志木市立市民病院改革委員会報告書案に対する意見

2012.02.29

志木市立市民病院改革委員会報告書案に対する意見 

亀田総合病院副院長 小松 秀樹 

2012年2月27日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp 

2012年2月21日に開かれた第2回志木市立市民病院改革委員会では、指定管理者制度、あるいは、地方独立行政法人制度を利用して、日大に運営を委ねようとする報告書案が提示された。これに対し、複数の委員より、議論を急ぎ過ぎている、あるいは委員会として踏み込み過ぎであるという意見が出された。最終報告書では、大学の固有名詞の使用は避けられたが、基本方針はそのままだった。  
筆者は、第2回の委員会での議論を踏まえて、2月23日に意見書を提出し、委員会では必要な検討がなされていないこと、報告書はデータに基づかない政治決断の色彩が強いことを指摘した。この問題では、これまでに、いくつかの政治決断とその撤回があった。筆者は、報告書の内容が、外部委員が関わるべき範囲を超えていると判断し、委員を辞任した。辞任は、報告書で示された方針に、賛同も反対も意味するものではない。  
以下、報告書案に対する意見書を提示する。                     

●報告書案に対する意見 
<論点1> 志木市立市民病院改革委員会の議論は、結果として埼玉県南西部二次医療圏の小児救急の問題を扱っている。これを志木市立市民病院改革委員会の枠組みで議論すべきか。 
1)埼玉県は日本最大の医療過疎地域である。医療サービスの提供が大幅に不足している。人口が多いので、簡単に解決できない。 
2)病院に勤務する小児科医は少ない。 
3)小児救急の大半は、軽症であり、小児科医でなくても、救急医、総合診療科医師、家庭医などで対応可能である。 
4)病院勤務の小児科医は、小児科医としての専門知識を要する外来診療と、入院診療が必要な重症例に専念できるようにすべきである。小児科医に軽症の外来救急患者を診察させると、小児科医が疲弊し、結果として小児救急サービスを阻害する。 
5)埼玉県で、診療を求める小児のすべてを、小児科医が診療することは現実的でない。小児医療をどうするのか大きな計画が必要である。 
6)二次医療圏、三次医療圏、さらには、東京都を巻き込んだ合意が必要である。 
まとめ:埼玉県南西部二次医療圏の小児救急の診療体制については、地域医療計画の責任主体である埼玉県の枠組みで議論すべきである。 

<論点2> 外部識者による委員会の役割はなにか。 
1)委員会の役割は、選択肢を提示し、方向性の異なる代表的な選択肢について、シミュレーションに基づき、メリット、デメリットを比較検討すること。 
2)短い期間に限定された委員会で、本格的なシミュレーションに基づく検討を行うのは不可能である。 
3)指定管理者制度、あるいは、地方独立行政法人制度を利用して、日大に運営を委ねることは、市民の負担を伴う大きなオペレーションである。 
4)市民の負担を伴う大きなオペレーションについて、踏み込んだ決定に関与するには、市民からの負託が必要である。外部委員は、市長の部下として働くのでなければ、方針決定から距離をおくべきである。 
まとめ:外部識者による委員会が行うべきことは、選択肢を示して比較検討し、首長や議員の判断を助けることである。 

<論点3> 小児科主体の小規模病院の再建を前提としてよいのか。 
1)小児科は診療報酬が低く設定されている。小児科診療を行うには、小児科の赤字を補う収益をもたらす部門が必要である。あるいは、相当額の補助金が必要である。 
2)小規模病院の黒字化は難しい。小児科主体の小規模病院は、これまでと同様相当な赤字になる。 
3)現代の急性期病院は、高価な設備と、多数の職員を必要とする。また、臨床研修病院として、医師を自ら育成しなければ、病院を維持・発展させるのは困難である。臨床研修病院の指定を受けるには、最低でも300床必要である。持続可能な急性期病院は、最小規模であっても、志木市の財政規模に比べて大きすぎる。 
4)社会保障人口問題研究所の平成2008年の推計では、志木市の2005年、2020年、2035年の高齢化率は、15.3%、26.4%、31.4%である。団塊の世代が一斉に退職しつつある。典型的ベッドタウンである志木市の税収は相当程度減少するのではないか。 
5)埼玉県では、今後、大量の高齢者が短期間に生じ、医療・介護を必要とする人数が急増する。埼玉県の一般病床需要は、2005年から2020年まで、5年ごとに3,000床増加し、以後微増にとどまる。今後、10年間で、500床の急性期病院を12施設作らなければならない計算になる。療養病床と老健・特養の入所需要は、2010年から2030年まで、5年ごとに15,000床から18,000床の大幅増加が続く(文献1)。2010年段階で、すでに9300床不足している。この規模感を数字で表現すると、20年間で100名規模の老健・特養が750施設必要になるということである。小児と高齢者の医療・介護の需要を定量的に認識した上で、どこにどの程度のお金をかけるのか、議論しなければならない。財源、医師、看護師のすべてが不足している。どのサービスをやめるのか、どこを我慢するのかの議論が必要である。 
6)2011年10月29日の東京新聞によれば、志木市の財務担当者は「小児・小児外科入院診療の看板を下ろし、高齢者向けの訪問介護や在宅診療の充実などに比重を移そうと考えている」「このままでは立ち行かないからです」と語っている。危機意識を持った財務担当者を納得させる明確な答えが必要であるが、2月21日の報告書案には示されていなかった。 
7)病院の建て替えには相当な費用がかかる。どこまでの費用負担を引き受けるのか提示する必要がある。 
8)基準内繰出で病院が維持可能か。維持できない場合、基準外繰出をするのかしないのか。基準外繰出なしに、病院が維持できるのか。いくつかの想定のもとに、将来生じうる財政負担を推計して、市民に提示する必要がある。 
まとめ:小児科主体の小規模病院を継続するのなら、志木市の将来の歳入、病院建て替え費用、病院経営のシミュレーションを行うべきである。小児科主体の小規模病院を継続することが、市の財政にどの程度の負担をかけるのか、市民にどの程度のメリットをもたらすのか、どの程度、他のサービス提供を阻害するのか定量的に検討する必要がある。 

<論点4> 市と民間法人の間で長期的な約束が可能か。 
1)日大を指定管理者にするにしても、相当な財政負担が必要である。継続的な補助金交付を約束していても、予算は議会の承認が必要である。しかも、市長や議員は、選挙のたびに交代する可能性がある。大きな財政赤字が出るとすれば、単年度予算制度でどこまで約束を守れるか疑問である。現時点で市長が口約束しても、約束は破られることになる。 
まとめ:行政による多額の赤字補てんを前提とした民間法人との約束は、いかに市長が強く言明しようと、継続不可能である。 

<結論> 
1)迅速な判断で、日大に病院運営を依頼するとすれば、委員会ではなく、市民の負託を受けている首長、議員が決めるべきである。 
2)日大に運営を委ねるとすれば、第三者による将来の財政負担のシミュレーションを実施して市民に提示すべきである。 
3)廃院を含めてあらゆる選択肢について、本格的に検討するとすれば、別に時間的な余裕のある委員会を立ちあげるべきである。 

文献) 
1.小松俊平, 渡邉政則, 亀田信介:医療計画における基準病床数の算定式と都道府県別将来推計人口を用いた入院需要の推移予測. 厚生の指標, 59, 7-13, 2012. 


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