2010年診療報酬改定の讀解術

保険診療 6月号 
特集 2010年診療報酬改定の讀解術〔Ⅰ〕 2010年改定から2012年改定へ 
エビデンスに基づき最重要課題に傾斜配分 
厚生労働大臣政務官 参議院議員・医学博士 足立信也 

1 崖っぷちの医療を救う診療報酬改定に 
― 2010年改定で診療報酬が10年ぶりにプラスに転じました。その経緯を教えてください。 
 2002年に診療報酬が2.7%のマイナスとなりました。以来、4回連続のマイナス改定となり、医療現場は疲弊し、医療そのものが崖っぷちに追い込まれてしまったのです。特に2006年のマイナス3.16%、これを契機に病院経営はガタガタになってしまったと認識しています。これはもう経営の効率化だけでは対処しきれないところまで来ているという認識に基づいて、今回の改定に当たりました。 
 そして、財務省とぎりぎりの折衝をしてプラス改定を実現したのです。ネット0.19%というプラス幅が小さすぎるという批判もあるでしょうが、そのなかでもメリハリを付けて、救急・産科・小児科・外科という崖っぷちの最重要課題に重点配分し、特に医科・入院では3.03%の引上げを実現しました。具体的には、ハイリスク分娩、NICU、 NICU後方病床、急性期入院医療に関する評価を手厚く行い、難易度の高い手術点数を30~50%引き上げました。また、急性期病院の後方支援策として、地域連携の評価を高め、後方病床機能としての有床診療所の評価を行いました。 
― 入院・外来の配分が10対1だったことに納得されない方も多かったようですが。 
外来400億円に対し、入院に4400億円をつけた点を指摘される方は、「外来を下げて入院に回した」と言われますが、とんでもない話です。両方を純増させているわけですから。
 また、入院と外来の金額差については、今、日本の医療で最も危機に瀕しているところに多く配分した結果です。潤沢なお金があるわけではなく、国家財政が9兆円という税収減のなか、予算措置ではできないわけですから、診療報酬でやるしかなかった。しかしこの経済状況で診療報酬をガンと上げてしまったら、今度は患者さんの自己負担や保険料負担が増えてしまいます。そのためには傾斜配分を行うしかなかったのです。これについては慎重に議論を詰めて決めました。 
― そのための「検討チーム」ですね。 
 はい、エビデンスをつくるために検討チームを作りました。検討チームでは、データを網羅的に集め、機能別・規模別に分け、最も疲弊している部分はどこかを検証しました。 
 同時期に厚労省保険局でも、「今どこを手厚くすべきか」ということを、データを分析して出しました。検討チームの結果と保険局の結果をすり合わせた結果、これがほぼぴったり一致したんです。それで、我々も自信をもって臨めたというわけです。 
 こうしてエビデンスを蓄積して、それをバックデータとして財務省とも交渉したわけです。そのことが、こちらの意向にほぼ近い改定額を確保できた大きな要素だったと思っています。 
2 改定率プラス幅0.19%の根拠 
― 改定率のプラス幅0.19%については、批判や注文も多いようですが。 
 別の要素として、協会けんぽの保険料率の問題がありました。この経済状況で協会けんぽの保険料率は、8.2%から9.94%まで上がると試算されていて、そのうえ診療報酬が1%上がると保険料率は0.06%上がる計算ですから、法的な限度である10%を超えてしまいかねません。それで、診療報酬を1%以上引き上げるのは無理だという判断となりました。国費を大量に投入しない限り、法的に無理だったのです。 
 さらに別の視点もあります。医療関係者はみな、日本の医療費は安いということでコンセンサスが得られていますが、国民の側は、自己負担率が15.1%ですから、高いと感じているわけです。諸外国の平均は13~14%ですから、極めて高いわけではないですが…。しかし診療報酬のアップは自己負担増にもつながるわけで、そこを考えるとむずかしい。 
 そうした諸事情の結果、実際には、我々が当初要望した額よりも、さらに少し下がりました。ただ、先ほど説明した傾斜配分の比率の方針は最初から変わらなかった部分です。 
――「医療費のOECD並みの確保」という公約実現にはほど遠いという批判もありますが。 
 国会審議のなかでも、診療報酬改定へのご批判としてOECD諸国との比較がよく持ち出されますが、誤解されている方が多いので、少し説明させてください。 
OECDが出している総医療費は、国民医療費のほか、介護費用の一部、予防・公衆衛生、健康増進、健診の費用、一般医薬品、正常分娩の費用なども含めた金額です。一方、野党議員などが指している日本の医療費は診療報酬だけですから、そもそも比較のしようがないのです。 
 また、診療報酬では、効率化を評価すると、医療費が下がるものも多いのです。だから、今回の改定ではOECD並み医療費達成には足りないじゃないかという議論はまったくナンセンスです。我々民主党は、総医療費をOECD並みに近づけたいと言っているわけですから。 
― これで医療崩壊はぎりぎり食い止められるでしょうか。 
