「特定看護師」の導入 国民医療の将来を念頭に



(医を語る)「特定看護師」の導入 国民医療の将来を念頭に 飯田俊彦 /栃木県 
2010.08.25 朝日新聞  
  

 去る5月、出産時の妊婦の裂傷の縫合技術を助産師が習得することを目的とした、全国規模の研修会が日本助産師会により開催された。私は、その実技を指導する講師として参画してきた。 

 一般に、出産にかかわる産道裂傷の縫合修復は産科医にのみ許される医療行為であると考えられているが、一方で軽度の裂傷であれば助産師が縫合修復を行っても問題はないとする考えも以前からあった。助産師と医師との境界が不明確である領域に一歩踏み込んで助産師の業務を拡大しようとする機運は、昨今の社会問題化している産科医不足が強い追い風になっているのは間違いない。 

 そして、この看護職の業務拡大の流れは、単に助産師の縫合問題にとどまらず、今や「特定看護師」と呼ばれる看護専門職の創設問題という大きなうねりとなりつつある。 

 特定看護師制度とは、これまで看護師が行うべき診療補助行為には含まれない、気管内挿管や創傷縫合処置などの特定の医療行為を、それに見合う教育と経験により高い能力を備えた看護師に自律的に行わせようというものである。今後さらに医療が高度化、複雑化していくなかで、その質の向上にはチーム医療が必須である。 

 その実現には、職種の機能分化という縦のつながりだけでなく、スキルミクス(多職種協働)という職種間の横の連携が重要な意味を持ってくる。ここで各職種間で相互不可侵の高い壁を設けるのではなく、職種が重なり合う自由度の高い緩衝地帯を設ければ、その連携はより円滑になるだろうとの考え方である。この、医師と看護師の境界線を守備範囲とするのが特定看護師というわけだ。 

 この制度設立を念頭に厚労省はすでにその検討段階に入っており、これに対し日本看護協会は法制化による早期導入を強く主張している。一方で日本医師会は、新たな看護職種の創設は既存看護師の職務制限につながり、これによりさらなる医療職の労働力不足が地域医療の崩壊を招く、という不安から「断固反対」の立場をとっている。 

 互いの意見交換すらなく一方的に主張し合う様は、国民医療の保全を大義名分に掲げながら、実はそれぞれの職能団体としての権益を優先しているようにすら見える。 

 特定看護師問題がこの利権の綱引きによって矮小(わいしょう)化されるのではなく、厚労省が推し進めようとしているチーム医療やスキルミクスという考え方が、将来の国民医療にとって本当に正しい選択かどうか、もしそうならその実現に向けた最短距離は何か、この一点で議論されることを望む。 

 (済生会宇都宮病院産婦人科科長)