医療現場からの提言 医療崩壊はなぜ起きたのか!!



医療現場からの提言 医療崩壊はなぜ起きたのか(Monthly ミクス 2010年1月号) 

亀田 1961年に導入された国民皆保険によって医療ニーズが大きく増えた。そして医師が足りなくなるとの議論から、田中角栄氏の日本列島改造論にのる形で一県一医大構想ができ、79年の琉球大学を最後に全国に医学部が設置された。 

 一方で、同時に沸き起こったのが医師の過剰や医療費が急増するといった議論だ。国は85年頃から医療費抑制政策に舵を切り、需要はあるのに供給を絞るという方策をとった。具体的には、医学部定員の削減と病床規制だ。そして診療報酬・薬価等改定では、02年以降に4回連続でマイナス改定を行った。医療費の配分を行う中医協でも、委員構成の問題もあって病院に十分な評価がなされず、診療報酬による病院経営が破綻してしまった。 


医業経営の面で何か起こっているのか 

亀田 自治体病院の収支は全国平均で約20%の赤字。千葉県立病院は約35%の赤字、東京都立病院は約45%の赤字と全国的にひどい状況だ。自治体病院の給与は基本的に公務員の給与体系を採用し、人事院勧告に準拠している。つまり、日本国民の平均的な給与水準であるにもかかわらず、ひどい赤字というわけ。千葉県の場合だと30%以上の診療報酬の増額がないと黒字転換しないということであり、診療報酬体系は完全に破綻しているといって過言ではないだろう。 

 自治体病院がなぜ成り立つかというと、一般会計からの繰り入れがあるからだ。自治体病院だけで年間7000~8000億円の繰り入れがある。日赤や済生会などを含めた公立病院では2兆円近くの繰り入れがあるのではないか。診療報酬を下げても現実は他会計からの繰り入れ、つまり税金がどんどん投入されている。 

 一方で、我々のような民間病院にはそういった繰り入れは一切なく、医療者の犠牲の上に何とか成り立っている。自民党政権下での医療費抑制政策がこのまま続けば、病院が全滅し、医療崩壊は避けられないとの危機感が今回の政権交代の一翼を担ったことは事実だ。 


医療現場の疲弊とは具体的にどういった状況か 

亀田 非常にシンプルだ。産科、救急、小児は待ちの医療。患者がいつ来院するのか、収入がどれだけ入るのかに関係なく、24時間365日、人が張り付かないといけない。総合周産期であれば、夜中でも産科医が2人は必要だ。産科医が10人いる病院でも、当直は5日に1回、1か月に6回となり、土日もほとんど休めない。 

 これを今、2、3人の医師で対応しろといわれている。自身に置き換えて考えてもらいたいが、人間であれば1か月で確実に死ぬ。出来ないようなことをあたかも出来るがごとく言われれば、医療者は疲弊して辞めていく。だから、「当院では受けられない、違う病院を探してくれ」ということが起きるわけだ。 

  

医療再生に向けて何から手をつけるべきか 

亀田 まずは診療報酬の大幅引き上げが必要だ。地域の中核病院がしっかり機能すれば医療崩壊は起きない。夜間受け入れや、周辺の診療所に非常勤医師を派遣するのも中核病院。中核病院が倒れたら医療は完全に崩壊する。急がなければならない。 

 そこで中核病院の入院医療に関する診療報酬を最低でも10%引き上げるよう提言したい。この引き上げは全体の医療費の3%の引き上げに相当し、医療費で9000億円程度だろう。公立病院に繰り入れている2兆円の半分で足りる。先ほども述べたが、診療報酬も繰り入れも国民負担率は一緒。診療報酬を大幅に引き上げると国家財政が一気に悪化するという議論は大きな間違いだ。 

 この地域の中核病院というのは救急、産科、小児といった「公的な医療」を提供する病院のことで、自治体立などの公立病院を必ずしも指すものではない。日本の救急患者の受け入れは60%近くが民間病院で、民間を蔑ろにしたら日本の医療は成り立たない。公立病院に比べて人件費の安い民間病院が受け入れているからこそ、医療費が少なくて済んでいる側面もある。 

