PMDAの変革が進めば薬系技官は絶体絶命













医療タイムス 2010年2月15日号 



PMDAの変革が進めば薬系技官は絶体絶命 

上昌広 

(東京大学医科学研究所 先端医療社会コミュニケーションシステム 社会連携研究部門准教授) 



かみ・まさひろ 

1968年兵庫県生まれ。東京大学医学部卒業、93年東京大学医学部附属病院内科研修医、95年都立駒込病院血液内科医員、99年東京大学大学院医学系研究科修了。虎の門病院血液内科医員、国立がんセンター中央病院薬物療法医員を経て05年より現職。 







薬事業界が揺れている。厚労省は治験や市販後調査の体制整備に取り組んできたが、欧米から数年遅れの薬しか使えないがん患者や、薬害被害者の怒りは我慢の限界を超えている。この状況を変えたのが、2007年の薬害肝炎訴訟の和解を受けて設けられた「薬害肝炎事件の検証及び再発防止のための医薬品行政のあり方検討委員会」だ。舛添前厚労相が主導し、座長には「武闘派」で知られる寺野彰獨協大学理事長が就任した。空気を読めない薬系技官たちは、薬害対策などそっちのけで、組織論に終始した。「日本版FDA」のかけ声のもと、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)を厚労省に戻し、ポジション獲得を目指したのだ。 

しかし、この企ては、舛添氏や民主党の仙谷氏などの抵抗で頓挫する。しかも、やぶ蛇になった。役人や御用学者の態度に業を煮やした、心ある委員たちが、PMDAのプロパー審査官たちの「本音」を聞くための、アンケート調査を要求したのだ。PMDAは、現役出向官僚が職員の20%、幹部に限っては80%を占める。プロパー職員は、同じ仕事をしても、評価されず、出世できない。アンケート結果の一部は既に公表されているが、「PMDAは本省の植民地」など手厳しい。官僚たちは、検討会に参加する御用学者を通じて、結果の公表を遅らせようと画策したが、「選択」2月号ですっぱ抜かれてしまった。彼らの信頼は急速に低下しつつある。 





患者の主導で薬価維持特例が実現 



ドラッグラグで特記すべきは、薬価維持特例制度が認められたことだ。この制度が導入されれば、新薬の価格が高止まりするため、先発薬メーカーの開発インセンティブは高まる。しかし長期収載品の値下げを伴うため、長期収載品が占める割合が高い国内メーカーは経営がもたなくなる。このため、製薬業界だけでは合意できなかった。この動きを主導したのは患者たちだ。卵巣がん患者の片木美穂氏、元白血病患者で社会保障審議会の委員を務める大谷貴子氏は、各地でこの制度の必要性を訴えた。製薬業界では意見が割れても、患者はドラッグラグ克服で一致団結する。一方、「患者が薬価を上げろ」と言っているわけだから、民主党は動きやすい。一部の製薬企業が要望しても動かなかった薬価維持特例が、あっけなく実現した。 

ところが、薬系技官は、ここでも悪乗りした。薬価維持特例の扱いを受けたければ、厚労省が指定する適応外薬剤などを申請するように求めたのだ。治験が必要になる薬剤もある。薬価維持特例は骨抜きになるか、PMDAに申請が殺到し、パンクしてしまう。この件は、中医協で嘉山孝正委員が問題視し、さらに片木氏も動いた。この結果、厚労省は柔軟な対応をとると表明せざるを得なくなった。 





PMDAが事業仕分け対象に 



民主党は、PMDA、さらに薬系技官を改革の対象と見なしている。4月以降、内閣府では仙谷氏が主導して、独法の仕分けが行われるが、PMDAは当然、対象になるだろう。民主党政権から天下りを禁止された薬系技官は多数の現役出向ポジションを持つPMDAを絶対に死守したい。出向役人がお荷物であることが知れ渡れば、民主党が強権を発揮するのは避けられない。薬系技官は絶体絶命だ。彼らにも一縷の望みがある。医薬品の安全対策を徹底することだ。市販後に発生する稀な副作用の情報を集め、薬害を予防することは国民共通の願いだ。 

ところが、これまで、PMDA内では安全対策は日陰のポジション。花形は新薬審査だ。新薬審査が「頑張りすぎた」ことが、ドラッグラグを増長した側面すらある。舛添前厚労相が政治任用し、民主党からも信頼されているという、近藤達也理事長がリーダーシップを発揮し、PMDAの文化を変えることができるか。そして、彼を取り囲む現役出向理事たちが、どのような立ち位置をとるか一。見守っていきたい。