医療最前線=病院・診療所連携で地域医療を充実 役割を分担し地域完結型に



医療最前線=病院・診療所連携で地域医療を充実 役割を分担し地域完結型に 
2010.07.19 西日本新聞  
  

 医師不足などに悩まされる中で、地域医療の充実を目指す取り組みが医療機関の間で進められている。その一つが、病院と診療所による医療連携の強化。それぞれの役割分担による地域完結型の医療連携を構築し、質の高い医療を提供しようというもの。“病診”連携の現状と今後の展望を、社団法人日本医師会副会長の横倉義武氏と聖マリア病院院長の島弘志氏に語ってもらった。 


 ●患者に質の高い医療継続へ 聖マリア病院院長 島  弘志氏 

 ●2人主治医制へ安心感醸成 日本医師会副会長 横倉 義武氏 

 ▼医療へ期待と要望高く 

 -地域医療が抱えている課題をどう見ますか。 

 横倉 病院勤務医の専門医志向が強くなり、かつ患者さんの医療に対する期待と要求が強くなってきています。そのために、専門分化された診療科に業務が集中することとなり、医師のみならず他の医療従事者も疲弊を来しているのが現状です。多忙な病院勤務医の負担を減らすために、書類の作成などの事務作業を代行するドクターズセクレタリー(DS)を配置する医療機関への診療報酬が大幅に増額され、DS導入の追い風になりそうですが、医師不足という根本的な問題解決には至っていません。 

 その問題解決の一つとして、地域医療連携による2人主治医制の試みがあります。 

 -求められる地域医療連携のかたちは。 

 横倉 2人主治医制とは、急性期病院群、回復期リハビリ病院群、療養病院群の各医療機関と在宅ケアを行うかかりつけ医との連携により、患者さんの疾病の経過に応じて連携しながら適切な医療を提供しようというものです。かかりつけ医で定期的なフォローを行い、病院の機能が必要になったときに病院を紹介し治療を行う。その後の経過によって、再びかかりつけ医を逆紹介するという、循環型の医療の流れを形成しています。 

 しかしながら、スムーズな医療連携がなされていない現状もみられます。例えば、患者さんが医療連携によってこれまで通っていた病院との直接のつながりがなくなってしまうことに不安を感じたり、一方では、かかりつけ医が、医療連携において一定以上の医療の質を維持するために必要な治療の標準化や情報共有のための体制整備に新たな投資が必要となるなどが挙げられます。 

 -打開策は。 

 横倉 一番大切なことは、医療連携に対する患者さんの信頼感や安心感を醸成することだと考えます。そのためには、連携する医療機関同士が顔の見える関係をつくり上げ、地域における役割分担を明確にして合意形成も図っていかなければなりません。こうした取り組みを推進する上では、「地域連携クリニカルパス(以下、地域連携パス)」をいかに活用するかが大きな鍵となります。 


 ▼地域連携パスを活用 

 -地域連携パスの具体的な役割は。 

 島 地域連携パスは、患者さんを送り出す医療機関と受け入れる医療機関で、あらかじめ各疾患に応じて、標準的な治療方針や治療期間、転院の基準などを定めた診療計画書です。さらに、各医療機関が経過観察に必要な情報を時系列で記録できる表になっています。送り出す医療機関の医療行為など、患者さんにとっては資産といえる情報のバトンが受け入れ医療機関へ引き継がれます。 

 地域連携パスの作成に当たっては、診療計画や全体の流れを標準化し、記載方法や専門用語も共通化されています。また患者さん用の地域連携パスもあり、分かりやすい表現で今後の方針を把握できるために、医療機関間の強固な連携を患者さんの側でも実感することができ、安心感を得ることにつながっています。そして、かかりつけの医療機関で質が保証された治療を継続的に行うことができます。 

 -今後の広がりについては。 

 島 現在、福岡県筑後地区では脳卒中と大腿(だいたい)骨近位部骨折の治療を対象にした地域連携パスを運用しています。今後、複数の医療機関にまたがる患者データを時系列で蓄積すれば、診療計画から逸脱した事例の分析や計画の見直しを効率化でき、医療の質の向上にも貢献が可能となります。 

 さらに、連携する医療機関同士が地域連携パスの評価や見直しのために定期的に会合を開催しており、連携強化にもつながり、今後の活用の可能性はさらに大きく広がると考えています。 

 ただ、個々の地域連携パスを運用するに当たっては、会員の医療機関が集まり、年に複数回の会合を開くことが義務付けられています。異なる地域で同じ疾患の地域連携パスの会員になった医療機関の場合、各会合に参加することになり、将来多くの地域連携パスを運用する際には、会員の負担につながらないか危惧(きぐ)されるところです。 

 -地域連携パスの意義とあるべき姿についてお聞かせください。 

 横倉 地域連携パスは、診療行為の統一化を行うとともに、どの機能を有する医療機関で診療を行うことが、患者さんにとって最も理想的なのかを明確にしてくれます。今後どのような診療を行い、どのような機能の医療機関で治療を行う必要があるのかの道標になり、そのことが患者さんにとって、さらに安心感の醸成につながるものと考えています。 

 島 病院完結型医療から地域完結型医療への流れの中で、各医療機関の役割が明確になされていますので、患者さんは自分の病気に応じた医療機関を受診できることになります。今後、4疾患5事業をはじめ、さまざまな疾病に対し、多くの種類の地域連携パスの運用が始まります。そこで、地域の医師会を中心とした医療機関や行政が一体となり、急性期・回復期・維持期の地域連携パスの普及を進め、一貫した治療方針のもとに地域住民の医療情報のバトンがスムーズに渡っていくように推進していきたいと考えています。 


 ▼IT化推進し情報共有 

 -IT(情報技術)化については。 

 島 現在は紙ベースでの運用ですが、今後近いうちに、ITによる患者情報の共有化を行うための電子カルテシステムづくりを検討しています。従来であれば、各医療施設が個別に情報公開のためのシステム環境を構築する必要があり、かかるコストや構築期間、維持費の面で課題があり、運用開始はしたものの、維持費などの問題で運用を休止せざるを得ないケースもありました。 

 今回のシステムはその手法を取らないために、迅速かつ低コストで、病院と診療所が双方向に画像、検査、薬剤などの患者情報の共有化を図ることが可能となります。そのシステムで地域連携パスを展開することにより、紙ベースから電子媒体ベースへ移行を行い、より効率的な地域連携パスの運用が可能となります。 

 今後は医師会や行政の後押しも得ながら、同システムの普及を進めていければと考えています。 

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 ●地域連携クリニカルパス 

 クリニカルパスは、患者の入院から退院までの診療計画をあらかじめ作成し、計画に沿って治療を進めることで、医療コスト削減などに役立てる手法。 

 これまでは個別の医療機関が独自の書式でパスを運用してきたが、複数の医療機関が共通のパスを作り、互いの得意分野を生かし合おうというのが「地域連携パス」だ。医療の標準化や効率化、複数の医師や看護師によるチーム医療の推進につながると期待されている。 

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 ▼しま・ひろじ 久留米大学病院勤務を経て、1985年から福岡県久留米市の社会医療法人雪の聖母会・聖マリア病院勤務。2009年4月から病院長。 

 ▼よこくら・よしたけ 福岡県医師会長などを務め、2010年4月から日本医師会副会長。福岡県みやま市の医療法人弘恵会・ヨコクラ病院院長。