「東日本に医師育成機関を」  医学部・メディカルスクール新設問題




2010年5月28日 JapanMedicine 
 
東京大・上昌広特任准教授に聞く 
  
「東日本に医師育成機関を」  医学部・メディカルスクール新設問題 
  
 医学部やメディカルスクールの新設問題で、医療界に賛否両論の声が飛び交っている。東京大医科学研究所の上昌広特任准教授は、医学教育の「西高東低」を憂い、医学部の少ない東日本で医師育成機関を新設すべきだと主張する。民主党の医療政策において知恵袋の1人でもある上氏に話を聞いた。 
  
  
--医学部やメディカルスクールの新設を模索する動きがあるようです。 
  
上氏 明治維新以降、国内の教育状況は「西高東低」で、医学部についてもそうです。人口当たりの医学部数を比べると、例えば九州に比べて、埼玉、千葉、茨城などは少ない状況にあります(メモ参照)。議論しなければならない対象は、医学部が少ないこれらの地域です。格差を是正しなければ、国民に不利益が生じます。 
  
  
--ただ、そうした地域に医学部などを新設しても、卒業した医師が必ず地域にとどまるわけではありません。 
  
上氏 すべての卒業生がその地域から離れることはありません。仮に卒業生の3割しかとどまらなくとも、地域の医師は増加します。弁護士は定員が増えることで、過疎化問題がかなり改善しました。全体的に医師数が増えれば、マーケットによって調整されるので、地域に残すための規制をする必要はないと思います。 
  
  
--医学部とメディカルスクールのどちらにご賛成ですか。 
  
上氏 どちらでもかまいません。それは医療界内部の問題であって、国民の関心事ではありません。国民は良い医者が欲しいと思っているのです。 
  
  
--医学部などを新設すると、医療機関の勤務医が引き抜かれるのではと危惧する声が強いようです。 
  
上氏 医学部などの建物にスタッフを常駐させる必要はありません、制度を変えて、民間病院の勤務医らが教員を兼任できるようにすればいいのです。アメリカのプロフェッサーには、自分でクリニックを開いている人が少なくありません。病院実習も、大学の付属病院だけで実施する必要はないのです。実際、現在でも民間病院などの協力を得ています。病院としては教育機能を充実させれば、医師のリクルートがやりやすくなるでしょう。ほかに、海外での医学研修を認める手もあります。 
  
  
--大学の医学部は学生教育のほか、臨床や研究を担っているという考え方もあります。 
  
上氏 良い医師を育成してほしいというのが国民の願いです。臨床や研究はほかの機関でも可能ですが、医師を養成できるのは医学部だけです。医学部が最も優先すべきことは医師養成です。だから予算が重点的に配分されているのです。今の制度だと、医学部のある大学は付属病院を持つ必要がありますが(大学設置基準=1956年文部省令)、医学部が必ず付属病院を持つ必要もありません。これについては、文部科学省が制度を変えればいいのです。
  
  
--ここ数年の医学部定員増に加えて、さらに医学部などを新設すれば、将来的に医師が余ると心配する声もあります。 
  
上氏 いま問題になっているのは、若い勤務医が足りないことです。救急車のたらい回しなどで国民は困っているのですから。解決策は2つあり、若い医師を増やすか、ベテランの医師に病院で働いてもらうかです。前者は医学部・メディカルスクールの新設、後者はドクターフィー制度、院内開業につながります。ただドクターフィー制度は、開業医の格付けになる可能性があり、医師会は反対するでしょう。医学部などを新設した場合、確かにベテラン医師については数が余る可能性が否定できません。ただ、今後医療のマーケットが広がっていけば、そうならない可能性もあります。 
  
  
--全国医学部長病院長会議や国立大学医学部長会議が、新設への反対姿勢を示しています。 
  
上氏 関係者全員が同じ意見だとは思えません。十分な議論なしに、意見を表明しているのではないでしょうか。今春の診療報酬改定では大学病院にもかなりの配慮がありましたが、税収落ち込みの中でプラス改定にするため動き回った民主党議員がいたわけです。それが、国民への感謝の気持ちを示すでもなく、「新設反対」を打ち出したので、動いた議員からすると「後ろから撃たれた」という気分ではないでしょうか。 
  
  
【メモ】九州・沖縄8県の人□は計1468万人(2009年3月時点、以下同)で、医学部が11ある。東京は1255万人で医学部13。一方、埼玉は710万人で埼玉医科大、防衛医科大の2ヵ所、千葉は612万人で千葉大医学部1ヵ所、茨城は298万人で筑波大医学群医学類1ヵ所という状況にある