 その第一歩です。医療が医療崩壊とも言うべき崖っぷちに追い込まれたのは、医療従事者が減ってきたことが最大の要因です。2002年のマイナス改定以降、病院内の資格をもたない職員の方々がどんどん減ってきました。その結果、例えば、その方々が行っていた仕事を看護師さんが行い、その看護師さんの業務を医師が行うというような悪循環に陥っている。医療従事者を減らして医療費を抑制しようという政策の破綻です。これを転換させる必要がありました。そこで、今回の改定では、勤務医の負担軽減策として、医師事務作業補助体制加算の拡充や看護補助者の配置の充実など、医療職種間の連携推進を図る点数を付けていきました。 
 また、診療報酬とは別に、医学部の定員枠をこれまでで最も多い8846名に拡大しました。また、今年度から、各地域にどの診療科の医師がどれだけ必要なのか、どれだけの医師が働いているのか――という全国調査を行います。こうして医師確保策を徹底していくと同時に、あとは、その活用面で、いかに地域偏在をなくし診療科間の偏在をなくしていくか、いかに連携を組んでいくかが大事になってきます。 
3 再診料はリーズナブルな決着 
―「救急・産科・小児科・外科の再建」と「病院勤務医の負担軽減」以外にはどのようなポィントがあるでしょうか。 
 後期高齢者に限定された項目の廃止、後発医薬品の推進、電子請求が義務づけられている医療機関の明細書の無料発行などが大きなポイントです。また、乳幼児への在宅医療、訪問看護を乳幼児加算として評価した点、がん医療の充実として化学療法・放射線療法の評価を充実させるとともに、がん患者リハビリテーション料を新設した点も大きなポイントです。
 そのほかにも、病理診断の点数を大幅に引き上げた点は画期的だと思います。免疫染色は、個人の違い・特性をはっきりさせる病理検査の一種ですが、ここに加算を新設し、手厚くしました。国民の半分が癌になる今、個人の違いをみるテーラード・メディスン、個別化医療のためにも病理診断が非常に大事になります。 
 さらに精神科医療では、外来で30分以上かけて丁寧に診察した場合の点数を引き上げ、認知行動療法の点数を新設しました。気分障害が増えているなか、丁寧な診察と認知行動療法の必要性を考慮した結果です。 
― 再診料は今回も大きな争点になりましたね。 
 地域の開業医のなかには、診療時間外に患者さんからの問合せを常に受けている人がいます。そういうところと、そうでないところとでは差があるべきというのが元々の発想で、その点と、病院と診療所の再診料を同額にする点はコンセンサスを得ていたと思います。 
 再診料の外来管理加算は、検査や処置をしなかった場合の点数ですから、ここで差をつけるのは不合理です。ですから地域医療貢献加算を設けたのです。その結果、電話連絡が取れる体制を敷いているところは、再診に関しては、地域医療貢献加算を合わせることで、これまでより1点引き上げています。逆に、連絡がまったくとれない医療機関では、マイナス2点になります。ですから私は、リーズナブルな決着だったと思っています。 
― 今回、中医協委員の選出も大きな議論になりましたが、この中医協人事が今回の再診料決着に影響したのではないですか。 
 中医協委員の選出については、それほど大きな議論になるようなことではないと思っています。今この国の医療で最もテコ入れが必要なのはどこかという認識が、医師全体の立場を代表する5名の方を含んだ30名の中医協という場で共有できていないと、実効ある改定はできません。そういう主旨による人事ですから、当然、今回の改定に対する影響も大きかったと思います。それは再診料に限りません。 
― 今改定では、外保連をはじめとする学会のヒアリングを行い、これまでになく医療現場の実態を反映させた改定になったと思われます。 
 そう思います。検討チームでも実際の医療機関のキャッシュフローを調べるなど、まずは医療機関の経営の実態を知ることから始め、そのうえで、医療現場の実態はどうか、医療連携やチーム医療はどうか、手術料はどうかを知り、それを反映させていったわけです。 
― また、今回、実現はしませんでしたが、ドクターフィーが中医協で議論されましたね。 
 直接個人の収入になる制度としての導入は、私は賛成できません。今はチーム医療の推進を掲げていますが、そこにドクターフィーを持ち込むとチームはどうなるのかという問題が生じます。やはり、その病院に対して評価・報酬を上げて、分配は管理者の責任でやるべきではないでしょうか。今回、病院の診療報酬が上がったことで、夜勤や夜間の手術などへの手当が増えたようですが、それが本来だと思います。 
4 2012年には医療と介護の境界を見直す 
― 次の2012年改定でも、エビデンスに基づく傾斜配分という手法は続くわけですね。 
 エビデンスによる改定という考え方は、次回も当然必要だと思います。中医協のメンバーも、改定の影響の検証には大変積極的です。その結果をみて判断する部分もあると思います。 
 しかし、次回の最大の特徴は医療・介護の同時改定である点です。同時改定に向けて、医療と介護の境界に関する議論から始めます。というのも、私は、今の境界が正しいとは思っていません。現状に合っていないと考えています。 
 私は、個人的には、介護はホーム、つまり「住まい」で提供するものだと思っています。療養病床や老健という施設では、介護を提供するけれど、医療も提供します。それは保険の分け方に無理があると思っていて、そこは「医療」ではないかと私は考えています。 
― 老健は医療保険でみることになる、と? 
