東京大阪リポート「競」 後発医薬品 医療費抑制へ国が推進 病院、薬局に不安の声も



東京大阪リポート 『競』(23) 後発医薬品  医療費抑制へ国が推進 病院、薬局に不安の声も 
2010.12.20高知新聞  
  

 新薬として開発され、長年使われてきた先発医薬品と、新薬の特許が切れた後に同じ有効成分で製造された低価格の後発医薬品(ジェネリック医薬品)。 
今やどちらでも選べる時代だ。 
医療費抑制を目指す厚生労働省は後発薬の普及に旗を振り、新薬主体だった大手メーカーも市場拡大を見越して参入。 
積極的に導入する薬局もある。ただ、医療現場では、効き目や副作用の面から勧めない医師や薬剤師も少なくない。(東京支社・芝野祐輔) 

  ■3万円→1万円 

 「先生(医師)の許可が出ましたので、ジェネリック医薬品に変更できます。メーカーが違うだけで、お値段が安く、効き目は同じです。いかがされますか?」 

 東京都江戸川区の「日本調剤・葛西薬局」。薬剤師が処方箋を持参した患者にこう問い掛けた。 
渡された紙には、胃を治療する先発薬と後発薬の名称と「薬価差」が記されている。 
1日1錠の服用で41・3円差。30日分で1239円、365日分で1万5074・5円の差がつく。 

 日本調剤は、本県など全国で計322店を展開する薬局チェーン大手。 
後発薬使用に積極的で、葛西薬局では薬の在庫約2300品目のうち約650品目が後発薬。 
販売数量では35%を占めている。 

 高血圧や糖尿病など長期間服用するケースでは、薬価差は当然大きくなる。 
同薬局では2~3カ月分の薬を一度に受け取る患者もおり、「先発から後発に切り替えて自己負担額が3万円から1万円に減った、と喜ぶ患者さんもいます」(同薬局)。 

 同じ成分でこれほど価格差が開くのは、研究開発費の差だ。長年の研究成果を基に造られる新薬は、開発過程で人体を対象にした臨床試験などさまざまな試験を繰り返す。 

 新薬メーカーでつくる日本製薬工業協会によると、基礎研究から承認・発売までに9~17年、数百億円から1千億円以上を要した薬もある。 
研究する合成化合物が新薬として世に出る成功率は約3万分の1と極めて低い。 

 新薬メーカーは、開発した薬の物質や製法などに関する特許を取得することで20~25年間の独占的な権利を得られるが、特許が切れると他のメーカーでも同じ有効成分での製造・販売が可能になる。 
そうした後発薬の場合、先発薬ですでに行った試験の多くを省くことができるため、開発期間や予算を抑え、販売価格を抑えられる。 
現在、6千品目以上の後発薬品が市場に供給され、値段が先発薬の半額以下という薬もある。 

  ■普及率頭打ち 

 こうした低価格の後発薬が普及すれば、膨らみ続ける国民医療費の抑制につなげられる。
厚労省は後発薬を「先発医薬品と有効性・安全性が同等であり、代替可能な医薬品」と位置付け、2002年から使用促進に取り組む。 
現在では、医師が処方箋の「変更不可」欄に署名しない限り、薬局で処方される薬を先発薬から後発薬に切り替えられるようになった。 

 欧米では普及率がすでに5~6割に達した国もあり、厚労省も07年に、「12年度までに数量ベースで30%以上」という普及目標を掲げた。これに日本医師会の立場は「反対もしないが、積極的に推進もしていない」(鈴木邦彦常任理事)。 
日本薬剤師会は「普及に積極的に協力する」(三浦洋嗣常務理事)というが、医療現場では後発薬に対する慎重な意見も少なくない。 

 厚労省が10年度、全国の病院や薬局、患者へ行った使用状況調査でも「体調不良や効果に疑問を訴えた患者が数名続いた」など、後発薬の効果や副作用、安定供給を不安視する声が寄せられた。 

 高知市のある開業医は「うちでは使わない。 
理由? 効かんから。 
ある患者さんの血圧が跳ね上がり、原因を調べてみると、ほかの公立病院で出された降圧剤が後発薬に切り替えられていた」と説明。 
ある業界関係者は「10~20年前には粗悪な後発薬が出回り、一度大量に売りさばいた後はろくにフォローしない業者もいた。 
一定年齢以上の医師にはそうした記憶が残っており、後発薬を“ゾロ品”と呼んで嫌っている」。 

 実際、国内の普及率はいまだ20%程度にとどまり、「頭打ちになった感じ。さらなる普及啓発が必要」(厚労省医政局経済課)。目標達成に黄信号がともっている。 

 有効成分は同じでも、添加剤の違いが薬効や副作用に影響するとの不安も根強い。 
後発薬メーカーでつくる「日本ジェネリック製薬協会」の長野健一理事長は「添加剤は先発薬で使用歴のある物しか使っておらず、後発薬が先発薬より副作用が多いというのはあり得ない」と強調する。 

  ■先発大手も参入 

 大手の新薬を中小メーカーが後発薬で追いかける業界の構図に変化の兆しもみられる。 
新薬開発を担う先発メーカーの後発薬市場への本格参入が始まったのだ。 

 製薬大手4社の一角を占める「第一三共」はことし、後発薬や一部の先発薬を販売する子会社「第一三共エスファ」を設立し、事業を開始。同社の担当者は「現在の後発薬市場の規模は推定で約4千億円。 
15年ごろには倍の8千億円、あるいは1兆円になる可能性もある」と予想。 
大手の知名度、信頼度を武器に「他社(先発大手)の大型製品も、われわれのジェネリックとして扱いたい」と鼻息が荒い。 

 こうした製薬業界の動きや国策は、家計の負担減にもつながる後発薬を背押しするが、かかりつけの医師や薬剤師が疑問視するようでは、おいそれと切り替わらない。 
何より経済効率よりも安全性・効果が優先されるべきで、変更が国の“押しつけ”であってはならない。 

 後発薬業界には、病院や薬局を回って営業する医薬情報担当者(MR)が先発メーカーよりも概して少ない点も、医師や薬剤師との信頼関係が深まらない要素としてある。 
開発された後発薬を承認し、その安全性を担保すべき厚労省はもちろん、業界団体、メーカーには安全性確保や情報発信になお一層の努力が求められている。