どう育成・・・問われる資格制度・・・「公認会計士」が就職できない?




どう育成・・・問われる資格制度・・「公認会計士」が就職できない?Financial Japan 5月号 

公認会計士試験は司法試験と並び最難関とされてきた国家試験だ。 
司法試験合格者が裁判官や検事、弁護士になるように、合格すれば公認会計士への門戸が開かれ、社会で活躍することが期待される。 
ところが、そんな公認会計士試験に合格したエリートたちが今、就職問題で苦しんでいる。

実務補習所に『異変』? 
就職できない 国家試験合格者が続出 
公認会計士試験の合格者が通う実務補習所。 
支所も含め全国12ヶ所にある。 
その補習所の雰囲気が今年は例年と微妙に違うという。 

約1100人が監査法人に  東京・千代田区にある公認会計士会館。この施設内で公認会計士試験の合格者を対象に実務補習が行われている。 
実務補習は、日本公認会計士協会が経済界や学界の協力を得て設立した一般財団法人会計教育研修機構が運営している。 
東京のほか、名古屋、大阪、福岡にもそれぞれ補習所があり、全国8カ所には支所も設置されている。試験合格者たちは、いずれの補習所か支所に通常は3年間通って会社法や税法、監査制度や国際監査基準、リスクマネジメントや内部統制など公認会計士として必要な専門知識を身に付けるのだ。 
東京補習所で学ぶ大学3年生の男性(22)は「決算の数字は仕事の成果を客観的に表したもの。 
そんな数字を扱っている会計士に魅力を感じた」と公認会計士を志した理由について話し、「アメリカに留学してMBA(経営学修士)を取得した後、監査法人の国際部で働きたい」と将来の希望を語った。 
金融庁によれば、2009年の公認会計士試験の合格者のうち41・4%は学生だ。 
学生は合格者の職業別区分で最も多く、次に専修学校・各種学校受講生30%、無職16・8%と続く。試験に合格しても、すぐに公認会計士になれるのではなく、実務補習所に通って専門知識を取得し、補習所の卒業試験といえる修了考査に合格しなければならない。 
さらに、2年以上の実務経験を積むことが公認会計士の資格取得の必須条件だ。 

最初の関門の試験を突破して実務補習所に集まった合格者たちは、いわば会計エリートの卵。 
会計のプロを志す者同士、心を同じく切磋琢磨して学んでいるのだろうと思いきや、今年は少し様子が違うという。 
「試験に合格して監査法人に就職が決まった補習生と、監査法人に就職できずに補習を受けている補習生との間に微妙な温度差が生まれている」と関係者は打ち明ける。 
日本公認会計士協会によれば、昨年、06年以降の新試験で公認会計士試験を受験して合格した人は1916人。 
その中で補習所に通っている人は1847人。 
うち監査法人に就職できた人は1148人だった。残りは就職をしていない人が587人、監査法人以外の企業などに就職した人が112人だという。 
現行の公認会計士試験制度(2006年) 
  


「同じ試験に合格したのに」 

 国家資格によって監査を公認会計士の独占業務としている現行制度の性格を踏まえれば、公認会計士を目指す人が監査業務を担う監査法人への就職を希望するのは極めて自然だ。 
監査法人も公認会計士試験のスケジュールに合わせて採用を行い、採用後は資格取得を業務の一環と見なして公認会計士を育ててきた。 
つまり補習所での補習も、2年以上の実務経験もすべてひっくるめて監査法人で面倒を見てくれるわけだ。 
晴れて公認会計士の資格が取得できれば、監査法人で監査業務を担い、将来は独立して開業することも可能だ。監査法人への就職は、公認会計士としての未来がほぼ約束されたことを意味する。 

一方、監査法人に就職できなかった場合はどうか。補習所での補習も、実務経験も自力で行わなければならない。 
しかし、補習は補習所に通って一生懸命に勉強すればなんとかなったとしても、実務経験は経験の場が得られなければどうにもできない。 
現行の試験制度で実務経験として認められているものは、監査業務を補助する業務補助と財務に関する監査や分析に従事する実務従事のいずれか。 
業務補助は主に監査法人の従業者が対象。つまり監査法人に就職すればおのずと経験を積める。 

一方、実務従事は国や地方公共団体もしくは資本金5億円以上の企業で、会計の検査や監査の事務に携わるか、銀行や保険会社で貸し付けや債務の保証業務を担うか、資本金5億円以上の企業で原価計算などの財務分析に関する事務に従事することが前提になる。 

企業に採用されたとしても都合よく実務従事の対象業務に就ける保証はなく、逆に仕事の合間を縫って補習所に通うことになる。 
このため、監査法人に就職できなかった試験合格者は、公認会計士の資格を果たして取れるのかどうかわからないという不安にさいなまれながら補習を受けている。 

