地方独立行政法人制度の一考察   ~続く人々へのメッセージ~




平成22年3月発行 那覇市立病院医学雑誌 創刊号 
地方独立行政法人制度の一考察   ~続く人々へのメッセージ~ 
那覇市立病院 事務局長 
宜保 哲也 

要 旨 

1 自治体による病院運営制度のあらまし 
 自治体による病院運営手法について,従来の地方公営企業の他に近年指定管理者制や地方独立行政法人制が新設されたが,それらの制度の制定趣旨と特徴を述べる. 
2 市役所(行政)の仕事の仕方と病院の仕事の仕方 
従来の地方公営企業としての病院運営を行政の仕事の仕方と位置づけ,根底に民主主義を実現するためのシステムに本来的に付随する「民主主義のコスト」を含み非効率的にならざるを得ない,これに対し病院の運営は行政システムとは本質的に異なるものであることを分析する.独法制度はイギリスの行革手法である企画立案部門と事業執行部門を分離したエージェンシー制度をモデルに策定された. 
3 独法制度の概要 
 独法制度の特徴は①病院が行うべきことを中期目標として首長が指し示すこと②あとは病院へお任せすること③結果責任は厳しく問うこと,の3点にある.なかでも経営においては②の意義が大きく,結局独法制度とは,行政や議会から病院現場への権限委譲であり,具体的には人事決定権,給与決定権財務権の移譲とみることができる.よって迅速で柔軟な対応が可能になるのは当然と論証する. 
4 本院独法化の真の目的 
 独法化の真の目的は何かといえば,百年の大計として生き残りをかけて,自主的・自立的病院運営を確立し,医療者から選ばれる病院づくりをすることである.今後は全国の公私優良病院の長所を吸収し,官民が融合した新たな病院経営モデルを構築すべきであると提言する. 

Key Words: 地方独立行政法人,那覇市立病院,独法のメリット,独法制度,独法の展望 

はじめに 
 那覇市立病院(以下「本院」)が独法化する際に,筆者は独法制度の意義・内容,独法化することの必要性を図式化して,それをもとに職員に対して説明してきた.振り返ると,独法制度を総合的・体系的に文章化したものはなく,その場の必要に追われて,あるいはその時点の話題に対応して関連する部分をその都度語ったり,又は文章化してきた.このたび那覇市立病院医学雑誌の発行を契機に,独法化して2年近く経った現在までの経験を踏まえて,体験的地方独立行政法人論ともいうべき私見をまとめることとした. 
 併せて独法化したが故に開けてきた視点に立って,独法による公的病院運営の可能性について思うところを書き止めて,筆者らに続く人々へのメッセージとしたい. 
 なお,本文において独法とは,特に記述がないかぎり地方独立行政法人のうちの非公務員型の法人(一般地方独立行政法人)をいい,公務員型の地方独立行政法人(特定地方独立行政法人)は論考の範囲外であることをご了承いただきたい. 

