内での勤務希望は少なく、問い合わせもない」と県医療政策課。 
医学生に学資などを貸す代わりに、卒業後は派遣医師として地域医療の現場での活躍を約束する修学資金貸与制度は徐々に認知されてきたが、3年間で25人の定員枠に利用者は18人にとどまっている。 

 熊本大学付属病院の黒田豊・特任教授(地域医療システム学)は「お金で縛るのではなく、きちんとした将来ビジョンを示してあげないと医師は地域に根づかない」と指摘。 
資金的援助で若い医師を呼んでも、さらに最新の医療を学びたいという要望に応えられる仕組みや組織作りが求められるという。 

 水本院長は「過疎地域でも、公平に医療を受けられる環境を整えるべきだ。様々な疾患に対応できる総合医を育成するとともに、県が主導して医師の配分システムを構築してほしい」と話す。(塩入彩) 


 ◆キーワード 

 <人口10万人あたりの医師数> 厚生労働省のまとめによると、2010年末時点で県全体では257・5人で、全国平均の219人を上回る。 
熊本市を中心とした熊本圏域が378・5人と圧倒的に多いものの、芦北圏域の262・9人を除く他の9圏域は全国平均を下回る。特に阿蘇圏域は119・4人、上益城圏域は130・4人と熊本圏域の3分の1程度。