 本質的な話をすると、診療報酬を引き下げると公立病院への繰り入れが増えるだけだ。医療再生の実現が不可能になるだけでなく、地方財政もより悪化する。公立病院の人件費やそのあり方にメスを入れる必要もあり、独法化を検討すべきだろう。 


診療報酬引き上げの次にすべきことは何か 

亀田 例えば当院の救命救急センターでは、救命救急科の医師10人、スタッフ50人のほか、全科のスタッフも24時間体制をとるため、計100人程度を拘束・当直させている。言いたいのは100床程度の小さな公立病院があっても、医師が集まらないばかりか経営も良くならないということ。住民サービスの面でも良いことはほとんどない。 

 そこで3、4つの病院を1つに統合して、地域に中核病院を配置する取り組みを全国的に進めるべきだ。医師が足りずに「公的な医療」を確実に提供できない現状において、病院の統合と機能の集約化が重要だ。地域住民にとっては、近隣に24時間365日診てくれる病院がある方が良いに決まっている。しかし医療の現状を踏まえて、国民の皆さんに、30分程度の時間を我慢する代わりに隣町に中核病院がある状況というのを、理解してもらう必要がある。 

 この実現のために特に重要なのが政治のリーダーシップだ。地方の首長や議員、国会議員に説明責任が求められる。病院の存廃で首長の選挙をしているようでは、絶対に、永遠に、医療再生はあり得ない。 

 一方で、医療ニーズに対して供給が足りない問題もある。医師については舛添前厚労相が医学部定員1.5倍増に着手したので、近い将来に適当な規模になろう。しかし、早急に整備しないといけないのは看護学校だ。一県一医大ある医師とは違い、時間がかかる。看護師を補佐する人の業務拡大などでタイムラグを埋める取組みも必要と考える。 


医療費の財源はどう考えるべきか 

亀田 国民が望むレベルの医療を提供するには、一定の費用は当然かかる。財源は極めて重要な問題だ。まずは米国のように日本でも、医療における「公益」を明確化した上で病院への寄付を認め、寄付に対する税制上の優遇措置を講じるべきと考える。寄付を医療財源に活用する工夫が必要ではないか。 

 また、混合診療を解禁すべきだ。混合診療の禁止は極めて根拠に乏しい。金持ち優遇といわれるが、これは逆だ。混合診療を解禁すれば費用負担は、全ての治療費から、自由診療部分と保険診療の窓口負担分になるので、かえって多くの人が先端医療を受けやすくなる。医療技術の高度化や、短期間に多くの情報収集が可能になるため保険適用の迅速化にもつながる。保険財政が厳しく病院経営も苦しい今、自らの判断で混合診療に賛成する人々には負担をお願いして良いのではないか。ただ、自由診療の中には非常に際どい医療行為も見られるので、ネガティブリスト方式で解禁すべきと考える。 

 病院での消費税問題も解決すべき課題だ。消費税法では社会保険診療は非課税とされ、患者さまから消費税を徴収できない。しかし、医薬品などの仕人れには消費税がかかるため、医療機関に多額の負担が強いられている。亀田病院グループでは損税として年間8億円近くを払っている。消費税率がアップすると間違いなく倒産する。ゼロ税率の適用など何らかの措置が早急に必要だ。 

 そして、最終的には医療費財源と消費税の議論が出てくるだろう。タブーをなくしてしっかりした議論をしていかざるを得ない。 


最後に医療再生の定義は何か 

亀田 最新の医療をリーズナブルに、より多くの人々にフェアにいきわたらせることだろう。一方で、普通に、一生懸命に医療を提供すれば、健全な病院経営ができ、労働に応じた適正な給与が得られる姿になることも重要なポイントだ。国民に対する啓蒙も大事。我々は医師である前に人間なので、やれることとやれないことがあることに、ぜひご理解をいただきたい。 


プロフィール 
亀田 隆明(かめだ・たかあき)日本医科大卒。心臓血管外科医。東京医科歯科大理事(医療担当)などを経て08年6月から現職。東京医科歯科大客員教授を兼任。財務省財務総合政策研究所の「持続可能な医療サービスと制度基盤に関する研究会」(08年12月発足)のメンバー。