医療現場からの提言 地域医療再生には 公的な医療の再配置が不可欠 求められる地域住民の理解 政治のリーダーシップに期待(Monthly ミクス 2010年1月号)



医療現場からの提言 地域医療再生には 
公的な医療の再配置が不可欠 求められる地域住民の理解 政治のリーダーシップに期待(Monthly ミクス 2010年1月号) 
  
 医療現場から医師が姿を消す。 
産科、小児科などの診療科が閉鎖に追い込まれる。 
地域の病院が経営難から閉院に追い込まれる。 
こうしたニュースは主に一般紙の地方面から発信されてきた。 
医療崩壊の原因は、小泉政権時代に相次いだ診療報酬の引き下げや初期臨床研修制度の発足に伴う地方での慢性的な医師不足など様々な要因があげられる。 
民主党政権はコンクリートから人への政策転換を掲げ、医療再生への政策転換を打ち出している。 
限りある医療資源をいかに再生するか。そのカギは地域との共生にあるようだ。本誌は医療再生に向けた取り組みを取材した。(沼田佳之) 
  
 医療崩壊で最も深刻なのは、救急、産科、小児などの、いわゆる“公的な医療”が成り立たなくなっていることだ。 
救急や産科の現場を離れる医師の理由に、激務である、給与が安い、時間外診療が多すぎる、クレーマーが多く危険を感じる、医療訴訟への不安がある、などのコメントが数多く見られる。 
  
 日本産婦人科医会が2009年10月にまとめた「産婦人科勤務医の待遇改善と女性医師の就労環境に関するアンケート調査報告」によると、常勤医の数は一昨年に比べてわずかながら増加しているものの、1か月間の当直回数は前年の5.9回に対し、09年は6.0回と改善していない実態が明らかになった。 
加えて1人医長、すなわち常勤医1人の施設が全体の10.2%、常勤医2人の施設も16.1%あり、全体の4分の1を占めている。 
さらに周産期母子医療センターをみても、常勤医が10人以下の施設が全体の半数を占め、必ずしも充足した状況とは言えないものとなっている。 
  
 産科医不足に端を発し、分娩取り扱い施設の減少、母体搬送受入困難など周産期医療を取り巻く問題は、国民生活に不安を招き、少子化対策においても負の要素となっている。 
  
 一方、救急医療の現場も同様だ。高齢化の進展に伴い、救急搬送患者数が増加する一方で、救急医療機関でも医師を確保できない状況が各所で見られる。 
結果的に救急隊からの患者受入要請を断る医療機関が増え、搬送患者のたらい回しのようなことが起こっているのだ。まさに需要と供給のミスマッチによる負のスパイラルに陥っているといっても過言ではない。 
  
  
公的な医療を担う地域中核病院を再編成すべき 
  
 救急、産科などの、いわゆる“公的な医療”の現場に医師が充足できていないという深刻な事態をどう改善すべきか。厚生労働省はこれまでも診療報酬点数でハイリスク分娩や医療クラークなどを評価してきた。 
ところが先述の日本産婦人科医会の調査結果によると、ハイリスク管理加算を請求している医療機関は全体の半数以上あったが、医師への還元が行われていたのは僅か8.2%だったと報告している。 
医師への当直手当や分娩手当を増額する動きも一部に見られるが、在院時間や当直回数が改善されないなかで、何らかの抜本的な就労環境の改善を求める声は依然強い。 
  
 民主党政権に変わり、コンクリートから人への政策転換が図られるなかで、医療再生への機運も高まりつつある。民主党政権における医療政策のキーマンの一人である亀田総合病院の亀田隆明理事長は、「まずは診療報酬の大幅引き上げが必要」と述べ、地域医療を担う病院の機能を充実させる施策に重点配分すべきと主張する。 
  
 救急や産科医療の現場は、24時間365日フル回転することが求められており、その現場を預かる常勤医が1病院に2、3人では「医療者は疲弊して辞めていくだけだ」と指摘する。 
その結果、救急搬送の患者を受け入れることもできず、地域住民からの信用も失墜するという負のスパイラルから抜け出せないでいるのだ。 
  
