医療・介護が今後の日本を支える産業分野として位置づけられたが医師不足の状態では・・・

医療は本当に成長産業になるのか 
川口恭 (ロハスメディア2010年6月 6日 ) 

昨年末に政府の公表した新成長戦略では、医療・介護が今後の日本を支える産業分野として位置づけられました。しかし、医師不足に代表される医療崩壊が解決してもいないのに可能なんでしょうか、可能だとして、その手順はどうなるのでしょうか。人口あたり医学部数や医師数が日本の中では多く、活気あることで知られる九州で、識者や首長に熱く討論していただきました。(川口恭) 

福岡でシンポジウム 


市民公開シンポジウム『九州に医療クラスターを』 

5月29日、福岡国際会議場にて 

(NPO法人・健康医療開発機構主催、福岡市共催、ロハスメディア協賛) 

【座長】 

薬師寺道明・久留米大学長 

【パネリスト=50音順】 

高橋伸佳・JTBヘルスツーリズム研究所所長 

土屋了介・健康医療開発機構理事(癌研究会顧問) 

夏目隆史・亀田メディカルセンター メディカルディレクター 

古川康・佐賀県知事 

山田亮・久留米大学先端癌治療研究センター所長 

吉田宏・福岡市長 

*当日の映像も間もなく公開の予定です。 


 座長の薬師寺道明・久留米大学長によって進行されたシンポジウム。前半部は、首都圏から福岡入りした3氏による問題提起でした。 
 まずJTBの高橋氏が、同社で調査したデータに基づき、日本の医療はアジアの中で全く知名度がなく、誰に何をどうやって訴求していくのか十分に考えたうえでブランドを確立しないと、外貨獲得などおぼつかないと警告。国際医療機関認証JCIを日本で唯一取得している亀田メディカルセンターの夏目氏は、JCI審査の過程で日本がアジアでも遅れていると気づいた時の衝撃を「日本の医学は一流だが医療は三流だ。嘘だと思うなら、韓国でもシンガポールでも現場へ行って見てきてほしい」と語りました。 
 最後に土屋氏が、日本の医療の抱える様々な問題を解決するため、家庭医を多数養成するとともに、1カ所に医療施設を多数集積した『医療クラスター』を作れば、ひいてはそれが国際競争力を高めることにもなると提言。地元の方々も交えたパネルディスカッションへと移りました。 

3つの医療都市構想 
 ここからは、パネリストたちの議論を拾っていきます。 

吉田 福岡市の場合、政令市でベスト3に入るほど医療資源に恵まれている。都市の成長戦略として医療をどう考えるか。医療ツーリズムとして外国から患者さんを呼んでというのもあるが、既に岡山以西唯一の小児専門病院をはじめとする医療施設、高齢者関連施設をアイランドシティ(人工島)に集積させる『ふくおか健康未来都市構想』というものは進めている。 

古川 福岡市から車で30~40分、新幹線ができれば博多駅から10分ちょっとの新鳥栖駅前に3年後に、兵庫以西で初めて炭素線で治療する『九州国際重粒子線がん治療センター』ができる。患者さんを九州全体から集め、さらに他国からも来ていただけるような仕掛けを考えられないかとプロジェクトが進んでいる。講演を聴いて、メディカルツーリズムには課題も大きいんだなということを認識した。夏目さんには、JCIを取ってどのような効果があったか教えてほしい。 

山田 福岡県でも県南部の久留米を中心とした地域に『福岡バイオバレープロジェクト』という名の先端医療都市構想が動いている。久留米には、久留米大病院以外に大きな民間病院がいくつもあり医師の数も多い。加えて農業が盛んな地域柄を生かしてバイオ産業を誘致し、医療とのクラスターを作っていこうというものだ。古川知事ご紹介の重粒子線センターは、久留米と川を挟んだ所にできるので、同一のクラスターとして捉えることは可能だと考えている。 

夏目 我々は以前から外国の患者さんを受け入れており、JCIを取得したのは外国の患者さんを狙ってということではなく、医療の安全と質を向上させていくツールとしてだった。質を向上させる取り組みは、病院全体漏れなくという風にしたいのだが、大抵は抵抗勢力ができる。でもJCIのために推進していくよと言うと、仕方ないなと受け入れてくれるようになった。もちろん、JCI取得によって欧米の医療保険が支払ってくれるようになったので、外国人患者受け入れの際に苦労する決済が随分スムーズにいくようになったのも事実だ。 


薬師寺 福岡という地域で医療クラスターを考えるなら、どのようなことに注意する必要があるだろうか。 

土屋 一度、県全体で立ち止まって、県の医療行政全体をどうするのか、じっくり考える必要があるのではないか。これまでの地域医療計画では、大学病院に実質ほとんど触れていない。生活圏の中にある施設は全部網羅的に考えたうえで、どのような医療提供体制が県民にとってよいのか考え、さらに10年20年のスパンでやっていくことが必要ではないか。佐賀の重粒子線の話だが、施設費が150億円、年間の維持費が15、16億円かかると思う。1人300万円で治療しても採算が合わない。持続可能な医療クラスターを作ったうえで、看板となる不採算施設として周辺施設全体で支えていく必要がある。 