自治体による病院運営制度のあらまし 

 一昔前の地方自治体による病院運営の手段は,地方公営企業法(以下「企業法」)に基づく運営しかなかった.企業法による運営には,同法の財務規定のみを適用して運営する方法(一部適用)と同法の全部を適用して運営する方法(全部適用,略して「全適」)がある.両者の主な違いは,一部適用の病院は首長の一部局であるのに対し,全適の病院は企業管理者を置き,企業管理者に人事権(一部制約あり)や予算執行権,予算編成権を付与し,自主運営が行いやすくなっていることにある. 
 地方の行政改革の機運が強まるにつれ,新たな運営手段が導入されるにいたった.平成15年に民間の管理ノウハウを活用して効率的な行政サービスを提供する目的で指定管理者制度が創設された.これは,いわゆる小泉行革における「公営組織の民営化」の一環といわれているが,地方自治体の公の施設(住民の福祉を増進する目的をもつてその利用に供するための施設.例えば図書館,市民会館,保育所.公立病院もこれに含まれる)の管理運営を民間人に代行させる制度で,「公設民営」の運営形態である. 
 この指定管理者制度による病院運営は,新設の場合は問題はないが,既設の病院を移行する場合は職員の雇用の継続という大きな課題が発生する.制度的には公務員である病院職員を継続雇用することも可能であるが,公務員の中高年者は高給であるため,ほとんどの場合継続雇用されることはない.再雇用されることがあっても,一旦退職し給料が引き下げられて再雇用されるのが一般的である.第二の問題は「公設民営」のため,施設の管理運営権限が指定管理者に移管され,施設の開設者である自治体の意向がかなり制約されることである.これらのことから,指定管理者制度は実質的に病院経営の放棄と指摘する識者もいる.自治体にとってのメリットは,形式上自治体立病院が従来どおり存続するため住民から一定の評価が得られやすいこと及び国からの地方交付税が従来どおり算入されることである. 
 国における独立行政法人制度は,いわゆる橋本行革の中央省庁等改革の一環として,事務事業の自立的,効率的な実施を図る見地から,イギリスのサッチャー政権の行革手法である企画立案部門と事業執行部門の分離を試みたエージェンシー制度をモデルに,平成11年法律が制定され,平成13年に発足した. 
 「国の独立行政法人制度の狙いとするところは,その業務の公共性,透明性,自主性を重視しつつ,自己責任の徹底,企業会計の採用,ディスクロージャー,業務給与制の導入等により,組織運営の改革と職員の意識改革を行い,効率的・効果的な業務執行を図ることにある.また,このような狙いを実現するため,制度設計にあたっては,事前関与・統制を極力廃し,事後チェックへの重点の移行を図るため,主務大臣の監督,関与を必要最小限のものとするという方針がとられた」¹⁾ということである. 
 地方自治体についても行政改革大綱(平成12年閣議決定)で国の実施状況を踏まえて,地方への独立法人制度の導入を検討することとされ,これを受けて総務省自治行政局・自治財政局内に研究会を設置し,平成14年に「地方独立行政法人制度の導入に関する研究会報告書」と「地方公営企業と地方独立行政法人制度に関する研究会報告書」がまとめられた.国は「地方公共団体にとっても地方独立行政法人制度を導入することについては,制度設計の内容によっては一定の意義が存すると考えられる」,「地方独立行政法人制度を導入することは,地方公共団体が行政サービスを提供するにあたって,機動的,戦略的対応するためのツールを付与するものと位置づけることができると考えられる」²⁾と地方への独法導入の意義を確認し,公営企業型地方独立行政法人制度の制度設計上の基本方針として「①公営企業型地方独立行政法人の制度化は,地方公共団体に対して機動的戦略的に活用しうる新たな事業手法の選択肢を付与するものとして行う.②国の独立行政法人制度を参考としながら,サービス提供手法の自由度をできるだけ高めながら効率的に事業を執行しうる新しい仕組みとして制度設計をおこなう」³⁾ことを基本とすべきとした.これらの研究を基に平成15年7月16日地方独立行政法人法が成立し,翌年4月1日から施行された. 
 以上の公的医療機関の運営制度整備の一方で,民間の病院運営制度にも変化が現れた.平成19年に新設された社会医療法人制度である.平成21年度からは,公的医療機関の役割として位置づけられていた救急医療やへき地医療などを実施する社会医療法人に対し自治体から補助金を交付する場合は,地方交付税で加算されることになった。経営が厳しくなった公的医療機関がこれらの医療を提供できなくなった場合や閉院に備えて,その受け皿医療機関としての役割が期待されているといわれている.このように,公立と民間の区別が複雑化していると同時に,その垣根がどんどん低くなってきているのが時代の大きなトレンドといえよう. 
以上を図式化したのが,図1「病院運営相違図」である. 

  
 なお,PFI(Private Finance Initiative)は「公共サービスの提供に際して公共施設が必要な場合に,従来のように公共が直接施設を整備せずに民間資金を利用して民間に施設整備と公共サービスの提供をゆだねる手法」(ウィキペディア)とされているが,自治体による病院運営制度からいえば,上記の例外をなすものではない.例えば全適による病院運営と資金調達・施設整備及び検査・薬品調達等をパッケージにした病院運営が典型であるが,その類型は極めて多様で複雑である.PFIは仕様が細かすぎて民間の良さを生かすことが出来ず日本の風土になじまないと評する識者もいるが,現時点での一般的評価は未定といえよう.また公立病院の民間移譲もよく話題となるが,これは自治体による病院経営の完全な放棄であり、行革手法の一つではあても経営手法ではない. 

