亀田メディカルセンター・・・ ローカルかつグローバルな経営戦略で 高度な医療を提供するブランド

亀田メディカルセンター 
ローカルかつグローバルな経営戦略で 高度な医療を提供するブランド
(病院商工ジャーナル 2010年11月号商業・サービス最前線) 


 全国の病院ランキングで常にトップの地位を占める亀田メディカルセンター(亀田総合病院を中心とした亀田クリニック、亀田リハビリテーション病院などの医療サービスの総称)を運営する医療法人鉄蕉会(亀田隆明理事長)。 
南房総・鴨川市というローカルな場所にありながら、高度な医療サービスの提供と医療従事者の教育にこだわり、医療のグローバル化も推進中。 
長寿社会を背景とし、地域に大きな雇用を生み出す「産業」として育っている。 
  
江戸期から地域医療に従事 
臨床と人材育成が両輪 
  
 太平洋を目前に臨む温暖な気候の千葉県鴨川市。その地に根ざし、市の人口36,000人に対し3,700人(常勤)の雇用を生み出しているのは、亀田メディカルセンターを運営する鉄蕉会と関連法人である。 
同じ南房総で事業を展開している新日鉄君津製鉄所は1968年の開業時に正規雇用者が26,000人いたが、生産設備の合理化などで現在の雇用は約3,400人程度。 
単純に雇用だけで比較すれば、医療サービスが製鉄に肩を並べるような地域の大きな産業に育ってきているのだ。 
  
 亀田メディカルセンターには、中国やロシア、アメリカなど海外からも年間延べ700名超の患者がやってくる。 
鴨川駅から東京駅はJRの特急で2時間近く。 
こうしたローカルにありながら、亀田メディカルセンターの医療サービスはグローバルに展開されているのである。 
  
 鉄蕉会は亀田隆明理事長とご兄弟が率いている。 
亀田家は、寛永時代から11代続く医師の家系で、六代目・自證が長崎で蘭学を学び、診療所の脇に学問所(鉄蕉館)を開設した。 
「鉄蕉会のルーツは高度な医療の実践と医療者の教育。それはいまでも変わっていません」と亀田理事長は語る。 
  
 発展の契機は第二次大戦後にサナトリウムを建設して結核の治療に取り組んだこと。 
先進的な治療法で、関東近県から患者が集まるようになった。 
以降は、三大成人病(がん・心疾患・脳疾患)の治療をはじめとする高度医療を提供する環境を整える。 
  
 1954年に准看護婦学校(現・亀田医療技術専門学校)を設立するとともに、86年にいち早く厚労省の臨床研修指定病院となった。 
  
 最新の診療機器や治療機器、手術室などハードウエアヘの設備投資にも積極的だ。 
経営者自らが足を使い、頭を下げて優秀な医師を集める。 
医療と教育の両輪で高度な医療サービスを提供する仕組みができ上がっている。 
そしてそれを求めて患者が遠くからやってくる。 
医療技術には定評があり、希望があれば患者の家族に手術風景を公開する。「入院するならこんな病院がいい」と評判のブランド病院となっている。 
  

 ローカルでの貢献とグローバル化へのスタンス 
  
 亀田メディカルセンターは、昨年8月にJCI(Joint Commission International)という病院を評価・認証する国際非営利機関の認証を日本で初めて取得し話題となった。 
JCIの審査は、治療現場はもちろん、患者とその家族にインタビューを行って医療サービスの品質を評価するなど徹底したもので、認証取得はメディカルツーリズム受け入れの前提条件にもなる。 
  
 羽田空港の国際化も医療の国際化の追い風になる。成田から鴨川まで車で2時間かかっていたものが、羽田から東京湾アクアラインを渡れば1時間15分に時間短縮される。 
医師や看護師など、バイリンガル・バイライセンスの外国人スタッフを雇用し、国際病棟を設置することも視野に入れている。 
  
 それでも亀田理事長は「外国人患者も積極的に受け入れるが、それはJCI取得の一義的な目的ではない」ときっぱり。 
  
 JCI取得では直接の受審費用が500万円、経費が500万円、ほかにも什器・設備類の更新で合計4,000万円程度の支出になった。 
英文の審査書類の取りそろえ、英文の審査基準を職員向けに日本語に翻訳するなど、日本人4人、米国人2人の職員がかかり切りになり、職員全体を巻き込むようになってからも7カ月の時間を費やした。反発や疑問の声もあったという。 
  
 「そうまでして認証を取得した理由は、安全管理など病院全体の運営レベルをグローバルな観点から見つめ直すためでした。 
医療サービスのレベルと質を世界水準に合わせた後、その高度な医療サービスを享受するのは第一に地域の住民。 
海外からの患者が増加する効果は否定はしませんが、それを当初の目的としていたわけではありません」 
  
 亀田メディカルセンターを訪れる外来患者は一日3,000人。 
その87%は千葉県南部に暮らす住民だ。 
鉄蕉会にとって、医療の国際化の推進と医療による地域貢献は相反するものではなく、矛盾なく一体化している。 
  

