独立行政法人の事業仕分け: 医薬品医療機器総合機構(PMDA)と国立病院機構



独立行政法人の事業仕分け: 医薬品医療機器総合機構(PMDA)と国立病院機構 
東京大学医科学研究所 先端医療社会コミュニケーションシステム 上 昌広 
2010年4月26日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp 

4月23日、独立行政法人(独法)に対する行政刷新会議の事業仕分けが始まりました。 
また、それに先立ち、厚労省内でも独自の事業仕分けが行われました。 
 この仕分け、支持率が急落している鳩山政権の人気とりではなく、真に国民のためになるでしょうか。今回は、私が注目する二つの組織を取り上げ、独法の事業仕分けの論点について考えてみたいと思います。 

【医薬品医療機器総合機構 (PMDA)】 
 PMDAとは医薬品や医療機器の審査・副作用情報収集・被害者救済などを業務とする独法です。 
元来、厚労省内の組織でしたが、小泉政権の行政改革の一環、および繰り返す薬害事件の反省から、2004年に独法化しました。 

 ドラッグ・ラグや薬害問題は多くの先進国で政権支持率に直結する重要課題です。 
我が国の薬害肝炎事件、米国のバイオックス訴訟、ヘパリン汚染事件が、社会にどのような影響を与えたか、ご存じの方も多いでしょう。 

 このように、医薬品に対する市民の関心が高まっており、医薬品審査や安全対策は、新しい学問分野として急成長しつつあります。 
例えば、最近1年間に世界最高峰の医学誌であるNew England Journal of Medicine (NEJM)は、米国FDAに関する32報の論文を掲載しました。 
専門誌に論文が投稿され、ピアレビューを受けることは、最高レベルの情報公開です。 

 社会の要求に応えるため、FDAは高度な知識・技能を持つ専門家をリクルートしようとしています。 
例えば、FDA審査官の募集要項には、PhD以上の資格が必要なポジションが多数あります。 
また、オバマ大統領が政治任用したFDA長官のマーガレット・ハンバーガー氏は、1990年代以降、NEJMなどの一流誌にコンスタントに研究論文や論評を発表し、研究者としても一流です。 

 米国と比較して、我が国の状況はお寒い限りです。昨年11月現在、PMDA職員515人中119人が厚労省からの出向者です。 
特に、幹部41人に限れば、出向者は33人にのぼります。その中心を占めるのが18人の薬系技官です。 
大学卒業後、そのまま霞ヶ関に就職したため、薬学、医学、統計学などの専門的なトレーニングを受けていません。当然、大部分が博士号を持っていません。 

 専門教育を受けていない官僚に、FDA並の実力を期待するのは酷な話です。 
一方、「素人」が審査の最終決定権を持つのですから、どうしても「慎重」にならざるを得ません。 
私は、出向官僚が「慎重」になり、「エビデンスが確実でない部分は認めない」という保守的な文化がPMDAに蔓延していることが、ドラッグ・ラグの一端を担っていると考えています。 

 一方、天下り批判が強い昨今、官僚の関心は、もっぱらポジションの確保にあります。 
PMDAは、薬系技官にとり最大の出向組織。やすやすと手放したくはないでしょう。 

 このしわ寄せを食うのは、プロパー職員です。 
2004年の独法化以降、PMDAは専門家スタッフの養成に努めてきました。また、外部から多くの専門家を中途採用しました。 
彼らの多くは博士号の資格を持つ専門家です。 
ところが、PMDAの人事は、出向役員に牛耳られているため、プロパー職員は頑張っても、部長以上のポジションにつくことは稀です。 
その姿は、「白人が植民地の奴隷を支配している構造」と揶揄されています。これでは、専門家のモチベーションを維持できません。 

 この状況に楔を打ち込んだのが近藤達也氏です。2008年の薬害肝炎事件の和解を受けて、舛添前厚労相は、PMDA理事長に天下っていた宮島彰氏(法令キャリア、元医薬局長)を更迭しました。 
そして、後任に国立国際医療センター病院長であった近藤氏を任命したのです。 
近藤氏は昭和43年東大卒の脳外科医。 
安保闘争世代で、大学卒業後は、国内外の施設を渡り歩き、外科医としての腕を鍛えた実力者です。 
PMDA理事長に就任後、レギュラトリー・サイエンスの推進を提唱するとともに、情報公開を飛躍的に進めました。 
その業績は高く評価され、FDAのハンバーガー長官は、近藤氏に強い影響を受けたと言われています。 

 ところが、今年3月、近藤氏の任期切れを待ち、一部の官僚たちが「近藤退任」を仕掛けたと言われています。 
このクーデター計画は事前に漏洩し、何者かが2チャンネルに報告しました。面白い書き込みなので、ご紹介しましょう。 

「本社の薬系が理事長とは直接関係ない、つまらない失敗をネタに 退職を強要する計画らしい。 
Xデーは年度末。ネタは肝炎検証委員会。言い分は人身一新」 
「神輿は軽い方がいい、XXXX(筆者が消しました)みたいに骨抜きのいいなりかと思ったら、意外な気骨に手こずったんだろう。 
理事長は無垢なほどいい人だが、臨床医、病院長としての修羅場をくぐって来ているたよりになる友達も多い。薬系のロボットになると思うのは臨床医舐めすぎだろう」 
「李次長辞めないで」 

 以上は、内部の職員の書き込みでしょう。 
近藤氏は、スタッフの人心を掴んでいたようです。この騒動は、やがて長妻大臣をはじめとした政務三役の知るところとなり、結局、近藤氏は「無事に」再任されました。PMDAの内情を考える上で示唆に富むエピソードです。 