 では医療再生に向けた改革の処方せんとは何か。亀田理事長は、「100床程度の小さな公立病院がいくつあっても、医師が集まらず、経営もよくならない」と語り、3つ、4つの病院を1つに統合して地域に中核病院を再配備する計画を全国的に進めるべきだとの考えを提案する。 
  
 すなわち医師が不足する“公的な医療”については、24時間365日という住民のニーズを踏まえ、これに見合う体系に病院を再編成すべきというものだ。 
これには政治のリーダーシップが必要不可欠だと亀田理事長は言う。「病院の存廃で首長の選挙をしているようでは、絶対に医療再生はあり得ない」と断言した。 
  

もう一つのキーワードは地域住民との相互理解 
  
 地域との共生により病院を再生した事例として、兵庫県丹波市の県立柏原病院がよく紹介される。 
兵庫県立柏原病院の小児科が閉鎖される可能性があるという報道をきっかけに県立柏原病院の小児科を守る会が結成された。 
守る会は、小児科の適切な利用方法を地域住民に周知するなどの活動で、小児科医の負担を減少させ、小児科の閉鎖を食い止めた。特に、軽症でも安易に救急外来を利用するというコンビニ受診の減少に重点を置いた活動でも注目された。 
  
 医療再生のもう一つのキーワードは地域住民と医療者の相互理解だ。 
  
 昭和大学病院の有賀徹副院長は、救急医療の現場で需要と供給のミスマッチが行っていると指摘する。 
高齢化の進展は救急搬送の救を押し上げる要因になるのだが、一方で救急搬送の必要性が低い軽症患者のコンビニ受診も増えており、救急医療が抱える問題の深刻さを浮き彫りにしているのだ。 
  
 東京都では救急医療体制の改善に向け、「救急医療の東京ルール」を策定している。 
この中で「東京都民の理解と参画」という柱を設け、救急医療に対する市民啓発を行う方針を明示している。 
  
 東京都が行った調査によると、救急医療を利用する側の認識として次の2点を指摘している。
▽高齢化、核家族化、単身世帯増による急病等に対する不安が増大 
▽軽症患者が休日や夜間に中等症以上の受入を対象とする救急外来を安易に利用するいわゆるコンビニ受診や専門医的な治療を常に求める患者の増加--などだ。 
  
 有賀副院長も、ただでさえ厳しい救急の現場に、こうしたコンビニ受診が増えることで救急医療そのものが崩壊すると警鐘を鳴らす。 
その上で医療側の立場からは、救急搬送のトリアージや病院内のトリアージを確立する必要性を強調する一方で、地域住民に対しては、「救急医療資源は重要な社会資源。病院を潰してはならない」との認識を持ってもらうような啓発活動を地域単位で推進すべきと主張している。 
  

現場が主導する医療再生プランの構築を 
  
 製薬産業側から見ても、新薬開発や臨床研究などが健全に行われる環境の整備は不可欠だ。
医療機関の経営が破綻し、提供する医療サービスに不信が拡がれば、新薬開発を含む医療関連産業の健全な発展は見込めない。 
すでに医療再生への取り組みは医療現場から動き出している。 
これまでの医療政策は、財政主導と批判され、現場中心の医療改革は行われてこなかった。 
ところが医療現場 
の医師が疲弊し、医療提供サービスそのものに破綻をきたしたいま、医療現場から現場主導の医療改革案が示されるようになってきたことは大きい。 
  
 救急や産科などの公的な医療をどう再構築するか。 
加えて地域医療をもっと身近に考え、どう地域住民と共生させていくかがこれからの大きな課題だ。 
民主党は政権公約に医療再生を掲げている。 
医療再生のヒントは現場にある。民主党政権になってプラスの要因は、より多くの医療関係者が改革案を口にするようになったことだろう。 
自らが医療再生を語り、動き出したことは大きな原動力といえる。