財務教室~第4回~病院の「成長」を考える―BSCをツールに― ファシリテーターが成否を左右する




財務教室~第4回~病院の「成長」を考える―BSCをツールに― ファシリテーターが成否を左右する 
2010.08.05 CB医療介護ニュース  
  

BSC(バランスト・スコアカード)の導入や活用において、重要な役割を果たすのが「ファシリテーター」です。 

ファシリテーターは、会議やワークショップにおいて中立な立場でチームのプロセスを管理し、チームワークを引き出し、そのチームの成果が最大化するよう支援することで、参加者の相互理解や合意形成をコーディネートします。 

日本医療バランスト・スコアカード研究学会(HBSC学会)が年2回開催しているBSC導入ワークショップでは、ファシリテーションを学習し、経験を積んだ学会事務局のスタッフが、ファシリテーターを務めます。 

特に最近では、「BSC導入のファシリテーション方法を学びたい」という声を多くの方からいただくようになりました。これは、戦略マップやスコアカードの作り方は、BSC導入ワークショップへの参加などを通じて理解できても、実際に自分の病院で導入を試みると、ファシリテーションの方法が分からず、導入が進まないといった課題が生じる場合があるからです。 

そのため、HBSC学会では、昨年よりBSCファシリテーション勉強会を始めました。 

勉強会は3回シリーズです。第1回は座学で「ファシリテーションとは何か」や「BSCにおけるファシリテーター導入のためのポイント」などを学びます。 

第2回では、BSCファシリテーターはどのようにBSC導入ワークショップを進めるのかということについて、ファシリテーターに付いて見学してその手法を学びます。 

第3回は、BSCを導入する病院を想定したケーススタディーで、受講者がファシリテーターとなり、実際にファシリテーションを行ってもらいます。この際、ファシリテーションが行えているか、評価も行われます。 

さらに、認定試験が実施され、これに合格すると、HBSC学会から「医療BSC認定指導者」として認定されます。 

このように、BSC導入についての技術を身に付け、認定試験を通じてBSCに関する知識も得ることが可能となるのです。そして、このような知識や技術を身に付けている人が病院にいることで、自分たちでBSC導入のためのワークショップを行うことができます。 


▼ファシリテーター育成 「運用段階」が課題に 

BSCのファシリテーションには、「導入段階」と「運用段階」の2ステップがあると思います。このうち、HBSC学会で行うワークショップは「導入段階」を指導するものです。「運用段階」を担うファシリテーターをどのように育成するかは、HBSC学会の今後の課題と考えています。 

このBSCの「運用段階」のファシリテーターは、経営企画室のような役割が必要であると考えられます。BSCを通じて経営全般の問題点を発見し、その改善策を企画し、実行に移す働きを担うわけです。つまり、経営トップのブレインとして、組織のビジョンや経営戦略・事業計画の策定を行い、その具体的な実行体制を作る役割を果たすことになります。 

そのためには、ファシリテーターはBSCで設定した成果尺度をモニタリングし、当初の目標を達成できたのかをチェックします。そして達成できなかった場合は、どこにその原因があったのかについて、データを分析し、考察を行います。 

ファシリテーターがまとめた情報は、病院の経営層を中心とした「戦略レビュー会議」に上げられ、次のアクションを議論するための材料として使われます。 

また、ファシリテーターは「戦略レビュー会議」の運営や、円滑に議論を進めるための役割を担います。この際、ファシリテーターは特定部門の利益ではなく、病院全体の利益を考えながら、議論の進行役を務めることが大切です。つまり、部門最適ではなく、常に全体最適を考える必要があるのです。 

▼「やらされている」では参加意欲持てず 

BSCは、戦略マップやスコアカードの作成が最終目的ではありません。戦略マップやスコアカードを通じて、病院の全職員がマネジメントに参加することが重要なのです。多職種が集まる病院で、部門間の意思疎通が不十分といった課題を明確にし、議論をするための道具なのです。つまり、BSCを活用することで、マネジメントがうまく回ることが目的なのです。 

例えば、ある公立病院では、自治体の担当部局から「指定のBSCフォーマットを用いて事業計画を作りなさい」という指示が出されたそうです。これでは、フォーマットに従って課題を埋めることが目的となってしまうため、現場では「やらされている」と感じ、本来あるべき議論に参加する意欲を持てなくなります。 

また、病院のトップがBSCの必要性を理解していることも大切ですが、その上で職員に参加意識を持ってもらうことがより重要なのです。特に、病院のトップが自ら作成したBSCを押し付けてしまうのでは、やはり現場では「やらされ感」につながり、実際に機能しません。 

この、職員の「やらされ感」をなくすためにも、BSC導入のワークショップは有効だと思われます。 

例えば、ある小規模病院では、それまで職員がそれぞれ問題意識や不満を抱いていましたが、目の前の仕事に日々追われてしまい、改善を提案する場面もなかったそうです。しかし、BSCワークショップに参加することで、その病院の職員は初めて自分たちが抱えている問題を明確にし、病院トップに伝えることができたほか、実は病院トップが改善したい点も自分たちと同じようなことだというのを知ったそうです。 

病院トップは「重要なことはいつも職員に伝えている。だから職員も理解しているはず」と思っていたとしても、実際にはなかなか現場には伝わっていないことがあります。一方現場は、目の前の課題を一生懸命解決しようと努力しているが、病院トップはそれを理解してくれないと感じているというように、病院トップと現場とのコミュニケーションの断絶がその原因だと考えられます。 

これらのことから、この事例のように、BSCを通じて病院トップの考えと現場が考える課題がつながり、組織としての一体感が持てるようになることが、実際のBSCの運用が成功する一つの要因であると考えられます。 

▼予算に対する意識 高めることも重要 

財務の面以外にも幅広い視点から経営課題を明らかにし、戦略を考えるのがBSCですが、その一方で、予算などに対する現場の意識を高める効果もあると思います。 

例えば、現場から突然「この機器が必要なので購入してほしい」と稟議が上がってきても、院長は「これは買ってもいいものなのか」と判断に迷う場面があります。採算を考えることもなく、現場がただ「欲しい」というだけで、設備投資を行うことは、経営リスクにつながるからです。 

その部門で本当にその機器が必要ならば、年度計画に盛り込み、予算化すべきではないでしょうか。また、「この機器にはいくら必要で、導入した場合にこれだけの効果が見込める」といったことが説明できてはじめて、部門に予算の執行権が認められるのだと思います。 

このように、事業計画に基づいて機器の購入が意思決定され、それが予算に組み込まれていれば、院長も安心して判を押せるでしょう。 

つまり、何に投資をして何を減らすかというように、予算にメリハリを持たせる必要があるのです。そのためにも、事業計画の立案は重要であり、BSCを活用することで、その意思決定を行うことができるのです。 

また、事業計画は病院全体に周知することが大切です。BSCを活用して、事業計画と予算を病院全体に伝えることによって、はじめて進むべき方向が明確となるのです。また、このような過程を通じて職員にもコスト意識が生まれ、与えられた予算の中でやりくりしようと考えるようになると思います。つまり、予算を行使する責任と権限を現場に持たせることも、マネジメントの上で必要なことなのです。【聖路加国際病院 事業管理部財務経理課マネジャー 渡辺 明良】