古川 佐賀県がこのプロジェクトを進めているのは、九州有数の会社からかなりのご寄付をいただけるというメドが立ったから。重粒子線技術は日本発なので、それを世界に売り込んでいくためにも、まず自治体が場を提供するという意味はあると思う。外国の患者さんたちに低侵襲で治ったという成果を本国に持ち帰ってもらえれば、ゆくゆくは我が国の医療技術を輸出していくこともできるのでないか。 

専門家情報が不可欠 

古川 ところで、医療クラスターというのは、どれくらいの範囲のものを言うのだろうか。

土屋 クラスター本体は、歩いていける範囲、構内バスでも構わないが日常的に交流できる範囲になると思う。近隣地区とのネットワークももちろん必要で、移動手段とセットで考える必要はあるだろう。 

吉田 私どもからすると、佐賀の重粒子線もアイランドシティも博多駅から10分程度。一つのクラスターとして考えていくことは成立するんだろうなと思った。ところで、どこに医療資源を集中する、あるいは分散して、ここには医療クラスターだと構想を立てるのは誰なのか。県なのか、市なのか、九州全体なのか。国が地域全体のことを考えて立案してくれるとも思えない。 

土屋 そこが今の日本の医療の最大の問題。市長が挙げた中に、専門家が入ってない。重粒子線の適用がある患者さんが日本に何人いるのか、今の1人300万円というのも放医研が適当につけた値段で原価計算したわけではない。そういう一番基本的な情報を曖昧にしたまま進んでしまっているのが危険。日本の医者は個々では非常によく働いている。しかし、集団として専門家として情報を出すということは全然してない。 


薬師寺 外国の患者さんを呼ぶための課題は何か。 

高橋 たとえば中国の人たちに、日本の取り組みが伝わっていない。どういう情報を、どういう風に伝えていくかが重要になる。言われたように医学は一流であるならば、それをどうやってブランド化していくのかが重要。他国は、相当戦略的にやっている。 

土屋 質の高い医療を求めて金に糸目はつけずに国を移動するという例は、以前から少ないながらもあった。これが爆発的に増えるということは、いくら中国が豊かになったといっても、そうは考えられない。タイやマレーシアなどの例は欧米並みの医療を安く受けられるもの。この二つは全く違う。日本は東アジアの中で一番物価が高いわけだから、安さでは売れない。質の高いものをめざすにしても、中国人の大半は日本の医療を知らない。ではどうしたらよいかだが、北京にある中日友好病院が20数年前に贈ったまま放ったらかしになっているので、日本の最新鋭機を寄付して医師や技師も送りこんで、いわゆるアンテナショップのようなものにすればいい。 

事前規制からの脱却 

山田 講演で夏目先生が例に挙げた韓国の延世大学病院には私も衝撃を受けた。アメリカの最新の治療が数カ月遅れで全部入っている。あちらには財閥がついていて金に糸目をつけずに病院に投資している。そのうえさらに国も支援している。ああいうものに対して、医療だけで日本がアジアの諸国に訴えていこうというのは難しいかもしれない。先ほどから何度も出ている高い医学のレベルを売りにするしかないんじゃないか。その際に問題になってくるのは、混合診療の禁止だ。基礎研究から臨床研究へと橋渡しする際に非常に大きな壁になっている。混合診療を例外的に認める制度の高度医療を、基礎から臨床への橋渡しの部分については、国がどんどん適用を認めていくということが望まれる。 

土屋 国にちゃんとやれ、というのでは何も解決しない。事前規制そのものがおかしい。むしろ事後のモニタリングに移らないと、日本の医療はよくならない。 

夏目 介護保険ができて、いったん医療から介護・福祉は切り離されたけれど、我々の地域では医療が福祉の方も相当に面倒みないと成り立たない状況になってきている。IHN(インテグレーテッド・ヘルスケア・ネットワーク)という一貫した形でないと支えられないという気がしてる。 

土屋 介護では、コムスンの問題があったりしたのもあるが、施設数の足りないのが難題だ。社会福祉法人だけでなく、株式会社も含めた他の法人でも入れるようにしないと何ともならない。株式会社が悪だと決め付けるのではなく、きちんとやるところは認める必要がある。まさに事前規制でなく、事後にどうやってコントロールするかという話だ。 

古川 この辺の規制が緩和されればよくなるという考えがあれば聴かせてほしい。 

高橋 まずは医療ビザになるだろう。今は本当に手続きが煩雑。ただし規制は国内だけにあるわけではない。そのあたりの緩和も図られないと、なかなか難しいかもしれない。逆に韓国などは紛争の仲裁制度があったり、それから保険的な部分でも、産業化の支援が進んでいると思う。 

薬師寺 市長、最後に一言。 

吉田 今、古川知事と話をして、鳥栖や久留米まで入れた形で一つの固まりとして医療クラスターと定義して、医療ツーリズムの可能性についても新しく研究をしてみようかと話がまとまった。今日は、そういう成果があった。