隠岐島前病院は3島民約6500人のよりどころだ。

 

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[語ろう地域医療]隠岐島前で(上)スーパー診療所(連載)=島根 
2010.11.25 読売新聞  
  

 ◆総合医の拠点目指せ 特養ホームと連携も 

 西ノ島、中ノ島、知夫里島の3島を中心とする隠岐諸島・島前地区で唯一の病院である隠岐島前病院は、3島民約6500人のよりどころだ。診療科の枠を越え、あらゆる患者を受け入れる「スーパー診療所」を目指している離島医療の拠点には、地域医療の明日を担う若者が島外から集まっている。(大橋裕和) 

 「隠岐島前病院を、スーパー診療所にしたい」 

 白石吉彦・隠岐島前病院長(43)は21日、松江市内であった地域医療フォーラム「皆で止めよう、島根の医療崩壊を!」で約200人を前に語った。 

 スーパー診療所--。各診療科の高度な専門医の集合体である病院ではなく、診療科の垣根を越えてすべての患者に対処できる「総合医」の集まる地域医療の拠点のこと。あらゆるケースに対処してきた白石院長の造語だ。 

 隠岐島前病院は、特別養護老人ホームなどの福祉施設とも連携している。 

     □ ■ 

 フォーラムの6日前。西ノ島町宇賀の特別養護老人ホーム「和光苑」を、隠岐島前病院で研修中の小村純子さん(28)が、内科の斉藤亮平医師(32)と一緒に訪ねていた。入所者57人の週一度の定期検診日だ。 

 「いや。いや。絶対いや!」 

 4人部屋に大声が突然、響いた。同苑の看護師からインフルエンザ予防接種を告げられた70歳代の男性入所者だ。小村さんは「すぐ終わりますよ」とゆっくり語りかけ、ベッドであおむけの男性の左腕に注射した。その直後だった。小村さんは男性に右ももをけられ、よろけた。 

 小村さんはその時、笑顔を崩さなかった。「誰でも注射はいやですから」。病院に戻って白石院長に話すと「認知症の患者さんにけられるなんてよくあるよ」と笑われた。 

     ■ □ 

 隠岐島前病院は、同苑だけでなく、養護老人ホーム「みゆき荘」(約50人)の定期検診も行う。月2回、両ホームの看護師やケアマネジャーが隠岐島前病院に集まって「サービス調整会議」を開き、入所者の体調を話し合う。 

 島前の医師は、浦郷、海士、知夫村の3診療所を含めて計7人。外来、入院患者、往診、急患処置をすべて行っている。 

 隠岐島前病院は2008年から、県立中央病院(出雲市)の研修医1人ずつ、1か月交代で派遣を受けている。その1人である小村さんは、本土の総合病院では入院できないような患者を、この病院が受け入れているのに気づいた。 

 足を骨折した高齢男性は「認知症で自宅だと、折れた足で歩き回るので」と妻が入院を希望し、本来なら通院で十分なのに認められた。釣りで手首が関節炎になった男性も。「患者さんの要望にこんなに応える医療があるんだとびっくりしました」 

 白石院長は言う。「地域医療崩壊というけれど、島前の医療は崩壊していない。患者さんが来たらとにかく診る。ベッドが空いていたら入院もできる。島前の病院はここだけだから」。その言葉には、1人も断らずに受け入れてきた自負がある。 

 隠岐島前病院が目指す「スーパー診療所」。「医師1人で患者の頭のてっぺんから足の先まで診ている」地域医療のプロフェッショナルの姿を、小村さんは学んでいる。 

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 ご意見を郵送か、ファクス(0852・23・1413)、メール(matsue@yomiuri.com)で松江支局へお寄せ下さい。 


 〈隠岐広域連合立隠岐島前病院〉 

 内科、外科、小児科など8診療科があり、病床は44床。2009年度の外来患者は延べ約2万7000人、入院患者は同約1万2600人。 

 常勤医は3人。ほかに知夫村診療所の医師が月・木曜に、浦郷診療所の医師が火・木曜に診察を行う。精神科・耳鼻科・眼科・産婦人科・整形外科の5診療科は、松江赤十字病院などの非常勤医師が受け持つ。 

 スタッフはほかに、看護師30人、薬剤師2人、作業療法士3人、臨床検査技師1人、事務担当7人