東大生就職事情 官僚回帰が始まった 国公立大学合格者 高校別ランキング特集

 



2010.4.4 サンデー毎日 

東大生就職事情 官僚回帰が始まった 国公立大学合格者 高校別ランキング特集 

長引く不況による就職難は東大生にも影響を及ぼしているようだ。文系では外資やコンサルティング会社が人気だったのが、公務員回帰の兆しがみえる。寄らば大樹か、国家のためか、はたまた……。理系では最先端医療や科学の研究を目指す学生が多いという。 
「エントリーシートを会社に提出する過程で、こちらから会社を選択する余裕などありませんでした」 
 こう振り返るのは、4月1日から大手保険会社に入社する経済学部4年の男子学生Aさん(24)。2010年春卒業の大学生の内定率は、就職氷河期並みの80%(2月1日現在)という低さ。厳しさは東大生も例外ではなかった。 
Aさんはエントリーシートを金融を中心に約30社提出し、最終面接までたどりついたのは約10社。一般的には超恵まれているが、第一志望の銀行は面接で落とされた。有り得ないこと、と思った。 
「東大卒の肩書は、最難関の入試を乗り越えたことで『努力家』と評価されます。でも就職活動では、大学時代に何に取り組み、それを生かして自分は社会人として何をしたいのかという明確な志望動機が問われます。この経済状況下では、企業は過去の努力より現在のカを重視するのを肌で感じました」(Aさん) 
 実際、毎年東大生を大量採用していた企業も採用枠を絞っていた。卒業式を控えても就職が決まらないため、大学院への進学を決めた友入もいる。そんな話を聞く度、予想以上にリーマン・ショックの後遺症の影響は大きいと実感した。 
文化放送キャリアパートナーズ就職情報研究所の夏目孝吉所長は分析する。 
「人事担当者に聞くと、今はいい学生がいれば大学にこだわらず採用したいというスタンスです。何がなんでも東大生を採りたいという時代は終わりました。特に近年、金融機関は合併が続き、毎年採用数が一定しない。何が起こるかわからない“不測の事態”が想定されることから09年度の決算が予想以上に良かったとしても、採用は絞る傾向にあります。東大生を大量に採用してきた大手金融機関も、今後は不透明です」 
 別紙の表は、『東京大学新聞』が卒業生(学部と大学院)の就職先を調査した「上位企業ベスト10」の変遷である。 
2005~09年までをながめると、上位には、みずほフィナンシャルダループ、日立製作所、トヨタ自動車といった日本を代表する企業が並ぶ。が、採用数には変化が見える。 
08年卒と09年卒を比較すると、08年に約30人入ったキヤノンは09年には約20人。約60人の三菱東京UFJ銀行も約25人に減った。NTTデータ、野村証券も10人ほど絞り込んでいる。 
「毎年30~40人の東大生を大量採用する企業だから、自分の時も同じと考えてはいけません。枠が絞られた結果、学内での競争が激しくなっています。企業説明会やOB訪問は必ず行き、自分がその会社に通しているかどうかなど対策を講じなければ、筆記試験まで進んでも面接で落とされます」(前出・Aさん) 
 ここで東大生の文系・理系、学部別の進路傾向を見てみよう。 
東大新聞で過去5年を振り返ると、経済学部はほとんど民間企業に就職する。内定が多いのは、銀行、証券、保険会社などの金融機関と商社だ。 
法学部は、大学院進学が2割、公務員1割、就職2.5割という内訳。残りは、調査時点で「未定」だった。就職先では、金融、商社、コンサルティング、百貨店などが多い。文学部は大学院進学率が約3割と高い一方、就職はマスコミが人気だ。 
教育学部は5年前、4割だった進学率が年々減少傾向にあり今は3割程度。教育会社などへの就職が増えている。教養学部は半数が進学。民間への就職は、IT関連が多い。 
理系はほとんどの学部生が大学院に進学する。理、工、薬学部ともに進学率は9割。農学部は7割。 
医学部は臨床研修医になる。少数派の就職組では工学部は通信、電気機器など。農学部は食料品、繊維、農林中金などの金融が目立つ。 
大学院修了者は博士課程に進む人が多い。就職する人は経済学では金融機関へ、工学系では官公庁への就職が増加傾向にある。 