 もちろん、まだどうなるかはわかりません。ただ、もうまもなく会議をつくる予定になっていて、2年後に向けて議論を開始します。 
 また、「医療・介護・福祉」という並び方にも疑問を感じています。例えば、障害を負った方が社会復帰のためにリハビリテーションをがんばって復帰できたとすると、その流れは「医療・介護・福祉」ではなく、「医療・社会福祉・介護」となります。となると、医療と介護の括りが変わってきますが、私はそちらのほうが正しいと思うのです。介護は「維持」の概念ですが、障害者のリハビリテーションは「アップ」の概念ですから、より医療に近いわけです。 
 いずれにせよ、こうした基本的な枠組みから見直していく必要があると思っています。 
― 新高齢者医療制度にも絡んできますね。 
 高齢者医療制度については来年法案を提出します。今改定では17項目あった後期高齢者限定の点数を全部廃止しましたが、これが後期高齢者医療制度改革の第一段階です。次は6原則に沿った制度改革です。この夏に中間とりまとめを行う予定で、会議のほうも、これまでの論点別の議論から総括的な議論に変わります。出口はわりと近いところにある気がします。 
5 消費税引上げより前にすべきことは多い 
― OECD並みの医療費を実現させるためには、財政問題は避けて通れません。医療団体からも消費税アップという声が上がっていますが。 
 私は、消費税を上げる前にやらなければいけないことがたくさんあると思っています。まずは税や社会保険料の使い方に無駄がない社会にしなければ、国民は増税に納得しません。
 また、財源といえば消費税と短絡するのではなく、もっと消費税以外の財源についても考えるべきです。例えば、健康保険料の上限引上げです。年収2000万円以上の人と、200万円以下の人が増えている状況下で、高額所得の人たちは一定所得以上になると保険料が増えないという点を変える必要があります。 
 さらに、高額療養費制度の上限額も引き上げるべきでしょう。今は、月収が53万円以上の人はすべて月の自己負担限度額が「15万円+1%」ですが限度額がもう一つ高いクラスがあってもよいと思いませんか。高収入者への優遇は前政権下では手をつけられなかった部分ですから、私は是非やるべきだと考えています。そのほか、たばこ税の引上げもありますね。この10月から上がりますが、まだ足りないと思います。 
 こうした改正を併せて行えば、財源としては結構出てくると思いますよ。 
― 消費税引上げはそのあとということですか。 
 単に財源の話では済みません。消費税引上げに慎重な理由はほかにもあります。 
 昨年、厚労省で相対的貧困率というのを出しました。これは、税と社会保険料を引いたあとの可処分所得で見るのですが、日本の子供の相対的貧困率は、税等を引く前の額で比較するよりも、可処分所得で比較したほうが高くなるのですよ。つまり、所得再分配機能が働いていないのではないかということです。子供のいる家庭に対する負担が大きくて給付が低いということです。このような状況で消費税を上げたら、格差はさらに広がってしまいます。
 私はやはり応能負担でないと、医療も年金も皆さん納得できないと思います。例えば、後期高齢者に対する支援金の1/3に総報酬割を導入することが問題になっていますが、協会けんぽは保険料率が8.2%から9.34%に上がっているのに対し、健保組合は7.4%から7.6%への上昇にとどまり、差は開いているのです。 
― 保険の一元化の話もありますね。 
 それは遠大な計画です。我々も4年前に医療改革案で書きましたが、保険者機能を発揮させながら一元化するには、少なくとも10年はかかるでしょう。今は相互の協力が必要で、市町村国保については範囲を広げるしかないと考えています。 
―本日はありがとうございました。