背景に財政難、瀬戸際の小児救急 志木市民病院の入院休止問題

2012.01.30

【ニュースの核心】 
背景に財政難、瀬戸際の小児救急 志木市民病院の入院休止問題 
2012.1.27 産経新聞 

志木市が小児科入院治療の休止を表明した市立市民病院。常勤医師の退職には財政難が関わっているようだ=24日、志木市 
  
埼玉県の志木市立市民病院(同市上宗岡)をめぐり、地元が揺れている。 
志木市が常勤医師3人の退職を理由に、小児科の入院治療を4月から休止すると発表したからだ。 

地域の小児救急医療が維持できなくなる事態に、近隣6市町は志木市に財政負担の肩代わりを表明したが、後任の医師は見つからないまま。背景には財政難で瀬戸際に追い込まれる市民病院の実態が見え隠れする。(市岡豊大) 


重すぎた市の負担 


 志木市立市民病院は内科、外科、小児科などがある総合病院。小児科は全病床100床のうち45床を占め、24時間救急に対応できる拠点病院だ。 

もともと厳しい経営状態だったが、平成21年に利益率の高い整形外科の入院治療を休止したことなどで収支が悪化。 
22年度には一般会計から5億4千万円を穴埋めする事態となり、小児科だけで1億6千万円の赤字を出した。 

 赤字経営の要因の一つに、患者の多くは志木市以外の住民なのに、財政負担は志木市だけが引き受けてきたという構造的な問題がある。 

 志木市は朝霞地区4市(朝霞、志木、新座、和光)と富士見市、ふじみ野市、三芳町を合わせた7市町のほぼ中央にある。 
病院の年間延べ1万2千人の小児科入院患者の約8割は志木市以外の子供だ。 
周辺市町約70万人分の小児救急を人口7万人の志木市が支えている格好だ。 

 志木市の長沼明市長は平成22年11月、朝霞地区3市長に窮状を訴えた。 
昨年12月、3市は計4500万円の財政支援を表明、他の3市町も続いたが、事態はすでに深刻化していた。 


市と病院の対立 


 病院にとって致命的だったのは、常勤医師3人の退職表明だ。 
昨年8月、長沼市長は常勤の小児科医師でもある清水久志院長(64)の今年3月末までの任期を更新しないことを通告。 
その後、残る2人の小児科医師が自己都合による退職を申し出た。 



一連の退職劇の裏には、財政難を背景にした病院と市の対立があるようだ。 

 ある病院関係者によると、市長から任期を更新しないことを告げられた際、清水院長は「市には小児医療を継続する意思が感じられない」と語ったという。 

 日頃、清水院長は「(患者優先の)病院で赤字が出るのはやむを得ない」としていた一方、市側は経営全体を考えない清水院長の姿勢を疑問視していたという。この関係者は続ける。 

 「院長への任期不更新通告は赤字経営の責任を取らせる意味もあった。それに対し、医師たちは市の小児科病院経営に限界を感じたのでは」 


命に関わる問題 


 とはいえ、巻き込まれる地域住民の声は悲痛だ。病院近くに住む主婦(29)は「あえて病院の近くに引っ越して来たのに。子供は体が弱いので入院できないのは困る」と話す。 
3歳の孫を診察に連れてきた新座市の主婦(57)は「命に関わる問題。無駄な財政支出をなくすなど、休止の前にできることがあるのでは」と疑問を呈す。 

 実際に病院が小児科の入院を休止すると、周辺地域の小児救急患者は病床数26の国立埼玉病院(和光市)が受け入れるしかなくなる。 
県も後任医師探しを検討したが、来春の人事が固まっているこの時期、夜勤に必要な最低2人の常勤医確保は現実的でない。 


そこで、朝霞地区医師会など関係機関は、清水院長ら3人が再就職予定の「菅野病院」(和光市)を救急医療拠点として整備する方向で検討を始めている。 

 ただ、当座を乗り切ったとしても、財政難という問題は解決しない。志木市立市民病院の松永仁・経営改革課長は「他の診療科でも同じ状況はあり得る。市域を超えた広域経営も含め、体制を根本的に考えないといけない」と話している。