仕分けの原点は"現場"の視点 抽象論では改革は進まない(日経BPガバメントテクノロジー )



仕分けの原点は“現場”の視点 抽象論では改革は進まない(日経BPガバメントテクノロジー 2010年4月1日) 


構想日本代表内閣府行政刷新会議事務局長・加藤秀樹氏 
  
加藤 秀樹 氏 略歴 
大蔵省で証券局、主税局、国際金融局、財政金融研究所などに勤務。 
1997年4月非営利独立のシンクタンク、構想日本を設立。 
省庁設置法改正を皮切りに、公益法人改革、年金制度改革、地方分権のため三位一体改革、国・自治体の事業仕分け、医療制度改革などについて、民の立場から政策提言。 
2009年10月内閣府行政刷新会議の事務局長・議員に就任。東京財団 会長兼理事長などを兼務。主な編著書に『道路公団解体プラン』『入門 行政の「事業仕分け」』など。 
  

政府・自治体の行財政改革を推進する切り札として、「事業仕分け」に対する関心と期待が高まっている。2002年から地方自治体などで仕分けに取り組み、2009年10月に内閣府行政刷新会議の事務局長に就いた加藤秀樹・構想日本代表に行財政改革のあり方について聞いた。 
(聞き手は本誌編集長、井出 一仁) 


――2009年11月の政府の事業仕分けが社会の大きな話題になりました。仕掛け人として世の中の反応をどのように見ていますか。 

加藤 報道されて全国的に話題になったのはよかったのですが、誤解も生じました。 
予算を3兆円くらい削れるはずだったのに1兆円しか出てこなかったなどといった批判がありました。 
予算をつけるつけないという対立の構図を作って繰り返し流すマスメディアの報道の仕方にも問題があったと思っています。 
 議論を傍聴した人には誤解はないと思いますが、事業仕分けとは、行政がこれまでやってきた事業について、現場で実際に起こっていることを調べて洗い直し、行政全体を見直すことです。 
 事業をよく見ていくと、その背後にある組織や制度がセットで見えてきます。 
個々の事業の無駄をなくすだけでなく、裏にある制度や組織の問題点まで洗い出し、行政・財政全体の改革へとつなげていく――。 
これが事業仕分けの本来の目的です。国と地方の関係を見直す地方分権も、この流れから出てくるものです。 

――では事業仕分けの本質とは。 

加藤 事業の“現場”を知っている人の目、つまり現場の視点と公開で行うことです。 
 行財政改革は、20年も30年も議論されてきましたが、一向に進みませんでした。 
主な原因は“上から目線”です。 
そうではなく、個々の事業の現場サイドの視点で整理していった方が、全体の話ばかり続けているよりも、逆に全体像が見えてくるというのが、大事なポイントです。 
 例えば道路予算が必要かどうか一般論で議論するよりも、全国各地の道路の必要性を具体的にチェックした方が全体の議論にも役に立つわけです。 
また公開の場で行うと、後から発言を翻したりなかったことにできなくなるし、説明にはみんなが納得する説得力も求められます。 
 政府や自治体の予算上の費用項目には非常に多くの種類がありますが、「事業」として見ればそれほどでもありません。国で言えば3000くらい。2009年11月の仕分けでは、そのうち400強を対象にしました。 

――審議会で1年以上かけて結論を出す行政手法が当たり前だった中で、スピーディさも新鮮でした。 

加藤 その場で結論を出すことも、事業仕分けの本質です。 
審議会での議論の多くは「こうすべき」とか「こういう方向に」と言うだけで、報告書や結論はお役所の人が書きます。 
だから、改革は進まない。現場を知っている人が仕分け人をやるからこそ、その場で判断できるわけです。 
 介護にしても教育にしても、「こうすべき」と言える人は現場にはちゃんといるものです。現場にこそ先端の問題意識とリアリティーがあるんです。 