市役所(行政)の仕事の仕方と病院の仕事の仕方 

従来の企業法の適用を受ける病院経営の問題点の本質について考察したい.企業法は公営企業の経営の基本原則を「常に企業の経済性を発揮するとともに,その本来の目的である公共の福祉を増進するように運営されなければならない」(同法3条〉と規定して経済性と公共性の両立を図り,職員の労働関係や議決対象事項の縮小など一応一般の行政より企業現場の裁量が拡大するように策定されている.しかしながら,根幹の部分は条例や議決により制約され,基本的には行政のシステムによる仕事の仕方ということができる. 
 市役所(行政)における仕事の仕方がどういうものか考察する.都道府県・市町村はいわゆる地方政府である.住民に対し社会インフラを整備し,権力を行使して社会秩序を維持し,行政サービスを提供すると同時に徴税をしている.その運営の基本ルールが民主主義ということになる.民主主義の定義は,学者によっていろいろあろうが,その根本を要約して言えば「何を・どのようにやるか,市民が決めて,市民が負担する」ということであろう.そこで,日本における地方政治は,執行機関の長たる首長(知事・市町村長)とチェック機関である議会の議員を住民が選挙で選ぶ二元代表制による間接民主主義によることを憲法で定めている.執行機関の権限は膨大で多岐に及び,市民の代理人たる首長を頂点として職務命令が通達できるよう厳然たるピラミッド型の組織を形成し,行政サービスの提供のほか,警察・消防,徴税等の公権力の行使を伴う業務を行っている.この絶大なる権限を持つ執行機関の横暴を牽制し暴走を抑止するため,意図的に権力を分散させ,重要な事柄は,執行機関の意向だけでなく,議会の議決によって当該自治体の意思を決定させることにしているのが二元代表制の意義といえよう.議会の議案とは例えば,自治体を運営するうえで重要な予算・決算や行政サービスをするか・しないか,どのように提供するか等を定める条例の制定改廃,高額な土地購入・工事請負契約などであり,各種議決事項が執行部から議会に提案され,議決されることにより自治体の意思が決定されることになる. 
 全適である病院事業の具体的な議決案件はどういうものか見ていくこととするが,各自治体によって異なっているので那覇市の例で述べることとする.条例としては職員定数条例(病院で採用できる正職員の上限を定める),病院事業の設置等に関する条例(病院設置,診療科目,病床数,企業法で定めるべき議決事項等を定める),企業職員の給与の種類及び基準を定める条例(職員に支払うことができる給料と手当の種類及びその基準を定める),病院使用料及び手数料条例(病院が受領することができる診療報酬のほか,自由診療の種類と額・差額ベッド料等及び文書料等の額を定める)がある.条例以外の議決・認定事項として,毎年度の事業内容を予め定める予算(1会計年度を超える場合の契約や年度内に予算執行ができず繰り越す場合や3,000万円以上の医療機器等の購入も予算で定める必要がある)や決算のほか条例で定める議決事項として,200万円以上の損害賠償の額の決定等が主なものである. 
 もう一つ行政のシステムで重要なことは,提供される行政サービスをはじめとして,首長・議員の給料,自治体で働く職員の給料は,すべて市民の税金でまかなわれるということである.従って民主主義の実現の場である議会においては,市民の税金で何をすべきなのか,どのようにすべきなのか,確かに公正・公平に執行したのかなど,全てのことが検討・検証・議論の対象となり,自由闊達な議論こそが民主主義の保障となる. 
 このような行政の場における仕事の仕方で最も重要なのは,法による公正性・公平性の保障であり,効率性はそれよりも下位の価値にならざるを得ない.すなわち,行政システムとは,民主主義を保障し実現するためのシステムで,決して効率を優先して業務遂行するためのシステムではない,ということができる.多少の非効率はいわば「民主主義のコスト」ともいうべきものであろう. 
以上述べたことを図式化したのが図2「市役所(行政)のやり方」である. 
  