「同じ試験合格者なのに、なぜあいつは監査法人に就職できて、おれは就職できないのだ」。 
こうした思いが補習生の間に生まれたとしても無理からぬことかもしれない。 
実際、監査法人に就職できなかった悔しさを補習所の教官にストレートにぶつける補習生もいるという。 
なぜ、最難関の国家試験を突破したのに未就職者が多く出たのか。それには試験合格者の急増という背景がある。 



2006年以降急増した合格者 

下のグラフを見ていただきたい。公認会計士試験の最終合格者は、かつては1000人程度で推移していたが、06年以降急増し、3000~4000人で推移。 
09年は大幅に減ったものの、それでも05年以前と比べれば1000人程度は多いことがわかる。 
こうした合格者の増加は金融庁金融審議会の02年の答申が背景にある。 

答申では、「拡大・多様化している監査証明業務以外の担い手として、さらには、企業などにおける専門的な実務の担い手として、経済社会における重要な役割を担うことが一層求められている」とし、「2018年頃までに公認会計士の総数が5万人程度の規模となることを見込み、年間2000人から3000人が新たな試験合格者となることを目指し、公認会計士制度の見直しと運営を行うこと」を提言した。 
これを受けて03年に公認会計士法が改正され、06年から現行の試験制度が実施されるようになったのだ。 

  

過剰採用のツケ 経営厳しい監査法人 

専修学校の関係者は「新試験制度によって合格者は06年以降、大幅に増えた。 
07年、08年は上場企業に四半期決算や内部統制の報告が義務付けされたことで監査業務そのものが拡大し、監査法人が採用枠を大幅に広げたため大きな問題にはならなかった。 
09年は、合格者数はそれ以前と比べると減ったが、リーマンショック以降の経済状況を受けて監査法人の採用そのものが大きく減り、試験合格者の未就職問題が大きくクローズアップされるようになった」と指摘する。 

監査業界最大手の新日本有限責任監査法人が09年6月期決算で13億6000万円もの経常赤字を出したことは記憶に新しい。 
内部統制や四半期決算の需要が一巡すると採用拡大に伴う人件費の増大が経営を直撃し、景気後退も影響して大幅な赤字になったのだった。 
過剰採用のツケは監査業界全体に言えることで、09年の採用は軒並み前年比2分の一から3分の一まで抑制、「ホンネは採用を控えたいぐらいだ」との声が飛び出すほどの惨状だった。 
このため国家試験に合格しても監査法人に就職できない人が続出。未就職問題が表面化したのだ。 

東京補習所に通う女性(26)は「1年間営業の仕事をした後、退職して昨年、試験に合格しました。 
監査法人への就職も決まって2月から働いています。 
年齢の高い合格者ほど就職は厳しかったようです」と話した。 
日本公認会計士協会の増田宏一会長は「試験に合格できても就職できないとなれば、受験者そのものの数が減り、ひいては公認会計士の質が低下するかもしれない」と問題の広がりを懸念している。 
試験制度を変更した理由には、企業側のニーズに応えるという側面があった。 
であれば、公認会計士を育て増やしていくために企業も意識を変える必要があるのではないか。 


どうなる公認会計士試験 
2段階論が浮上 監査資格と会計プロ認定 
IFRS(国際財務報告基準)の強制適用をひかえ企業にとって公認会計士のニーズは今後、高まっていくと予想されるが…。 

従来の枠から抜け出せなかった? 

「2003年の公認会計士試験制度の改正は、監査法人以外に企業で働く公認会計士が増えていくとの見通しに立ったものだった」。 
こう話すのは住友商事フィナンシャル・リソーシズグループ長補佐の鶯地隆継氏だ。 
公認会計士法第2条1項は監査を公認会計士の独占業務と規定しているが、同条2項は「財務に関する調査もしくは立案をし、財務に関する相談に応ずることを業とすることができる」とし、財務・経理に関わる専門性の高い仕事や財務のコンサルティングも公認会計士の仕事と規定している。 
実際、アメリカではCEO(最高経営責任者)に公認会計士が就くなど企業内で会計士が多く活躍している。 

日本でも内部統制や四半期決算が導入され、IFRSの本格適用が視野に入る中、企業の財務・会計は従来以上に専門性が要求されるようになっている。監査を担うのが公認会計士という意識はまだ強いものの 
、金融庁の金融審議会は02年の答申で「企業などにおける専門的な実務の担い手として、経済社会における重要な役割を担うことが一層求められている」と記し、18年までに公認会計士を5万人にする目標を打ち出した。 
現行の試験制度はこうした背景をもとに06年から始まったものだが、鶯地氏は「新試験制度のふたをあけてみたら会計監査をする専門家の資格という従来の枠から抜け出せない制度になっていた」と指摘する。 

