市立病院建設の行方 不況下の公共事業



<市立病院建設の行方 不況下の公共事業>下*脱仕様書*安価生む発注元の知恵 
2010.11.12 北海道新聞        

 「経費を大幅に削っても、いい公立病院は建てられる。発注する自治体が知恵を絞り汗をかけば、ゼネコンも協力してくれる」 

 10月22日、小樽市民センターで市医師会が開いた講演会。壇上の福島県三春町の遠藤誠作・元保健福祉課長の言葉に医療関係者や市民約300人が聞き入った。 

*1平方メートル17万円 

 同町は、県立病院が町に移管されるのを機に施設を全面改築し、昨年5月に開院させた。鉄骨3階建て延べ約6千平方メートルで86床、手術室(1室)も備える。建設費は1平方メートル当たり17万円だった。 

 一方、小樽市が計画する新市立病院(388床)は現段階の試算で同33万円。規模や機能に違いがあるものの、単価の差は大きい。 

 三春町が安くできたのはなぜか。現在は北大公共政策学研究センターで研究員を務める遠藤氏は「国がまとめた仕様書を使わなかったから」と説明する。 

 仕様書は、正式には「公共建築工事標準仕様書」と呼ばれ、建物の構造から床材の厚さ、塗料の種類や塗装の回数に至るまで細かく規定。小樽市を含め大半の自治体が設計や建設費の算出の根拠にしてきた、公共施設建築のバイブルだ。 

 三春町は新病院の収支計画を基に建設費の上限額を算定し、東京の大手ゼネコンに設計・施工を一括発注した。詳細については仕様書に頼らず、ゼネコンが民間病院の施工で培った経験を生かした。 

 自治体にとって、仕様書に従うことが適正な建設額算出の根拠の一つになっているのも事実だ。このため、他の自治体からは「起債(借金)や補助申請の際に国や都道府県の理解が得られるのか」と「三春方式」に疑問の声もある。 

 三春町の場合、移管の際に県から初期投資として、建設費11億円を上回る19億円の支援を受けるなど、有利な状況もあった。ただ、同じく仕様書に頼らずに市立病院建て替えを進める岐阜県下呂市も、基本設計を終えた段階で建設費の概算額や事業計画などを県や国に示し、起債や耐震交付金の導入を実現した。 

*独自の策定例も 

 国のまとめた仕様書からの脱却は、独立行政法人・国立病院機構(東京)でも進む。5年前に独自の標準仕様を策定したのだ。 

 同機構は今春、札幌市西区に北海道医療センター(500床)をオープンさせた。5階建て延べ2万9千平方メートルで、建設費は1平方メートル当たり19万円。独自仕様の採用前に比べるとほぼ半減した。担当者は「低コスト意識を内外に発信し続け、ようやく浸透してきた」と語る。 

 小樽の新市立病院の建設は、将来の市財政や地域経済にも直結する。それだけに、建設の額や手法が与える影響を十分に考える必要がある。 

 夕張や下呂など各地の病院で経営改革にかかわる城西大(埼玉県)の伊関友伸准教授は「地域医療をどうするかは来春の統一地方選の争点になり得る大きなテーマ。対立を恐れず、まち全体で建設のあり方を考えてほしい」と語る。 

 行政や市議会だけでなく、市民の当事者意識も問われている。 

【写真説明】町立三春病院の前で「自治体が本気になれば、民間並みのコストで公立病院を建てられる」と語る遠藤氏