ひるがえって病院の仕事の仕方を見てみよう.病院の運営は,医療法によって施設基準等が事細かに定められており,保健所は所轄内の病院がその基準が満たしているか,常に監視している.医療従事者の資格も厳格に法により定められ,国家によって管理されている.また,医療従事者の義務も法により定められており,医師の応召義務「診療に従事する医師は,診察治療の求があつた場合には,正当な事由がなければ,これを拒んではならない」(医師法第19条)などは,特に有名である. 
 このように,それぞれに高度な専門家である医師・看護師・コメディカルがそれぞれの専門性を発揮すると同時に,有機的に業務提携し,チーム医療として患者の治療に当たるのが病院の仕事の仕方である.特に医師集団においては, 上意下達的・行政的なピラミッド組織は全くなじまない.医療が細分化しているだけでなく,制度上も現場の医師に大きな裁量権が付与されており,院長といえども主治医に医療に関しては命令できない(医師法20条「医師は,自ら診察しないで治療をしてはならない」).これらの事情を象徴的に現しているのが診断書への主治医の署名である.医師は自ら診察して診断書を交付し,その内容に個人として責任を負う(民法の使用者責任は別として)のである(医師法同条).これに対し例えば市役所で住民票の発行を受けた場合,窓口の職員が誰であっても証明者は同一の市長名である. 
 このほか,病院システムと行政システムが大きく異なるのが,病院の活動を維持する財源は,民間も公立病院も同一の診療報酬制度を適用して病院経営をしているということである.いわば診療報酬という同じ土俵の上で公立と民間が相撲を取っているようなものである.競争にさらされているという点で,公営企業ではあるが独占企業である水道事業と大きく異なる.もう一つの相違点は,何を,どのようにすべきなのかと一から議論する行政に対し,病院の役割は決まっており,すべきことも決まっているということがあげられる.つまり,病気になったときにちゃんと診てほしい,安心できる救急医療を安定的に提供してほしい,いつでも安心してお産ができる周産期医療をしっかり提供してほしいということが病院に対するオーナーとしての市民の要望である.このように入り口の幅は狭いが,人体が小宇宙に擬せられているように極めて奥が深いのが医療の特徴といえる. 
 以上述べたことを図式化したのが図3「病院のやり方」である. 
  
行政と病院の違いをるる述べたが,具体的な事例で考証しよう.行政システムと病院システムの矛盾が端的に現れるものに,定員管理の考え方がある.行政システムにおいては,官僚組織は常に自己増殖するので,議会が監視するために定数条例がある.これ自体は納得できる正論である.平成17年の国の新行革指針では,地方公務員を4,6%削減するようにと自治体に求めてきたが,この中には病院も含まれていた.周知のとおり,看護師数は入院看護基準によって必要人数が定まっており,単に看護師数を減らせば病院経営健全化ができるというものではない.そもそも病院における必要要員管理は収支に相互関連するため経営そのものいってよい.経営を管理せずに定員だけを管理するところに行政システムの無理がある.定額以上の医療機器購入も議会事項(那覇市では3000万円以上) であるが,全く同様の矛盾がここにも現れる.この矛盾は現在の企業法制度による病院管理の限界を示しているように思える.現在の病院の経営は高度に専門化し,医療法,診療報酬制度,その各種加算制度,急性期病院にあってはDPC分析等の専門的知識・スキルが要求されている.ところが首長の組織の職員や議会議員にこのような知識・スキルを持った人材を確保できることはほとんど不可能である.いわば病院経営の素人が病院経営の根幹たる予算やマンパワー決定の権限を握っていることになる.企業法による行政システムで想定しているのは民主主義的「管理」であるが,病院現場で必要なのは「経営」である. 
 このように,行政システムと病院システムは仕事の仕方が大きく異なるが,社会全般に目を転ずれば効率的なシステムとして例えば株式会社制度がある.オーナーである株主は出資をし,会社の社長,その他の役員を決定するが,通常業務の執行については当該役員に執行権限を委譲して運営させ,その成果(配当)のみを受け取るシステムである.つまり所有と経営を分離し,会社の存立意義に沿ってその道のプロが合目的的・効率的に組織を運営する方法である.当然に会社の業績が悪化すると社長・役員は罷免され,能力が期待される新社長と交代する。 
前述のとおり,独法制度はイギリスの行革手法である企画立案部門と事業執行部門を分離したエージェンシー制度をモデルに,行政分野に属していた事務事業の効率的な実施を図る見地から策定されたものである.国民は常に負担の減少・受益の増大を欲しており,より進化した社会システムを求めているのである. 

