僻地医療 「点」から「面」目指したが・・・




へき地医療 「点」から「面」目指したが••• 
地域医療を守るのは住民であり、医師ではない ・・・・和歌山県古座川町国民健康保険七川診療所 
平松義文元診療所所長(朝日新聞2010年3月4日) 



先月、8年間勤めた和歌山県のへき地診療所長をやめた。http://www.kokushinkyo.or.jp/facilities/date.php?_id=343 
診療所のみが「点」として孤軍奮闘するのではなく、行政や介護、福祉と一体となって住民の健康管理を向上させる「面の医療」を目指したが、かなえられず現場を離れることになった。 

私は長く大学病院で消化器外科医として過ごした。 
末期のがん患者も多かった。 
もう治らないとわかった時、多くの患者は「家で死にたい」と切に願う。 
ある患者に「病院は嫌だ、家で死にたい」と懇願され、勤務終了後や休日に不定期で患者の家に通い始めた。 
家庭に入ることによって患者のこともよくわかった。 

活動は徐々に広がっていった。 
看護師、栄養士や薬剤師もチームに加わった。すべてボランティアでの在宅医療の始まりであった。 

こうした経験をへて2002年、診療所に赴任した。この地をへき地医療のモデル地区としたい、在宅医療をもっと広めたいとの理想からだった。 
だが、着任して甘い考えは吹っ飛んだ。 
医師1人がカバーする住民は約700人。 
独居老人や高齢夫婦のみの所帯が6割以上を占め、介抱する人もいない状況にみな黙って耐えている。 
医療を支えるべき体制は皆無に近かった。 

お年寄りは病そのもので倒れるのではない。 
栄養障害が主要な原因であることが多い。 
老いて衰え炊事する体力がなくなり、栄養バランスの乱れや栄養不足から、体力低下に拍車がかかる。 
私は家内と共に、南紀の海で釣った魚ですしを作り、月に何度か高齢夫婦や独居老人宅に配った。 
良質なたんぱく質をとってもらうためだった。 
生活状況もよく把握できた。しかし、夫婦の無償の配食サービスに同調者は出なかった。 
医師のみでやれることには限界がある。そこで歴代の町長に次のようなことを提案した。 

▽複数の診療所を統合し医師2人の常勤体制とし、効率化を図る。医師の派遣は地域の基幹病院からの定期的派遣体制にし、連携を円滑にする 

▽診療所の隣に老人アパートを造り、医療を受けやすくする 

▽町のデイケアセンターに老人宅への食事の配達機能をもたせ、栄養改善を図る 

▽医療、介護、福祉が情報を共有し、課題に取り組む。これが実現されれば住民の健康と安心感はかなり向上するはずだ。 

この提案を契機に町に懇談会ができ、私も委員に加わった。だが、町の理解は薄く、結局、意見の集約もできないままに終わった。 
でも無駄でなかったと思えることもある。がん末期のお年寄りを自宅でみとった。 
死に至るわずかな時を家族と過ごし、静かな最期を迎えた。在宅医療の神髄がここにある。
最近ある住民が声をかけてくれた。 
「先生はおやじをみとってくれた。それに感動した息子はいま医学部の一回生」。 
将来地域医療に身をささげるという。 
医者冥利に尽きる。 
お年寄りが安心できる町にするため、住民はもっと声をあげてほしい。 
地域医療を守るのは住民であり、医師ではないのだから。