首都圏医療機関、医療ツアー海外にPR・受け入れへ国際認証取得・富裕層狙い人間ドック・言葉の壁など課題も



首都圏医療機関、医療ツアー海外にPR・受け入れへ国際認証取得・富裕層狙い人間ドック・言葉の壁など課題も(2010/7/31, 日本経済新聞) 

  

首都圏の医療機関で海外から治療や健康診断に訪れる患者を受け入れる医療ツーリズムに取り組む動きが広がっている。 
政府が医療滞在ビザの創設を検討し始めたことなどが後押しとなり、旅行会社と提携する例も出始めた。 
しかし、実際の受け入れ人数はまだ少ない。 
市場拡大には医療現場で多言語に対応できる体制を整えるといった課題もある。 

 「自分の疾患を治せる病院が自国にはない。 
そちらで治療できないか」。 
千葉県鴨川市の亀田メディカルセンター。 
1日に平均2500人の外来患者が訪れる国内有数の医療機関で、外国人の受け入れを担当する国際関係部のパソコンには、海外からこんなメールが1日に十数件届く。 

 同センターには2009年度に725人の外国人患者が訪れた。 
中国や韓国、米国、カナダなど国籍は様々。 
約9割は日本在住の外国人だが、海外からも数十人の患者を受け入れており、その数は年々増えている。 

 海外からの患者受け入れ強化に、医療水準の国際的な認証機関であるJCIの認証を国内で初めて09年に取得した。 
「羽田空港の国際化でアジアからのアクセスが一段と改善する」と亀田隆明理事長は期待する。 
  

収益確保の好機 

 昭和大学横浜市北部病院(横浜市)も中国、韓国などから約50人の患者を受け入れた。
観光庁の医療ツーリズムの研究会メンバーの工藤進英副院長は「開国して外国人を受け入れないと世界に取り残される」と危機感をあらわにする。 
外国人を積極的に受け入れることで医療市場が拡大すれば「技術の進化や医療従事者の増加につながる」(工藤副院長)。 

 海外からの患者増は医療費抑制に苦しむ医療機関の収益確保に貢献する可能性もある。 
外国人患者は日本の公的医療保険が使えず自由診療の扱いになるため、手間を考慮して治療費を高く設定することもできる。 

 健康診断需要を取り込もうという動きもある。 
戸田中央医科グループの総合健診施設、戸田中央総合健康管理センター(埼玉県戸田市)は11年4月から、旅行会社と組んで中国人対象の健診コースを開設する。 
最新型の磁気共鳴画像装置(MRI)なども利用する約15万円のコースを用意。年収3000万円以上の富裕層がターゲットだ。 

 虎の門病院(東京・港)は2月から3月にかけて、人間ドックに中国人やロシア人ら7人を受け入れた。4月にはJTBと提携、今後も富裕層を中心に「外国人の受診者数を徐々に増やしていきたい」(同病院)。 

 しかし、どの医療機関でも外国人を受け入れられるわけではない。例えば言葉の壁の問題。意思の疎通ができなければ治療も検査も難しい。 

 亀田メディカルセンターには英語と中国語を話す専門職員が2人ずついる。中国人とフィリピン人の看護スタッフも計9人おり、患者の宗教や生活習慣に合わせた食事も出す。戸田中央総合健康管理センターは連携する旅行会社が日本語が分かる中国人医師を同行させる計画。虎の門病院は質問窓口や通訳の手配などをJTBに委託した。だが、ここまで手厚い体制を取ることができる医療機関はほとんどない。 
  

亀田メディカルセンターの国際関係部には、海外からの問い合わせメールが1日に十数件届く(千葉県鴨川市) 
  

専門通訳を養成 

 東京通訳アカデミー(東京・千代田)は09年から、医療通訳の養成を始めた。現在、英語と中国語を合わせて約50人が受講している。中国語コースは日本在住が長い中国人が目立つ。岡村寛三郎学院長は「医療と語学の両方の知識が必要なので、授業についていくのは大変。途中で脱落してしまう人も多い」と話す。 

 勤務医不足の中、病院の受け入れ能力にも限りがある。癌研有明病院(東京・江東)は05年に外国人のがん患者の治療受け入れを始め、09年度は22人が訪日した。それでも日本人患者への対応を考慮すると「現状で手いっぱい」(同病院)。 

 日本政策投資銀行は20年時点の潜在的な医療ツーリズムの市場規模を観光も含めて全国で5500億円と試算する。植村佳代副調査役は「外国人専用の窓口があるタイのように、病院側の受け入れ体制の整備が必要だ」と話す。海外からのアクセスでは国内の他地域より優位に立つ首都圏だが、乗り越えなければならないハードルは高そうだ。