世界初の電子カルテ、ITで地域医療ネットワークを構築 
  
 地域医療の充実に力を注ぐ鉄蕉会が推進しているのが、開業医など地域の医療機関との連携だ。 
急性期病院を退院した後も、長期療養やリハビリを必要とする患者は少なくない。 
そこで、中核病院と長期療養型医療機関やリハビリ機関、診療所、福祉施設など機能別の医療機関を包含した地域医療ネットワークを構築して、患者に対して継ぎ目のない医療サービスを提供することが重要なテーマとなる。 
  
 鉄蕉会が南房総地域で構築しているのが、亀田型IHN(lntegrated Healthcare Network)の構築。 
米国のIHNは地域医療機関の経営も統合する。 
それに対して、亀田理事長が提唱・実践している亀田型IHNは、開業医など独立した医療機関同士が連携して地域医療ネットワークを構築することを目指すものだ。 
  
 カギとなるのは医療機関が患者の診療情報を共有できる情報システムの存在だ。 
亀田型IHNのベースとなっているのは、法的整備がなされる以前の1995年に、鉄蕉会が全国に先んじて開発・導入した電子カルテである。 
  
 電子カルテ導入のきっかけは95年に独立型の外来専門施設として開設した「亀田クリニック」のオープン。情報の共有化を図るツールが必要となった。 
この医療情報システムを地域の医療機関が利用できるよう端末を無償で貸し出しするなどして南房総地域における医療ネットワークを形成した。 
それによって、より広い地域医療情報ネットワークが構築され、患者は病状の経過に応じて継ぎ目なく治療を受けることができる仕組みが整備されている。2002年からは希望すれば患者も自分のカルテを閲覧できる「PLANET」を開発した。 
  

医をコアにした地域社会モデルの創成 
  
 いま、鉄蕉会が目を向けているのは、「医をコアにした新しい社会モデルの構築」という領域だ。 
その柱は、既述の「国際医療の推進」に加えて、「医療系大学の設置」「医薬品・医療機器産業の育成」「eガバメントの原型をつくること」の4つ。 
  
 前述の通り、鉄蕉会は看護師養成機関として亀田医療技術専門学校を運営していたが、いま、新たに4年制の医療系大学「(仮称)亀田医療大学」を2012年に開学すべく、学校法人鉄蕉館を新たに立ち上げ、準備を進めている。 
背景にあるのは、看護師不足だ。地域では看護師学校が相次いで閉校し、看護師の質と量を確保することが喫緊の課題となっている。 
まずは、看護学部からスタートするというが、将来的には新たな学部を設置する可能性もありそうだ。 
  
 さらに鉄蕉会は、医薬品と医療機器を製造する産業を地域で育成することを視野に入れている。 
現在、医薬品と医療機器は輸入超過の状態が続いている。 
一方、医薬品のベースとなるバイオケミカル技術も、医療機器のベースとなる精密機械技術も、日本は世界の先端を行く。 
その技術力と世界水準の医療サービスが結びつけば国際競争力を持つ医療機器が開発できるはずだ。 
「産業界と手を携えて医療分野における製造業を育成するための研究所を創設したい」と亀田理事長は力強く語る。 
  
 eガバメントの原型づくりは電子カルテを源流とするITの活用範囲を拡大させることだ。 
既に10年2~7月に厚生労働省が全国7カ所で行った社会保障カードの実証事業の一環として鴨川市と亀田総合病院が共同で「鴨川市社会保障カード実証事業」を実施している。 
この事業の目的は、住民が自宅のパソコンから一枚のICカードで受診情報、健診情報、医療保険の資格などが参照・確認できるシステムの有効性を確認すること。その基盤技術を提供したのが鉄蕉会だ。 
eガバメントの原型をつくる取り組みはもう始まっている。 
  
 「手の届く範囲で新しい社会モデルをつくることが私たちの役割」と亀田理事長は語る。
その言葉には、南房総を活性化したいという願いと、鉄蕉会の取り組みが他の地域における地域活性化推進のヒントになればという思いが込められている。 
  
 今日ではグループのベッド数1,000床、診療科目31科、医師の数は大学病院を除いて日本最大規模の430万人(10年4月1日現在)という規模に発展している亀田メディカルセンター。 
しかし、その歩みは決して順風満帆だったわけではないという。 
亀田理事長は「ほとんど失敗と挫折ばかり」と振り返る。一例が電子カルテだ。 
スタート当初は数十億円の赤字を出したという。当時、カルテの電子保存は法的に認められておらず、紙カルテも併行して作成せざるを得ず、手間が2倍かかったためだ。 
  
 電子カルテの開発といい、JCI認証の取得といい、チャレンジングな発想はとこから生まれるのだろうか。 
  
 「自分や自分の家族が患者だったらどういう診療をしてほしいか第一に考える」という亀田理事長の思いがその答えだ。 
それを組織全体に行き渡らせる合い言葉が「Always Say Yes」。ここに込められているメッセージは、患者のためになることを判断基準として実践するということ。鉄蕉会はこれからも患者の視線で医療を高度化するという、終わりのない道を歩み続けていくことだろう。
  
  
ジャーナリスト 小林秀雄