独法制度の概要 

 筆者は,独法制度の概要を説明するとき,登揚人物(機関)を市長(首長),独法の理事長,評価委員会の3者に絞って説明している.最初からあまりに詳細に説明しようとするとむしろ制度全体の構図が分かりづらくなるので,あえて絞り込むのである. 
 まず市民の代理人たる市長が独法の理事長を任命する.その際,理事長に独法の特徴を際立たせている次の3点を申し伝える.すなわち「①この中期目標を達成するような病院経営をしてください.②あとはお任せします.③しかし,達成できない場合は,クビにすることもありますよ」と. 
 1点目の中期目標とは,市長が指示(命令)するもので,独法がこの4年間(本市の場合.正確には3~5年で中期目標で定める期間)で維持すべきサービスの水準・達成すべき目標のことである.独法化すると経営効率を追求するあまり不採算医療やへき地医療から撤退する,などと誤解されて言われることがあるが,自治体として実施すべき医療は,この中期目標に掲げればよいのである.中期目標による市長の指示命令は独法が公立病院であることの根源である.この指示命令を受けた理事長は「わかりました.この中期計画で,指示された中期目標を達成するよう,頑張ります」ということになり,意図的に中期目標に反することはできないようになっている. 
独法の特徴の2点目は「あとはお任せします」と病院の運営を理事長に一任することである.法人の職員は全て理事長が任命するほカ、定数や給与の縛りもなく,予算執行も複数年契約や機器購入も中期計画の範囲内であれば自由にできるようになる.行政システムの予算・条例による規制というような事前統制ではなく,目標を与えて事後のチェックに重点を置くシステムに変わるのである. 
特徴の3点目は「しかし,達成できない場合は,クビにすることもありますよ」と結果責任を厳しく追及できるようになることである.権限と責任の明確化である.中期目標から意図的に離反するような独法運営をする場合は,任期中途であっても解任できる.特に果たすべき医療の実施は絶対的に達成すべき市長の指示といえる. 
 独法制度におけるもう一つの重要な仕掛けは,評価委員会の設置である.市の付属機関で,本市の場合の医療関係者3人,行政経験者1人,公認会計士1人,計5人の委員が任命されている.独法制度の狙いの一つとしてPDCA品質マネジメントサイクル(plan-do-check-act cycle計画-実行-評価-改善)を回すシステムを組み込むことにより,独法が提供するサービス水準の維持向上を図ることがいわれている.評価委員会の役割は,議会や監査に代わり独法の活動を監視し,PDCAサイクルの評価の機能を果たすことである.また市長に対し,必要に応じ改善の勧告や意見の申し出を行うことができる. 

 以上の説明を図式化したのが図4「独法の仕組図(概要)」である. 
  
なお,以上の説明やこの図では省略されているが,中期目標や中期計画は議会の承認が必要である.独法制度の詳細な機関相互の関係は,図5のとおりである.また,独法運営の柱である中期目標と中期計画にかかる一連の事務の流れは,図6のとおりである. 
  
  
 以上考察したとおり,結局独法制度とは,行政や議会から病院現場への権限委譲であるということができる.委譲される権限は,任命権,採用枠(定数)決定権を含む人事決定権であり,給料表・諸手当策定権を内容とする給与決定権であり,予算編成権,執行権,複数年契約権を内容とする財務権である.だから,迅速で柔軟な対応が可能になるのは当たり前であり,効率が良くなるのは当然の結果といえる.なお,具体的な独法化のメリット・デメリット等については拙著⁴⁾を参照されたい. 

本院独法化の真の目的 

本院は全国でも珍しく自らの進むべき方向性として外圧によらず自ら独法移行を選択したが,本院の独法化の理由として,短期的には7対1の看護基準を取得すること,長期的には柔軟な運営体制を確立すること及び独法移行に伴う職員の意識改革により国の診療報酬制度に即応できる体制を整えること,などがあった.同時に,百年の大計といえば大げさに聞こえるが当事者としてはそれぐらいの心意気で長期にわたる将来展望を表明している.平成19年1月17日の独法移行表明の那覇市長記者会見資料から長くなるが引用する. 

那覇市立病院は,どこを目指しているのか 
①      市立病院は,那覇市民,南部医療圏住民,地域のホームドクターから信頼され,選ばれる急性期医療の中核病塊・がん拠点病院・救急病院として存続したいと考えています. 
②      市立病院は,ドクター,ナース,コメディカルにとって,医療技術が学ばれ・磨かれ・発揮される働きがいのある職場,開かれた医療機関として存続したいと考えています. 
③      市立病院は,市行政当局と協力し,那覇市民の健康増進を図り,予防医学を推進する保健行政のパートナーとして,また災害時における医療現揚の核となる市民病院として存続したいと考えています. 
④      市立病院は,市民の支持を得て,徐々に財政基盤を強化し,最終的には市民の税金を投入せずに健全運営ができるような病院経営を目指します. 
⑤      以上のように,市立病院は,未来永劫にわたって市民の健康を守り市民の拠り所となる病院運営を続けたいと願っています. 