企業が求めているのはベテラン会計士 

住友商事は公認会計士の採用が多いことで知られている。 
同社によると、現在、12人の公認会計士が決算業務や日々の経理、あるいは内部監査や営業部門のリスクマネジメント、さらにIT部門や海外子会社、営業取引などの部門で活躍している。 
「当社では即戦力を求めてキャリア採用を積極的に行ってきた。 
経理部門のキャリア採用では、会計士の資格や会計事務所で実務経験のある人を採用するケースが多い。 
しかし、資格を優先して採用しているわけではない」と担当者は言う。 
だが、「財務諸表を作るだけではなくて今後は開示が重要になってくるので、資格クラス、実務経験のある人には働いていただけるチャンスがある」とも話し、公認会計士が活躍できる場の広がりをうかがわせた。 

とはいってもそれはベテラン会計士に限られている。試験に合格し、これから資格取得を目指す新人の採用となると話は別だ。 
「われわれは営利企業ですから、日本の将来の会計士をつくっていくことに企業として貢献できるかというと、それはなかなか難しい」とし、「それなりに仕事はハードですから、仕事をしつつ公認会計士の資格を取ることは相当大変だ」と言う。 
これは住友商事に限らず、多くの企業の見解なのではないか。 
つまり、今、企業が求めているのは即戦力のある実績を積んだ公認会計士なのだ。 

一方、受験者の意識も監査法人に向いている。金融庁が09年の試験合格者のうち学生や無職の合格者1534人に就職活動の状況を複数回答で聞いたところ、「大手・中堅監査法人への就職活動」が2087だったのに対して「上場企業への就職活動」は91、「非上場企業への就職活動」は62しかなかった。企業にとって公認会計士の育成はハードルが高いが、試験合格者の方も企業には目が向いていない。その狭間で就職しない未就職の試験合格者が増加しているのだ。 

  

今年もすでに1576人が短答式試験に合格 

2015年あるいは16年からlFRSが企業に強制適用されるとの見通しが強まる中、企業にとって公認会計士のニーズは今後さらに高まっていくだろう。 
必然的に会計士の需要は増えると予測され、数を増やしていくことが求められるが監査法人の育成能力には限界がある。 

では、どうしたらいいのか。 
金融庁では大塚耕平副大臣を座長に据えた「公認会計士制度に関する懇談会」が09年12月から月1回のペースで開かれている。 
日本公認会計士協会や経済団体、各種学校団体、有識者、経営者などそうそうたるメンバーが集まって制度の問題点と今後の対応を検討しているのだ。 

この中で浮上してきたのが、公認会計士試験を、監査業務の資格を取得するための試験に、会計のプロを認定する試験も加味した2段階方式にする案だ。 
しかし、論点が多いうえに各界の思惑も交錯して議論が今後、どう進んでいくのか、いまだに見えてこない状況だ。 
すでに10年の公認会計士試験はスタートしており、昨年12月に実施された短答式試験は1万7583人が受験、1576人が今年8月に実施される論文式試験へと進んだ。 
lFRSの適用も目前に迫り企業はその対応に追われている状況だ。 
議論に費やすことができる時間はほとんど残されていない。懇談会は今年6月をめどに一定のとりまとめをする予定だ。 



IFRSも見据えた議論を 
安部 泰久 日本経済団体連合会経済基盤本部長 

日本経済団体連合会の立場から会計士の問題に長年携わってきた安部泰久氏は 
「IFRS(国際財務報告基準)への対応も見据えて会計士のあり方を考えるべきだ]と話している。 

―公認会計士試験の制度をめぐる問題について経団連はどのように考えていますか? 

その前にこの問題に関して少し経団連に対する誤解があるような気がします。 
つまり会計士の数を増やしていくべきだという主張を経団連がこれまでにしてきたかのような言い方をされることがあるのですが、経団連がそういう主張をしたことはありません。2003年に試験制度を変更した当時は、これから内部統制が始まる、四半期決算が始まる、もっと言えばIFRSの導入が見込まれる、そういうことで現状の会計士の陣容で十分なのかという議論はしました。 
しかし、公認会計士の数が足りないとか、試験合格者を何人にするべきだとか、そういう話は一切していないのです。 

―なるほど。では、その上で現在の議論ではどのような主張をされているのでしょうか? 

企業において通常の経理の仕事をする上で、会計士の資格を持った人が必要かというと、そういうことはありません。ただ、能力を何らかの形で認めるものがあった方がいいのではないか。 
例えば米国公認会計士資格というものが普及しています。 
日本で監査ができるのでも何でもないのだけれど、何で皆が取得するのでしょうか。 
それは、一応、資格として認められていて、企業も評価しているからです。 
今の日本の公認会計士試験が米国公認会計士資格のようなニーズを満たしているのかということです。 
今の試験を、企業会計について必要なレベルを認定する試験と、さらに監査をやりたい人は次のステップに進む2段階方式にすることはあり得るのではないか。 

―実際にそういう試験の前例はありますか? 