人の役に立てる仕事に就きたい 

 そんな中、東大生の進路に見られる大きな兆候が、“官僚回帰”だ。前出、夏目所長は話す。 
 「最近までは、外資系金融機関やコンサルティング会社が積極的に東大生を採用していた。しかし、それらの企業はリーマン・ショックの影響をもろに受け、採用を減らしました。東大生もグローバルな経済情勢に左右され、いつクビになるかわからない企業を避けようとする。その代り、公務員に戻っているのです」 
 傾向は、09年6月人事院が発表した国家公務員採用Ⅰ種試験の合格者数に表れている。 
 応募者数は前年度から986人増の2万2186人。倍率は前年度の13.7倍から14.9倍に上昇した。公務員の定数削減も反映し、5年ぶりに倍率が上がる狭き門となり、東大の躍進が目立った。合格者を大学別に見ると、東大は前年度比4人増の421人でトップ。2位の京大は189人だった。 
 東大生のⅠ種合格者数は00年度は392人。04年の498人をピークに減少傾向になり、08年417人まで減ったのが、09年に上昇に転じた格好だ。 
 省庁別では東大新聞によると、20年前の90年卒業生では通商産業省(現・経済産業省)が32人で5位に入る。90年代は通産や農水、大蔵(現・財務)、外務省に大勢入省。その後は、01年の中央省庁再編を経て03年に国土交通省に約30人入ったのが目立つ程度。官公庁は就職先の上位にランクされなくなったが、09年経産省が33人と7位に復活している。 
 どんな思いで官僚になるのだろう。Ⅰ種試験に合格し、ある中央官庁に入ることを決めた男子学生は語った。 
「人の役に立てる仕事に就きたいと思っていました。その夢をかなえられるのは公共サービスを提供する中央省庁しかなかった」 
 公務員試験に合格するため塾通いする東大生もいる。「伊藤塾」(東京都渋谷区)では多くの東大生が学んでいる。伊藤真塾長も82年法学部卒。在学中の81年に司法試験に合格し、95年に同塾を開校した。長年東大生を見続ける伊藤塾長はこう語る。 
「この塾に来る東大生は、法律家や官僚を目指している。04年に法科大学院ができて、法科大学院と国家Ⅰ種との試験科目がほぼ重なりました。その結果、入塾の時点で進路が明確でなくても、官僚になりたいと国家Ⅰ種にシフトする学生が増えています。官僚のほうが早く社会に出られるのが理由でしょう」 
 伊藤塾長の学生時代には、大蔵省、外務省、警察庁を目指す学生が多かったという。今は、福祉に携わりたいから厚生労働省、教育を改革したいと文部科学省を希望する学生が増えているという。 
 「私たちの学生時代は、高度経済成長を経てバブル期に向かいアメリカに追いつけ追い越せという国の勢いがそのまま学生に伝わっていました。『自分がこの国を引っ張る』というリーダーになりたい熱い学生が多かった。それが、大蔵省や外務省などの志望につながったのでしょう」 
 その後、官僚の不祥事が頻発し、天下りなどの特権も批判にさらされ減っていく。年収で貰えば民間企業に就職したほうがずっといい。民主党政権が掲げる政治主導の下、官僚の権限はどんどん弱まっている。 
「それでも、自分にしかできない仕事をやりたいと公務員を目指す学生が多いのは心強い」(伊藤塾長) 

法学部では進路未定が半数近く 

 78年創立の進学塾「E’sアカデミー」(徳島市)は、30年で約100人の東大合格者を輩出する。生徒たちは、将来何になりたいのかを決めて受験勉強に取り組んでいるという。10年ほど前、「多くの人のために働きたい」と首相を狙う受験生がいた。東大文Ⅰに現役で合格し、法学部から財務省に入省。順調にキャリアを積み重ねているという。 
「今年、文Ⅰに合格した学生も、『日本を新しくしたいから官僚になりたい』というのが志望動機でした。理Ⅲに合格した学生は、新型インフルエンザに備えるウイルス研究ができるのは日本では東大しかないと猛勉強しました。生徒たちは人生の目標が定まるとやる気が高まるのです」(上村恵三朗塾長) 
 そこで理系の学生はどうなのか。3月10日の東大前期日程の合格発表。理科Ⅰ~Ⅲ類に合格した学生たちに「将来は何になりたい」と質問してみた。 
 2人に1人が研究者志望だった。医薬品や医療技術を開発したいという人が最も多く、次いでウイルス研究、物理という答えが返ってきた。 
 官僚でも研究者でも目指す根底には、「人のために役に立ちたい」「社会に貢献したい」という動機が強いことが印象的だった。前出の大手保険会社に就職するAさんも、「多くのお客様の役に立ちたい」と語った。東大は「国を背負う」ために設立され、学生もその強烈な意志を抱いていたが、その意志はマイルドになってしまったような感じがする。 
 昨年末発行の『学内広報』によると、08年度全学部生を対象にしたアンケートでは、「将来の進路や生き方に悩みや不安を感じている」学生は8割に上った。 
 特に法学部では「進路未定」の割合が半数近くに及ぶことが問題になっている。 
 04年に法科大学院ができたことで、将来については大学院に進んだ後に考えればいいという風潮が広がった。必死に勉強をして在学中に国家Ⅰ種に受かり中央省庁に入る学生と、大学院進学を想定して安穏と過ごす学生との二極化が進んでいるというのだ。前出・伊藤塾長は指摘する。 
 「私たちの時代は法学部の進路は、公務員か法曹関係かしかなかった。今はそれ以外にも、外資系や日本の超一流企業への就職が第一志望だったりする。ベンチャー企業を立ち上げる道もある。社会に出てからの選択肢がこの10年で広がったので、逆に学生たちに迷いが生じたこともあるのではないでしょうか」 
 モラトリアムを続け、結局は定職につく機会を逃してしまい、フリーターのままでいる学生もいるそうだ。また道が開けていても果敢にチャレンジしようとしない―伊藤塾長いわく、それが中央省庁に入省する学生との差だともいう。 
「将来の不安」を克服するには、大学に合格したことではなく、大学で学ぶことにかかっているのは東大生に限らないだろう。