――難しい判断を求められる仕分け人の条件は。 

加藤 リアリティーがあるのは現場ですから、とにかく現場をよく知っている人。 
加えて市町村と国の関係や制度をよく熟知していることなどが大切だと思います。 

――これまで46自治体の事業仕分けに取り組んできた経験から、自治体に共通する課題を挙げると。 

加藤 国も同じですが、現場に近い自治体でさえも“言葉”だけで理解していて、現場を分かっていないのが大きな問題です。 
 2002年に岩手県で「青少年育成事業」を仕分けたときのことです。 
実際に何をしているのか尋ねると、公園で子どもを子馬に乗せている。 
それを税金で賄う必要があるのか聞くと、「青少年育成は県がやるべき大事な仕事だ」という答えが返ってくる。 
このやり取りが何回も繰り返されるんです。 
青少年の育成はもちろん大事です。 
でも、県民のお金を使って子どもを馬に乗せる必要が本当にあるのか。 
ここを考えてもらわないといけないわけです。 
  
国の仕分けで話題になったスパコンの件も、「科学技術」が大事なのは当たり前。 
でも、これまでの数年間で、500億円以上のお金が本当に目的を達成できるような使われ方をしたのかが問われているんです。 
 言葉だけの抽象論では「どれも大切」。 
だから、現場なんです。現場の視点で考えれば、税金を使ってどこまでやるべきか見えてきます。 

――ほかにも自治体に共通する課題はありますか。 

加藤 長野県栄村では、道路建設の際に国の基準で幅5mとなっているところを3.5mにするなどして、1m当たりの建設単価を11万1000円から1万9000円へと約6分の1に引き下げました。 
国の基準をあえて無視して、責任者である村長が地元に合った道路とは何かを考えてやったことです。 
これこそが地方分権でしょう。同じようなことは千代田区だってできるはずなんです。 
 自治体が地元に合った形で費用を抑えて事業を進めようとすると、国の法令や基準があって「できない」という話になりがちです。 
制度や規格を通して国が地方を縛っているという構図、国全体の問題点が浮かび上がってくるわけです。 
  
  
ネット中継を起点にした議論はテレビ報道よりずっと健全だった 

――国の事業仕分けではネット中継も注目されました。その評価は。 

加藤 11月の仕分けのネット中継では、9日間の開催期間中に1日平均で約20万のアクセスがあったと聞いています。 
費用をかけられなかったので固定カメラにせざるを得ず、画像は見にくいものでしたが、音声はちゃんと届いていました。 
 ネット中継を見た人を起点に、コメントや批判などの意見がTwitter(ツイッター)などを介してどんどん回っていきました。 
そこでの議論の内容は、現場を見も聞きもしない人が語るテレビ番組よりもはるかに的確で健全だったと思います。 
 テレビは一瞬だけを切り取って見せますが、実際の議論は朝から夕方まで計9日間続きました。 
1コマ、半日、1日と見ていると全体像が見えてきて、「霞が関の役人は説得力がないなあ」という共通の認識が出来ていったのだと思います。 
「1件1時間」は短すぎるとマスメディアは批判しますが、会場やネット中継で現場を見ていた人はそうは感じなかったのではないでしょうか。 
 公開の場でやることは仕分けの本質であり、ネット中継はそうした公開の場を広げたと言えます。 

――IT関連事業の仕分けや評価の基準についての考え方は。 

加藤 結局、設備を導入しよう、ネットワークを作ろうになっていて、現場のニーズを踏まえていません。 
もともとニーズがあったわけではないケースが目立ちます。 
田舎へ行けば役場は身近な存在。窓口に行く方が安心感があるのではないのでしょうか。 
 投資の評価指標といっても、評価指標自体が言葉であり、現場をおろそかにすることにつながりかねません。小さい町なら、どう使われているか、役に立っているか、町民に直接聞けばいいんです。 
  
一方でネットによる情報公開は、どんどん進めていくべきです。仕分けをしなくても、情報を公開していくことによって住民が考えるようになります。 
 その際に事業の中身を、仕分けのときに使っている「事業シート」を活用して公開するのが効果的だと思います。 
スパコン開発でも何でもそうですが、予算書だけ見てもお金の支出先がどこか何も書いてありません。 
一方、事業シートでは、支出先や目的・趣旨を役所自らが記入するようにしています。 
事業シートを見れば、今まで見えなかったものが見えてきます。