東京電力の医療法人に対する損害賠償の問題点について

2012.02.08

東京電力の医療法人に対する損害賠償の問題点について 

亀田総合病院経営企画室 
弁護士 山田祥恵 

2012年2月7日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp 

1.はじめに 
南相馬市の緊急時避難準備区域に指定されていた地域には、大町、小野田、雲雀ケ丘、渡辺の4民間病院と、南相馬市立総合病院があります。これらの病院では、原発事故後、多くの医療従事者が離職しました。さらに、緊急時避難準備区域に指定されていた間、入院診療が大幅に制限され、入院患者数が激減しました。震災前5病院で816人いた入院患者数は、8月1日には96人になりました。 
いま、自治体から他会計繰入れを受けられない4民間病院は、存続の危機に瀕しています。例えば小野田病院では、月5,000万円の損失が発生しているそうです。 
一方で、南相馬市へ住民が戻り始めています。南相馬市の人口は、3月11日時点で約71,000人、原発事故直後は約10,000人、11月2日時点で42,179人と推移しました。このままでは、地域住民の医療ニーズに応え切れなくなります。 

東京電力は、医療法人に対する損害賠償について以下のような枠組みを示しています。 
(1)仮払い補償は、3月12日から5月末日までの収支差額相当額の2分の1を支払うが、その上限額は250万円とする。 
(2)8月末までの損害については、原発事故後からこれまでの利益実績と、原発事故前の利益実績とを比較して不足分を補填する。 
(3)9月以降発生する損害については、3か月毎に請求を受け付け、順次支払う。 

私は、この枠組みによって、4民間病院に対する迅速で適切な救済措置を実現することは困難だと考えます。本稿では、東京電力の医療法人に対する損害賠償の問題点について論じたいと思います。 

2.仮払い補償の上限額 
まず、問題なのは、仮払い補償の上限額が低すぎた点です。小野田病院では、月5,000万円の損失が発生しています。原発事故から5か月以上経過した時点で、実施された仮払いが、250万円では少なすぎます。250万円という上限額は、個人事業主などの中小企業を想定したものであり、4民間病院の規模にはそぐうものではありません。 

3.利益実績の比較 
賠償すべき損害について、事故前後の利益実績を比較して不足分を補填するという考え方も病院にそぐわないように思います。そもそもわが国の病院は、営利を目的として開設されていないからです。例えば、大町病院や小野田病院を開設しているのは医療法人ですが、医療法人は剰余金の配当を禁止されています。株式会社が株主への利益配当を目的とするのと異なり、病院は公衆への医療提供自体を目的とします。この特質に着目するならば、事故前後の利益実績を比較して不足分を補填するという考え方ではなく、病院機能の維持と回復に必要な費用を補償するという考え方をとるべきではないでしょうか。 
  
病院は地域のインフラであり、病院機能の回復なくして地域の復興は望めません。病院機能を回復させるには、医療従事者を呼び戻すことが必要ですが、医師や看護師は流動性が高く、この地域に呼び戻すには困難が予想されます。医療従事者が流出して機能が縮小した病院については、収支の悪化分としてみた補償額よりも、病院機能回復に向けた費用としてみた補償額の方が、はるかに大きくなるという事態が考えられます。病院機能回復に向けた費用が迅速かつ適切に支払われることが重要ですが、利益実績の比較という考え方をとると、これが妨げられる事態も考えられます。 

4.後払い 
今後発生する損害を3か月毎に支払う、という点にも問題があります。これは、いわば利益不足分の後払いを続けるというものです。4民間病院は、原発事故後、赤字が重なり運転資金もままならない状態にあります。病院機能を回復させるには、積極的な投資が必要です。資金の逐次投入を続けても事態は一向に改善しません。 

5.国や県の役割 
さらに、東京電力という一企業による損害賠償という構成をとること自体に、限界があることも見据えなければなりません。東京電力の賠償能力には限界があります。また、会社法は、会社から財産が不用意に流出しないよう様々な制約を設けています。債権者間の公平という問題もあります。東京電力に対して、支出の根拠を詰めずに、とりあえず緊急に被害者へ現金を交付するという行動を期待するには限度があります。 

そこで、国や県の役割が重要になります。南相馬市立総合病院は、南相馬市からの他会計繰入れのほか、様々な公的支援を受けていますが、4民間病院には公的支援がほとんど行われていません。民間病院も、公立病院と同じく公衆の健康という公益を目的として活動しています。同じ公益活動であっても、官によるものであれば公的支援を受けられ、民によるものであれば公的支援を受けられないという状況は、不合理だと考えます。例えば、地域医療再生基金等を民間病院の当座の運転資金に利用すること、国や県がいったん賠償金を立て替えることを検討すべきです。 

6.おわりに 
本稿によって、東京電力の医療法人に対する損害賠償の問題点が共有され、病院機能の回復、地域の復興が少しでも前進することを願います。 

<参考資料> 
・緊急時避難準備区域解除に係る復旧計画(南相馬市HP) 
http://www.city.minamisoma.lg.jp/shinsai2/fukyufukou/jyunbikuikikaizyonikakarufukyuukeikaku.jsp 
・政経東北2011年10月号 
・東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針(文部科学省HP) 
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/kaihatu/016/houkoku/1309452.htm 
・中小企業の方々への仮払補償金のお支払い対象追加等について(東京電力HP) 
http://www.tepco.co.jp/cc/press/11072904-j.html 
・仮払補償金お支払いのご案内(東京電力HP) 
http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/karibaraihosyou/images/goannai2.pdf 
・避難等区域内の医療福祉等機関に対する原子力損害賠償金の支払いについて(平成23年9月29日付け東京電力から福島県原子力損害医療福祉関係団体連絡会宛の通知) 


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