 PMDAの事業仕分けは、医療分野の目玉です。長妻厚労大臣は、「(PMDA改革を)劇的にやらないとだめだ 
。 
最重要課題としてプランを立ててもらいたい」(1月31日毎日新聞)と語っています。 
PMDAの抱える最大の問題は人事です。 
組織図をいじっても問題は解決しません。 
長妻・枝野氏の手腕に注目して見守りたいと考えています。 


【国立病院機構】 
 私が、もう一つ興味をもっている独法は、国立病院機構です。 
国立病院機構は、2004年4月、厚労省所管の旧国立病院・療養所を引き継ぐ形で発足しました。 
政策医療の遂行が主たる目的で、そのほか、医療に関する調査・研究、医療技術者の育成も行っています。 

 先日、理事長を務める矢崎義雄氏の話を聞く機会がありました。 
彼は元東大循環器内科教授で、優秀な臨床医・研究者です。私は、矢崎理事長はお飾りで、役人が補助金漬けで操っていると考えていました。 
ところが、実態は予想とは違っていました。 
矢崎理事長以下のスタッフは、所与の条件下で奮闘しています。 

問題は、独法化時の清算の失敗にあるようです。 
国立病院機構の問題は、国立がんセンター独法化と対比すると理解しやすくなります。 

 国立病院を独法化するときの盲点は、減価償却と長期債務の取り扱いです。国立がんセンター独法化では、仙谷・長妻大臣、土屋了介院長(現癌研有明病院顧問)が頑張り、問題を処理しました。ところが、国立病院機構では、この問題が議論された気配がありません。 

 特に原価償却は深刻です。 
国立がんセンター独法化時に、議論の趨勢を決めたのは、公認会計士の細野祐二氏の論文です。 
財界展望の2009年4月号で、「実態を必ずしも表さない財務諸表を提出する厚顔」と指摘し、「予定キャッシュフロー計算書によれば、独法化後の国立がんセンターは毎年7億5600万円の固定資産の新規取得を行うことになっている 

。しかし、年間7億円の投資ではこの組織体の現状の設備機能を維持する事は不可能である。なぜなら(中略)、取得原価1036億円から算定した減価償却費が年間80億円と推定されるのであるから」と論破しました。厚労官僚が作成した収支予想は、帳尻はあっていましたが、更新投資を計上していないため、やがて破綻することが明らかになったのです。 

 一方、国立病院機構は144の病院から構成され、08年度の経常収益は8078億円です。 
しかるに、減価償却は、わずか437億円。予想収益500億円の国立がんセンターが、80億円の減価償却を要するのとは対照的です。 

 ちなみに、厚労省から国立病院機構への運営交付金は486億円。帳尻はあっています。 
国立がんセンターも国立病院機構も、独法化を担当したのは医政局国立病院課(現政策医療課)の医系技官たちです。 

企業会計に不慣れな彼らは、同じ間違いを犯したのでしょう。 
国立がんセンター独法時には多くの国民が注目したため、会計処理の誤りが指摘されましたが、6年前に独法化した国立病院機構では、医系技官の原案がそのまま通過しました。 
矢崎理事長以下、如何に経営に尽力しようが、税金を投入しなければ、やがて国立病院機構は立ちゆかなくなります。 

 もう一つの問題は長期債務の引き継ぎです。国立病院機構が抱える08年末の固定負債は6544億円で、支払い利息は年間150億円にのぼります。国立がんセンターと同じく、病院新設時に厚労官僚が作った負債をつけ回されているのでしょう。 

 一般に病院の建設コストは1ベッドあたり3000万円程度と言われていますが、国立がんセンターの場合、7-8000万円もかかったことが明らかになっています。 
この差額は、建設会社や納入業者への不当な支払いです。担当部署が同じなのですから、国立病院機構も同様の問題を抱えていたでしょう。 

 このように考えれば、国立病院機構は、官僚が作った借金、いや不祥事を、独法化を「口実」に押しつけられたと見なすことも可能です。そして、この負担が、国立病院機構の活動を制約しています。 

事実、国立病院機構が生き残るためには、不採算部門から撤退し、高収益が期待できる治験のような分野に進出せざるを得ません。 
これは、完全な民業圧迫です。 
果たして、このような経営が国民にとってベストでしょうか。 
国民が、「国立病院」に期待するイメージとは乖離があります。 

 ちなみに、国立がんセンターの長期債務は、国民的議論の末、668億円から171億円に減額されました。 
そして、総長、中央病院院長、研究所長、運営局長が退職し、責任をとりました。 
まだ、過去の高額な建設コストについて、厚労省は一切説明していませんが、独法化に際して、ある程度の膿を出したということが出来ます。 
国立病院機構では、このプロセスがありませんでした。そして、問題は独法のスタッフたちに押しつけられました。 

 今回の独法事業仕分けでは、国立病院機構の抱える問題を掘り下げ、徹底的に議論されることを期待しています。 
仕分け人に方々は、国立病院機構が国民にとって、どのような組織であるべきか。 
そして、その負担は、誰がどのように負うべきか、国民の視点にたって議論して頂きたいと考えています。 
おそらく、この作業は、第三弾 厚労省本体の仕分けへと繋がるでしょう。 
そこまで到達せず、独法を「トカゲのしっぽ切り」しても意味がありません。 
民主党政権の姿勢が問われています。 

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