出産育児一時金の支払い制度、義務化撤回求め訴訟へ



出産育児一時金の直接支払い制度,義務化撤回求め訴訟へ 
【2010年2月4日 メディカルトリビューン】 

4月提訴に向け,原告団募集 
 昨年(2009年)10月の全面実施予定が半年延期された出産育児一時金の直接支払制度について,このままでは産科診療所が運営困難になるとして,全国の産科・助産所の開設者が国を相手取り,施行義務化の撤回を求める行政訴訟を東京地裁に起こすことになった。 

産科中小施設研究会(世話人=池下久弥・池下レディースチャイルドクリニック院長)が中心になり,原告団を募る(「原告団参加のお願い」参照)。 
原告目標は助産師30人を含む170人とし,4月提訴に向け準備を進める。 


国の制度変更でなぜ借金をしなければならないのか 
  
出産育児一時金の直接支払制度は,妊産婦が多額の現金を用意しなくても出産ができるよう,それまで被保険者(妊産婦)が出産後に保険者へ請求していた原則42万円の一時金(産科医療補償制度に加入していない施設では39万円)を,保険者から医療機関に直接支払うようにしたものだ。 
先の自公政権が決めた緊急少子化対策の1つで,昨年10月から来年(2011年)3月末までの暫定措置になっている。 
  
しかし,保険者から医療機関への支払いがレセプト請求同様の2か月遅れとなることから,これまで窓口現金収入で運営してきた産科医療機関側は運営資金が不足するとして猛反発。 

新制度についての説明も遅れたことから,緊急の署名活動が行われた。 
その結果,昨年9月の民主党政権発足直後に,半年間の全面施行延期が決められた経緯がある。
  
直接支払い制度については, 
「分娩費を払わない妊産婦の未収金問題がなくなる」,「多額の現金を用意しなくても出産できる」など,医療機関と妊産婦双方にメリットがある点が強調されがちだ。 
しかし,健康保険に未加入の妊婦は制度の対象外となるため未収金問題の解決にはならないほか,出産退職で健康保険証の異動がある場合や,急に分娩施設を変更した場合に事務手続きが混乱するなど,制度の不備も指摘されている。制度導入に合わせて分娩費を数万円単位で引き上げた施設も多い。 
  
半年間の施行猶予で一息ついていた産科医療施設側だが,中小の産科診療所や助産所は,制度全面施行を前に再び資金不足の懸念を強めている。 

月間に100分娩を扱う施設ならば,単純計算で2か月間に8,400万円の運営資金が不足するが,その調達のめどが立たないためだ。 
  
運営資金の不足分は貯金の切り崩しか,金融機関からの融資で賄うことになるが,他のローンが残っていたり,土地建物が担保に入っていたり,院長が高齢だったりすれば融資は受けにくくなる。 

分娩費用が収益のほとんどを占める助産所では,融資を受けるのは診療所よりさらに厳しい。 
しかもその返済に金利がかかるため,産科医や助産師からは「必要のなかった借金を,国の急な制度変更のせいでなぜ背負わなければならないのか」という怒りの声が漏れる。



出産直後に一時金が振り込まれる新制度を 
  
訴訟は,「分娩機関が一時金の直接支払制度を利用する義務がないことの確認」を趣旨とする。
妊産婦の希望によって直接支払制度を利用することもできるが,医療機関側の義務ではないことを確認するものだ。 
もともと,同制度が健康保険法61条(保険給付を受ける権利を譲渡することはできない)に違反していることなどが根拠となる。 
原告団の第一次〆切は3月1日。提訴は4月1日を予定する。 
  
原告団の中心となる産科中小施設研究会では,訴訟と併行して政府与党への働きかけも進め,直接支払制度に替えて,妊産婦が出産直後に一時金の給付を受けられ,分娩費の支払いに充てられる新しい制度の導入を求めていく。 
 原告団長を務める池下氏は,直接支払制度によって閉院を決める診療所が既に出てきていることを紹介。 
「地域で分娩を担ってきた仲間が,法律違反の拙速な制度によって廃業しなければならないのは耐えられない。産科診療所が廃業すればお産難民が出ることにつながる。 
日本のお産の49%を担っている中小の診療所を経営危機に追い込むような制度は,絶対に阻止しなければならない」と訴えている。