どうする地域医療 岩手/県地域診療センター無床化から1年余 常勤医、流出に歯止め/応援当直の負担解消/住民の関心も呼び起こす



どうする地域医療 岩手/県地域診療センター無床化から1年余 
常勤医、流出に歯止め/応援当直の負担解消/住民の関心も呼び起こす 
2010.06.29 河北新報  
  

岩手県医療局の五つの地域診療センター(花泉、大迫、住田、紫波、九戸)の無床化が実施されてから1年余りがたった。 
経営悪化と深刻な医師不足を背景に県が進める無床化計画によって、地域医療はどう様変わりしたのか。現場を追った。(盛岡総局・亀山貴裕) 

<「診療に専念」> 

 昨年4月に無床化した九戸地域診療センター(九戸村)。 
人口約6500人の村で唯一の医療機関である同センターに、無床化と同時に60代後半の医師が赴任した。「当直なしなら」という条件付きだった。 

 周辺地域の基幹病院、県立二戸病院(二戸市)の負担も軽くなった。 
1カ月のうち半分は九戸に派遣していた当直がなくなり、平日の外来応援の回数も減りつつある。 

 「勤務医は非効率な応援当直を離れ、診療に専念できている」と語るのは二戸病院の佐藤元昭院長。 
「センターは医療より介護が必要な社会的入院がほとんどで夜間外来も重症患者は以前から二戸で診ていた」と無床化の正当性を強調する。 

 県によると、本年度当初の常勤医師数は前年度同期比1人減の466人。 

ピーク時よりも約80人少ないが、「下げ止まり」の兆候が見られる。 

 同じく無床化した住田、紫波の両地域診療センターでも、今年4月から常勤医が1人増えた。 
県医療局は「都市部から招く医師は地方に来てまで激務を望まない。当直の有無は大きなポイントだ」と指摘する。 

<複雑な胸の内> 

 ただ、九戸村の自営業女性(80)が「自分や家族に急な発熱やけがなどがあったらと思うと」と言うように、住民の不安は消えない。 
岩部茂村長は医療現場の労務環境の好転を歓迎しながらも「村内の介護施設にいる80人の村民はいつ体調を崩してもおかしくない」と複雑な胸の内を明かす。 

 大迫地域診療センターがある花巻市大迫町では、無床化による空きスペースをめぐり、住民間で議論が巻き起こっている。 
市が提案した民間の介護老人保健施設の開設を軸に話が進んできたが、今年に入り、住民の一部から特別養護老人ホームを設立しようとする動きが出てきた。 

 「特養派」の狙いは、施設利用者がセンターで治療を受けることによって県医療局の収益を高め、県の撤退を防ぐことにある。 
老健より利用者の負担が少ないことも長所だという。 

<新たな姿模索> 

 世代や持病によって意見は異なり、議論の出口は見えそうにない。 
それでも、旧大迫町が地盤の鎌田政子市議は「無床化は不満だが、住民自らが地域医療を何とかしようとしている」と、センターを守ろうとする動きが地域全体に広がりつつあることを実感している。 

 花泉地域診療センター(一関市)は今年4月、地元の医療法人に民間移管されて医療・福祉一体型施設として再スタートした。課題が山積する中、新しい地域医療の姿を模索している。 

 各地域に波紋を広げた県医療局の無床化計画は、医師確保という点では医療局の姿勢を明確にする効果があった。 
住民が地域医療に関心を持つ契機にもなった。 

 これに対し、岩手医大の小川彰学長は「医療現場の激務は、無床化だけでは解消されない」と窮状を説明した上で「地方と都市の格差が広がる限り、医師の偏在は続く」と、抜本的な対策の必要性を強調する。