出産・育児と両立支援 医師不足解消へ、県内の取り組み /栃木県 

出産・育児と両立支援 医師不足解消へ、県内の取り組み /栃木県  朝日新聞 11・19 
  


 女性医師が出産や育児で仕事を辞めるのを防ぎ、就業継続を支援する取り組みが広がっている。 
背景にあるのは医師不足。20代では3人に1人を占める女性医師が仕事を続けられるようにすることが、医師不足の解消と将来の医療を支えることにつながるからだ。県内での取り組みをみた。 


 ●人の役に立つ充実感 夫の転勤・出産…3年ぶり復帰 

 下野市の自治医大病院産婦人科に勤務する上地麻子さん(34)は、昨年12月に設立された県女性医師支援センターを通じて復職した初めての医師だ。 
今年9月から非常勤で週1回、外来の診察にあたっている。 

 東京の慈恵医大病院に勤めていたが、長女(3)の妊娠で休職。2009年春、整形外科医の夫の転勤に伴い宇都宮市に転居すると同時に第2子の妊娠がわかり、昨年1月、次女を出産した。 
期間を空けずに職場復帰したいと考えていたが、体力も求められる産婦人科。忙しい科ほど、誰かが休めば職場に迷惑がかかることも経験から知っていた。 
しかし医師不足のニュースを見るたび、「これでいいのかな」という思いが募った。 

 小山市出身。産婦人科医の父の姿を見て志した医師の仕事。 
後輩の女性医師たちから「どんな形でも復帰して、道を開いてほしい」とエールを送られてもいた。 
職場に迷惑をかけながら働くのは申し訳ないという気持ちを押し切って、今年6月、県女性医師支援センターに復職相談のメールを送った。 

 毎週金曜日。午前7時前に宇都宮市の自宅を出て、電車で病院まで通う。 
約3年の空白期間。 
電子カルテの導入や最新の診療基準など、戸惑うことも多い。 
超音波検査機器も感覚を思い出しながら操作する。「帰りの電車は参考書を広げ、まるで受験生のよう」。 
しかし、充実感がある。 
「外来の短い会話でも、診察に来てよかったと患者さんに言ってもらえる。人の役に立っていると思える」 

 子ども2人の保育園の送り迎えは夫が担当。 
午後6時の迎えの時間に間に合うように、夫が仕事を抜けて自宅に連れ帰る。 
「パートナーとよく話し合い、サポートしてもらうことが一番大切」と上地さん。 

 来年4月からは、同大病院が導入している週20時間の短時間勤務制度を利用して、正職員として本格的に復帰したいと思っている。 


 ●「働きやすい環境を」 県内医大、支援センター設置 

 自治医大は07年、国の補助を受けて女性医師支援センターを立ち上げた。 
08年9月には、病院内に保育ルームを設置。昨年6月からは看護師が常駐する病児保育を、今年3月からは夜勤従事者を対象とする週2回の24時間保育も始めた。短時間勤務制度は現在、20人が利用している。 

 2人の子供の母でもあるセンター長の湯村和子・腎臓内科教授(64)は「今は国家試験の合格者の3割ほどが女性。 
医療崩壊が迫るなかで、その人たちをどう育てていくかは待ったなしの課題だ」と訴える。

 県医師会の調査に、「配偶者が医師」と答えた女性医師は78%にものぼる。 
湯村センター長は「女性医師支援はつまり、次世代支援。男性医師も含め勤務医が働きやすい環境をつくることが、医師不足解消につながる」とし、「主治医だけではなくチーム医療を進めたり、社会全体で子どもを育てる意識を女性も持ったりするなどの意識改革が求められる」と話す。 

 今年4月に女性医師支援センターを開設した独協医大は先月、病院内にサロン「クローバー」を設けた。子育て中の女性医師が子どもを連れて仕事ができるように、病棟と同じ院内LANが使えるパソコンを設置した。同大でも17人が短時間勤務をしている。 

 心臓血管外科医の夫を持ち、男女2人の子育てをしているセンター長の望月善子・産婦人科教授(54)は妊娠38週まで働き、育休も取らずに産後2カ月で復帰した。「ほかの働き方がなかった。なんとか乗り切ってきたが、若い人たちに同じことをさせることは絶対によくない」 

 望月教授によると、20代の産婦人科医は70%が女性だ。学生たちには「いちど辞めると医療の進歩についていくのが大変なので、細々とでも仕事を続け、仕事も家庭もどちらもとってほしい」と伝えたという。 
「病院内では同じ一人の医師だが、家ではそれぞれ妻や母の顔があり、介護などの事情がある。いろいろな働き方があるので、満足感のある働き方を追求していくことが重要だ」と話す。 


 ●離職「もったいない」 「家事との両立」74・2%悩む 

 全国の医師28万6699人(2008年末現在、厚生労働省調べ)のうち、女性は5万1997人と、18・1%を占める。 
1990年には2万4259人(11・5%)だったが、この20年で倍増した=グラフ上。若年層ほど割合は高く、29歳以下では36・1%が女性だ。県内でも、医師4246人のうち746人(17・6%)を女性が占めている。 

 しかし、出産や子育てを機に職を離れる女性医師も多い。長男(3)と長女(1)の子育てに追われる下野市の伊藤有希子さん(33)は、麻酔科医として勤務していた。 
「人の命を預かる仕事なので、中途半端にはできない。子どもの急病などまで考えたサポートがないと難しい」。もう少し子どもに体力がついたら復帰を考えている。 

 医師の卵たちは、女性医師の離職をどう見ているのだろうか。独協医大5年生の塚原由佳さん(23)の目には「もったいないな」と映る。 
小児科医を志望し、一人前になるまでは仕事最優先で取り組むつもりだ。 
同級生の河合夕紀さん(22)は循環器科医を志望。「家庭を持つと、大学病院に残るのは難しいのかな」と思うこともある。 

 県医師会は昨年、県内の女性医師にアンケートを実施。299人(42・4%)から回答を得た。 

 現在の勤務状況は日勤のみの常勤、宿直のある常勤ともに41・7%で、1カ月に宿直が1回以上あると回答したのは37・6%。宿直の翌日は「通常勤務」が82・4%にのぼった。 

 女性医師としての悩みでは、「家事と仕事の両立」が74・2%でトップ=グラフ下。休職や離職したことがある人の理由は「出産」が75・6%、「子育て」が45・9%と大半を占めた。 

 仕事を続けるうえで必要な制度や支援策では「病児保育」60・4%、「託児所・保育園などの整備・拡充」56・4%、「宿直・日直の免除」53・1%と続いた。しかし、県医師会が74の病院を対象に実施した調査では、院内保育所を「設置している」のは41・9%にとどまり、病児保育は「ない」が94・6%だった。 


 ◆支援を考える催し 独協医大、あす講演会 自治医大、来月シンポ 

 独協医大病院の女性医師支援センター設立を記念した講演会が20日午後2時~4時、同大関湊記念ホールである。基調講演はお茶の水女子大の郷通子・前学長が「日本の女性医師・研究者が活躍する時代へ」。 

自治医大医学部長の桃井真里子教授が「女性医師支援とキャリア教育」をテーマに講演する。無料。問い合わせは同センター(0282・87・2098)。 

 また、12月2日午後2時~午後4時には、自治医大地域医療情報研修センターで、県女性医師支援センターのシンポジウム「これから求められるキャリア支援のあり方」がある。
岡山大大学院の片岡仁美・地域医療人材育成講座教授が講演するほか、「女性医師支援は、時代遅れ!」と題して女性医師たちによる討論もある。無料。問い合わせは県女性医師支援センター(0285・58・7575)。