僻地医療の星が首都圏進出へ変質 ジレンマに陥る地域医療振興協会

2011.12.10 週刊ダイヤモンド 

Special Report へき地医療の星が首都圏進出へ変質 ジレンマに陥る地域医療振興協会 


1986年、自治医科大学の1期生を中心に設立された公益社団法人・地域医療振興協会。へき地の病院運営に力を注いできたが、昨今は地方自治体とのあいだでトラブルを抱えているほか、なぜか首都圏における病院運営が目立って増えてきた。岐路に立つ同協会の運営実態を探った。 本誌委嘱記者・内村 敬 


 今年8月31日、ある「意見書」が、総務省や厚生労働省など三つの省庁に対して送り付けられた。 

 提出したのは、静岡県の共立湊病院(病床数154床)を開設する下田市と賀茂郡1市5町の首長・議員で構成する組合議会。その中身は、病院を運営する地域医療振興協会(以下、協会)に対する不満だ。 

 伊豆急下田駅からクルマで約20分。伊豆半島の南端に位置する共立湊病院は、1997年10月から自治体が開設者となり、民間が運営に当たる「公設民営」病院の第1号として地域医療を支えてきた。 

 運営に当たるのは、「へき地に勤務する医師の確保」と「へき地医療を支援する病院の開設と管理運営の受託」を中心に活動を続けてきた協会である。 

 だが、病院の移転新築や運営条件をめぐる双方の意見は食い違い、協会は今年3月末で病院運営から撤退。4月からは、医療法人社団静岡メディカルアライアンスが管理運営を担っている。 

 決裂の決め手は、昨年7月に協会が他の病院を買収したこと。直線距離にしてわずか7キロメートルしか離れていない伊豆下田病院(60床)を買い取り、一部の医師と看護師を共立湊病院から異動させ運営を始めたことだ。組合議会の議員を務める山田直志氏(東伊豆町議会議員)は、こう指摘する。 

 「特に許せないのは、指定管理の契約期間中にもかかわらず、同じ医療圏にある病院を買い取ったこと。こんなことをされては、後継機関が大変で公立病院はつぶれる」 

 これに対し、今年3月まで共立湊病院の病院長を務め、現在は駅にほど近い伊豆下田病院を指揮する小田和弘病院長はこう反論する。 

 「後継機関では、2次救急はできないという前提で新病院を買った。今年4月に当病院を2次救急対応の急性期病院として再スタートするには、契約期間の終了(今年3月)を待っていては間に合わない」 

 だが、結果として共立湊病院の患者と収益は激減。同病院で協会の職員として働いていた医師9人は今年4月にすべて引き揚げ、看護師も68人から29人にまで減った。 

 自治医科大学の関係者は「仮に契約として問題がなくても、道義的にどうなのか」と顔をしかめる。 

 さらに意見書は、協会が運営した13年半のあいだに「協会本部に7億6114万円を上納」しながら、なおかつ病院会計(協会)の「未処分利益6億5868万円から4億5000万円を本部預かり金としている」と指摘。「公益社団法人は収支相償(事業収益が適正な額を超えてはならない)の原則によって運営され、税制の優遇等を受けている。巨額の利益確保がなされることは適切な運営なのか」と問題視している。 

 というのも、97年8月、協会が管理運営の受諾前に組合議会に渡した書面には、黒字となった場合の対処方法がこう記されている。 

 「施設の黒字で別の施設の赤字を埋めることは行いません」「黒字が発生した場合は、当該施設が末永く運営できるよう運営基盤の強化に役立てます」 

 未処分利益は、何に使われているのか。現時点まで協会から組合議会に対する説明はない。 


首都圏への医師派遣が2割強に拡大 


 協会は、共立湊病院を運営するまで地方に3拠点を構えるだけの小さな組織だったが、昨今の成長は著しい。運営施設は、20病院、17診療所、医療介護の複合施設と介護施設を合わせれば計49ヵ所(2011年4月1日現在)と、この5年間で倍増。事業収益(10年度)も、700億3021万円と約2倍にふくれ上がった。 

 もっとも、協会が開設者となり運営まで行う直営方式の病院は、わずか4施設にすぎない。その他は、すべて「公設民営」型。その実績もあって「今では、地方自治体が協会に頭を下げてお願いに行く」(地方病院)ほどである。 

 ところが、昨今、その活動趣旨とは逆行しているかに見える首都圏への進出が目立って増えている。 

 09年には、東京都台東区と千葉県浦安市で病院運営をスタート。昨年からは、神奈川県横須賀市にも拠点を広げた。締めて、協会が運営する首都圏の病院は、5ヵ所と全体の25%に達する。 

 なぜ、ここまで首都圏への拠点拡大を急ぐのか。協会の沼田裕一常務理事は、その理由をこう説明する。 

 「大都市に進出しなければ、へき地に派遣する医師の確保が難しい。加えて、へき地支援に回す収益も確保できない」 

 だが、現実には、それ以前に、既存の首都圏病院ですら必要な医師が集まっていない実態がある。 

 協会は、へき地の医療体制を確保するため、「代診」と称する医師の短期派遣と、数ヵ月から1年近くの長期派遣の2本立てを支援の柱としてきた。10年度の医師派遣実績(短期・長期)は、協会系施設と青森県や沖縄県などの一般の病院・診療所に対して、年間延べ1万5113日に達する。 

 ところが、このうちの上位10病院・診療所を見ると、全体の1割以上に当たる1531日が横須賀市立市民病院(482床)だ。次いで、台東区立台東病院(120床)が995日、東京ベイ・浦安市川医療センター(344床)も683日など、首都圏の3病院だけで、じつに全体の2割を超える(上表参照)。 

 昨年、五つの診療科を入院停止とした横須賀市立市民病院は、来年度から「医師の確保にメドがついた」とするが、中核病院に欠かせない産婦人科と、呼吸器科は来年度も入院停止と、相変わらずだ。 


将来はへき地撤退も視野 問われる公益法人の責務 


 医師の供給源となるべき首都圏の病院がこの状態では、へき地に回す余裕など生まれるはずもない。そもそも、来年4月から本格オープンする東京ベイ・浦安市川医療センターでは、看護師の確保に手間取り、133床(予定)でのスタートを余儀なくされた。 

 同じく4月からは、これまでの運営主体の撤退を受け、協会が後継機関として運営を始める日大練馬光が丘病院(342床)でも、人材確保に四苦八苦の状態だ。 

 御難続きのなかで、協会はなぜ拠点の拡大にこだわるのか。協会をよく知るコンサルタントは、「補助金の確保が狙いなのでは」と指摘する。 

 対する協会の沼田常務理事は「お金でどうこう言われるのは、納得できない。今は、自治体からお金をもらうにしても、厳しい条件が突き付けられる」と反論する。 

 ただ、現実問題として、これまでは人口減でも診療所と介護施設の複合化でなんとかやりくりしてきた地域も多い。将来、少子高齢化と過疎化がさらに進めば、そうしたへき地での医療が採算的に困難になる可能性があることについて協会側には危機感が募る。 

 ある協会幹部は、こう漏らす。 

 「仮に、大都市で医師とお金を確保したとしても、へき地に回せない時代がやって来る。ある時期にへき地から撤退し、巡回診療などの仕組みで対応せざるをえない」 

 むしろ協会は、将来を見越して首都圏に“一大病院チェーン”を築くことで、組織を温存させようとしているのかもしれない。 

 だが、協会がへき地の病院と診療所から撤退することは、公益法人としての存在理由そのものを失ってしまうことを意味する。設立から25周年を迎えた協会のジレンマは続く