いい例はシンガポールです。シンガポールの公認会計士の資格者は日本と同じくらい数がいるのです。 
しかし、実際に監査をしている人は恐らく数千人しかいない。 
多くは企業や団体で財務経理の仕事をしています。 
そういう試験になっているのです。 
日本の場合はそうではありません。 
受験者はみんな試験に合格したら監査法人に就職して公認会計士の資格を取ろうと思っていますから、受け入れる監査法人の側のキャパシティーの問題が出てくる。 
制度全体を見直すことによって問題を解決できるのではないでしょうか。 

―今後の議論では、どのような点がポイントになりますか? 

今は日本の中の問題として公認会計士の試験制度を議論しているのですが、将来的には海外との資格の相互承認の問題が必ず出てくるでしょう。 
現在、国内でIFRSによる監査に直ちに対応できる公認会計士は恐らく1000人もいないと思います。IFRSが実際に適用された場合、十分とはとても言えない。 
IFRSの対象になるのは少なくとも上場会社の連結財務諸表ですが、子会社、関連会社もあります。 
つまり何万社もIFRSで監査しなければならなくなるわけです。 
世界の会計制度の進捗に比べて、日本では会計士を取り巻くインフラが追いついていません。IFRSの視点から公認会計士を今後、どう育てていくのか、そういうことももっと議論していくべきだと思います。 


公認会計士を育てる態勢整備が必要だ 
増田 広一 日本公認会計士協会会長 

日本公認会計士協会会長の増田広一氏は現行の試験制度について「不十分だ」との認識を示し、増加する公認会計士試験の合格者を受け入れるインフラ整備が必要だとしている 

―現行の試験制度に対する問題意識を教えてください。 

司法試験と違って実務を経験する場を国が提供していません。 
ですから試験合格者の受け入れ態勢は限られています。しかも監査の仕事は、産業としてはせいぜい年間3000億円程度の市場です。 
そんな中でどんどん試験合格者を増やしたら、あふれる人が出てきて当然でしょう。 
これまで試験合格者を受け入れてきた監査法人が対応できなくても、企業が対応してくれればいいですが、企業には公認会計士の試験合格者を採用して資格を取るまで教育する態勢はありません。 

―現状の試験制度を変える必要があると考えますか? 

公認会計士を増やしていく方向性に反対しているわけではありません。 
企業の中に公認会計士が必要だという意見も理解できます。 
しかし、現行の試験制度では、何らかの手当てをしないと、試験に合格しても資格を取得できない人が出てしまう。 
それから今の試験制度は、以前の試験と比べると科目を絞った試験になっています。 
つまり狭い範囲の知識でいい制度になっているのです。それでいいのだろうか。 
私は不十分だと考えています 
。ビジネスや経済の流れ、金融など幅広い分野の知識のある公認会計士が求められていると思います。 

―現行の試験制度に変更した背景には産業界の意向があったとも言われますが……。 

医師にしても弁護士や裁判官にしても国家資格を得て独占的に仕事をする職業です 
。監査も公認会計士が独占して行う仕事。 
その代わり必要な知識や能力が求められている。 
そのことと企業が公認会計士に求めているニーズは違うものだと思います。 
会計の専門家を雇って経営に生かしたいのであれば、公認会計士でなくてもいいでしょう 
。中小企業診断士でもいいし、経営士や他の民間の資格でもいい。国家が試験をする必要はないと思います。ところが経済界が国家資格者を求めるから話がややこしくなっているのです。 

―海外では会計士が経営のさまざまなシーンで活躍しています。公認会計士の未来像をどのようにお考えですか? 

われわれは幅広い仕事をしていこうとしています。監査だけが公認会計士の仕事とは思っていません。 
ただ、監査は核になる仕事です。 
公認会計士の信頼はどこにあるのかといえば監査です。監査がきちんとできるかどうかが最低限の条件です。 
その上で会計に関する、あるいは財務に関するコンサルティングなどが広がっていくべきで、それは企業だけでなく政治や教育、地方自治など様々な分野であるでしょう。 
公認会計士の仕事が様々な分野に広がっていくことに問題はないし、むしろそうあるべきだと思っています。 
公認会計士が監査だけの専門家であるべきだとは思っていません。 
ただ、監査ができなければ公認会計士ではないという基本的な認識はしっかり持ちたい。 
試験制度そして国家資格は、そうした認識に立った上で議論されるべきです。