(単刀直入)大月市立中央病院院長・新田澄郎さん 患者さんが増えていますね



(単刀直入)大月市立中央病院院長・新田澄郎さん 患者さんが増えていますね/山梨県 
2010.12.15 朝日新聞 
  

 良識・生きがい、笑顔の医療(75歳) 


 ――大月市立中央病院の外来患者が増えています 

 「おかげさまで、今年になって診療日1日あたりの外来患者数は330人。 
昨年より約60人増えました。入院は102人で、30人余りの増加です」 

 ――5年前、ちょうど新田院長の就任のころ、常勤医が減り閉院の危機と言われました 

 「医師が僕も含めて7人になり、全員が病院宿舎に住み込んで当直もこなして『7人の侍』を自称しました。病院をつぶしてなるものかという気持ちを、全職員が共有していた。あの一体感が出発点でした」 

 ――院長就任を決めたのは69歳の時。そもそもどういう病院をつくろうと思ったのですか 

 「医師が良識と生きがいを持って仕事ができて、その仕事が地域の人の役に立つ環境を整備したかった。 
病める人の収入や地位と関係なく、医師が自分のありったけの力で診療することが僕のいう『良識』です」 

 「良識あるドクターほど、日常診療で自分の判断が正しいかどうか迷います。 
迷った時などに関連病院である東京女子医大との連携を生かせるようにした。 
各科のベテラン専門医が週1回来るようになったし、患者さんが望めば医大の病院(東京都新宿区)に相談できる態勢をつくりました。 
(大月と新宿との)特急で1時間という地の利を生かして、大学と同じレベルの医療環境をここで提供することをめざしています」 

 ――大学病院の衛星病院みたいなイメージですね 

 「そんな態勢が地域で評価されてきたことが、患者の増加に結びついてきたんじゃないか。 
最近も、手足のしびれを訴える患者さんを単なる神経疾患とだけ片づけず、医大で詳しくみてもらうと筋繊維の珍しい疾患でした。 
めったにないような心筋症の症状が分かった例もある。がん発見では専門医の詳しい診断が一層大切になってきます」 

 ――地方病院ならではの特色もありますか 

 「たとえば腎臓疾患で透析している患者さんは約70人います。いよいよ透析せざるを得ないという判断は、指導医が相当の長期間、一人の患者の様子をぎりぎりまで見極めた上で下している。丁寧にみています」 

 ――丁寧な診療は一面でコストを上げます。大月中央病院も赤字削減が大きな課題ですが

 「公立病院でも、単年度黒字の達成は必ずしも難しくない。 
たとえば、今日退院してもあす退院してもいい患者さんがいるとすれば、あす退院と決めてしまえば収入は増えます。でも患者さんにとってはどうだろう」 

 ――それは今日の方がいい 

 「自治体病院の赤字削減を総務省は指導しています。でも医療にはお金がかかるという前提抜きに、国がやみくもに切り詰めろというのなら、僕はそれにははっきりと反対します」

 「うちの病院ではコスト削減策として以前に看護師勤務手当を削った結果、ナース不足になりました。 
いまはかつての給与水準以上にしましたが人手不足は続いています。全身麻酔の手術が6例もある日など、彼女たちは疲れ果てている。 
患者や手術が増えると病院の赤字は減るものの、医療スタッフの疲労は募ってしまう現状なのです」 

 ――患者数の増加を単純に喜べないわけですか 

 「赤字のままでいいとは僕も思ってはいません。 
常勤医を増やす努力を続けるし、当直勤務の見直しも検討している。 
病院勤務医の専門分野、担当の曜日といった情報を、地元の開業医の人たちと情報交換することも必要と思っています」 

 「でも、公立病院の赤字は絶対に許されないのか、利用する地域の人たちも行政も議会も、じっくり考えてもらいたい。 
40年前には『55歳は老人』という意識でした。ここ何十年の間に日本人の平均寿命は飛躍的に延び、高齢化で難しい病気が増えている。良質の医療を割安に手に入れることはもうできないのに、多くの人はかつての意識で『安い医療は可能なはず』と考えているのではありませんか」 

 ――そんな医療が難しい時代に、現場にかかわり続ける原動力は何なのでしょう 

 「僕が小学校1年の時に腸チフスで50日間入院して、一時は命が危ういと言われたらしい。 
その時町医者の先生が助けてくれました。その先生ががんになって、もう余命いくばくもないという時、医学生になっていた僕がお見舞いに行くと、『がんばれ』と言われた。医の心を託されたような気がしました」 

 「治って退院していく患者さんの笑顔を見ることが、医師や医療従事者の生きがいです。自分自身がそうだったし、僕を助けてくれた先生もそうだったに違いない。後に続く人たちがそうした生きがいを持てる環境を整備すれば、笑顔も続く。そういう気持ちでやっています」 

   * 

 にった・すみお 1935年宮城県登米市生まれ。東北大学医学部卒、大学院医学系修了。専門は呼吸器外科で、肺機能の研究と同時に手術も多く手がけた。同大抗酸菌病研究所(現・加齢医学研究所)助教授などを経て、87年東京女子医大主任教授に。呼吸器センター長、大学病院副院長を経て2005年4月、大月市立中央病院院長に就任。 


 ●取材を終えて 赤字と向き合う必要 

 大月中央病院を取材しようと思ったのは、眼科をはじめ各科の診療の評判が大月の町で上がっているからだ。高齢の患者から、医師の何げないひと言が「うれしい」という声を聞いた。 
自治体病院が頼れる、親しみのある存在になると、市民のおおかたの気分は穏やかに、落ち着いてくるようである。 

 でも新田院長は「道半ば」という表情だった。取材では地方医療の抱える様々な課題が改めて浮かびあがった。 
外来は増えたものの、10年前の6割の水準だ。やはり10年前に23人いた常勤医はようやく10人。常勤医はおいそれとは見つからず、非常勤医がカバーしているが、その人件費は常勤医よりも割高で、コスト増の大きな要因だ。 

 自治体病院の「赤字」について市民一人ひとりが考えるため、病院も市も、経営状況についてもっと情報公開するべきだと感じた。 
データが示されて初めて、地域の笑顔を守るやむを得ない赤字なのか無駄遣いの結果なのかが分かる。それは何も大月の病院だけの話ではないはずだ。(永持裕紀) 


 <大月市立中央病院> 大月市大月町花咲。発足は1962年。総収益のピークは97年で、2009年度の収益はその6割強。同市は一般会計から約2億円を繰り出しているが赤字が続き、累積欠損金は約12億円(今年3月末時点)。11年度末で赤字を解消する「改革プラン」を実行している。常勤医10人、非常勤医は約65人。