 本院独法化の目的は何かと問われれば,患者のため,24時間365日救急医療を続けるため,と答えるのが公式見解であるが,独法化の真の狙いは何かと問われれば,筆者は迷うことなく医療者から選ばれる病院づくりのためと答えたい.ところで患者から選ばれる病院と医療者から選ばれる病院づくりは,相反するのだろうか.筆者は相反しないし,矛盾しないと考える.力点の置き方が多少異なるだけと思っている.いいスタッフを集めることができ,育成することができるならば,患者は自から集まってくる.特に昨今のような医師不足,看護婦不足といわれるような時代を生き残るには,まずは医療者が魅力を感じ集まってくるような病院づくりを目指すことに重点を置くべきと思うのである.最近はこのような病院を「マグネットホスピタル」と呼ぶようである. 
実は筆者には秘めた希望があった.それは「医療者の楽園」を創りたいということである.楽園にもいろいろあろうが,ここではユートピア・理想郷のことである.医療者が学んで向上でき,医療者がやりたいと思う医療サービスを提供できるような病院はできないものだろうか.そのためには,自主的且つ自立的病院運営の確立が必須である.公立病院は,民間と比して効率性とコストの面は劣っているが,透明性・規範性・タブーのない開かれた議論の可能性の点では優れており,院長以下職員がその気になりさえすればこれを築きやすい環境があると思うのである.独法化は自主的且つ自立的病院運営確立の第一歩である.そこで重要なのが病院のリーダーたる理事長の選任である.選任権は確かに首長の権限であるが,病院医局の支持を得られないリーダーでは病院をまとめきれない.そこで,独法移行に際しての市長調整の時に,独法化後は病院側が推薦する医師を理事長に選任してもらいたいと院長以下皆で要望した.ただし,これには条件がついている,「病院が黒字経営の間は」と.恒常的に赤字では病院側に推薦する資格はない. 
独法移行に対する反対論はさておき慎重論もある.慎重にならざるを得ないのは,職員が非公務員になることに反対する抵抗の大きさというリスクのそれぞれの病院における評価であろうから当然のことと思われる.今後独法化していく病院は病院経営を病院当局が主体的に行いたい病院,住民意識が高く病院運営への税金の投入を抑えるべきとする主として都市部の病院,自治体の財政状況が厳しく財政当局に押し切られる病院などを中心に増えていくだろうと筆者は予想している.これらの独法化する病院や独法化を検討している病院への最大の支援は,全国の先行事例であるわれわれ自らの病院が医療的にも財政的にも全国のお手本となるような運営をし,その実績を継続していくことである.これからは,優良な公立病院だけではなく,県内そして全国の民間の優良病院にも目を向けて,そのいいところを謙虚に吸収し,官民の長所が融合した新たな病院経営・運営モデルを確立することが求められている.その先に「医療者の楽園」が実現できるのだろうと思う. 

30年前,岬めぐりという山本コータローの歌があった.重いリュックをかついで急峻な山肌が海に迫る曲がりくねった海岸道路を歩いているとその先に岬が見える.その岬の突端にようやくたどり着いたとき,眺望は一変し新たな入り江や集落などの風景が見えてくる.そのはるか先には新たな岬や山がうっすらと見えている. 

岬めぐりの バスは走る 
窓に広がる 青い海よ 
悲しみ深く 胸に沈めたら 
この旅終えて 街に帰ろう 

文献 

1)      地方公営企業と地方独立行政法人制度に関する研究会.地方公営企業と地方独立行政法人制度に関する研究会報告書. H14-12. 5頁 
2)      地方独立行政法人制度の導入に関する研究会.地方独立行政法人制度の導入に関する研究会報告書. H14-8.3頁 
3)      注1と同じ.6頁 なお筆者にて一部引用省略 
4)      宜保哲也.地方独立行政法人化後の那覇市立病院.病院. 2009年3月.68巻3号.226頁