人間ドック+温泉で静養... 医療観光強み生かせ・中国や韓国、高い技術に注目



人間ドック+温泉で静養… 医療観光強み生かせ・中国や韓国、高い技術に注目 
通訳養成など急ぐ 
2010/06/24, 日本経済新聞  

 医療の国際化時代を迎え、高い技術や医療費の安さを求めて海外の医療機関を受診する医療ツーリズム(医療観光)が活発になってきた。 
一部のアジア諸国が先行するが、日本でも受け入れを模索する病院や自治体が目立つ。 
課題とされた医療通訳の養成が始まり、成長戦略に位置付ける政府も医療ビザの発給を検討。 
「日本医療の強み」を生かした取り組みが始まった。 

 「中国では健康診断がまだ一般的でない。日本の高い技術で両親を診てもらえてうれしい」。 
今年4月中旬、両親と3泊4日の日程で来日して総合南東北病院(福島県郡山市)でがん検診を受けた上海の女性経営者(42)はこう語る。 
  

海外病院と提携も 

 検査は陽電子放射断層撮影装置(PET)や磁気共鳴画像装置(MRI)など17項目。「係の人がずっと付き添ってくれ、サービスが行き届いていた」と女性は満足げだ。 

 次世代のがん放射線治療といわれる陽子線治療装置をもつ総合南東北病院グループの強みは脳神経外科とがん治療の分野。 
今年4月、上海の浦南病院と提携し、受診者が来日する際には、日本に留学経験のある浦南病院の中国人医師が同行し、検査の流れや病気について説明する。 

 検査でがんが見つかれば、帰国後、同病院で治療するが、「今後は、浦南病院で病気が見つかり南東北病院で治療する患者も増えるだろう」と渡辺一夫理事長。 
「病気を見つけるだけでなく、治療やフォローなど質の高い日本の医療を提供するのが提携の狙いだ」 
  


 観光地とのネットワークを生かした取り組みもある。世界遺産の日光東照宮に近い独協医科大学日光医療センター(栃木県日光市)は4月に観光医療科を開設。健診などの医療サービスと観光を組み合わせて、長期滞在してもらうプランを練る。 

 その一つが、中国や韓国などから来日して人間ドックを受けた後、周辺を観光し、鬼怒川などの温泉で静養してもらうプランで、中国人の看護師も配置している。中元隆明院長は「観光と温泉の第一級の組み合わせは、全国を探してもここしかない。連携して独自性をアピールしていきたい」と語る。 

 今後、医療観光の受け入れが増えれば、周辺ビジネスが活気づくのは間違いない。 

 旅行会社で先行する日本旅行は昨年4月、中国人富裕者をターゲットにしたオーダーメードの検診ツアーを始めた。大阪市のクリニックでのPET検診を売り出した。2泊3日でとんぼ返りする弾丸ツアーのほか、東京や箱根を組み込んだ旅程が人気という。 
  

治療目的は少数 

 09年度には40人が受診。今年度は目標を100人から150人に引き上げた。 
「中国側には、美容整形や自毛植毛の需要が高い」(青木志郎部長)として、これらの分野のツアーも検討している。 

 医療観光を振興するアジア諸国に比べ日本が立ち遅れているとされるのが「言葉の壁」への対応。医療通訳の養成は急務だ。 
東京通訳アカデミー(東京・千代田)は、現在開設している医療通訳の養成講座に加え、7月から医療観光を企画・調整する「メディカルツーリズム管理者」の養成講座を始める。 

 今のところの日本への医療観光は、がん検診や人間ドックが中心で、治療目的は少数だ。

 こうした中、冠動脈の血管内治療で高い実績を誇る小倉記念病院(北九州市)は、中国やインドネシアなどから延べ約300人の患者を受け入れ、年内に開業する新病院には、海外富裕層向けの特別室を用意している。 

 医療観光に詳しい東京厚生年金病院の溝尾朗内科部長は「中国や韓国でも高度な検査機器が急速に普及しており、機器さえあれば対応できる検診の需要は数年で減っていくだろう。日本が各国と競って医療観光で伸びていくには、内視鏡手術など高い技術を生かした治療の分野で勝負すべきだ」と提言している。 
(編集委員 木村彰、北角裕樹) 
  

治療費安いアジア/施設整備も進む 

 現代の医療観光は、途上国の富裕層が高度な医療技術を求めて先進国に渡航する一昔前のパターンとは異なり、米国など医療費が高い先進国や中東の患者が、医療水準が高くて治療費が安いアジアの病院に向かうのが主流だ。 

 受け入れ患者数が最も多いタイは2003年に「アジアの健康首都」を宣言して民間病院の外国人患者受け入れを推進、01年の55万人から08年には約140万人に急増した。年間55万人のシンガポール、同40万人マレーシア(いずれも07年)、韓国、インドなども医療観光を国策と位置付け、政府機関がバックアップしている。 

 中国も北京郊外に3千床の巨大病院「燕達国際健康城」を開設、リハビリテーションや高齢者施設も整備している。 

 米民間会社は、医療観光の世界市場規模が08年に600億ドル(約5兆4800億円)、12年には1千億ドル(約9兆1千億円)に達するとみる。 

 しかし、国際的な医療水準の指標で、患者が病院選択の基準とするJCI(ジョイント・コミッション・インターナショナル)の取得で日本の病院は出遅れ、アジアや中東などの病院が次々取得するなか、日本では亀田メディカルセンター(千葉県鴨川市)のみだ。 

 日本の医療は治療技術の高さやMRI、コンピューター断層撮影装置(CT)などによる高度な画像診断に特長があり、健康診断も世界に類をみない予防医学に基づく集団健診や人間ドックのシステムが背景にある。だがこうした情報は海外に十分伝わっておらず、海外の患者の日本医療に対する認知度は高くない。 

 海外からこれまでに約50人を受け入れた昭和大学横浜市北部病院(横浜市都筑区)は「日本の病院の医療内容や特色を海外に情報発信したり問い合わせに応じたりする窓口が必要」(消化器センター)と強調している。