「入局者は残念ながら二年間ゼロ。市民病院は大学からいつでも医師が来てくれると思っているが、とんでもない。医局はつぶれているから、医者は供給できない」 長崎大 金武洋教授 ここまで言われても 「戦艦大和2 新長崎病院」は轟沈覚悟で建造するのか?



「入局者は残念ながら二年間ゼロ。市民病院は大学からいつでも医師が来てくれると思っているが、とんでもない。医局はつぶれているから、医者は供給できない」 長崎大 金武洋教授 
ここまで言われても 「戦艦大和2 新長崎病院」は轟沈覚悟で建造するのか? 



ながさきインサイド/生活文化部 小出久/どうする高機能病院/限界に来た医師派遣/悲鳴を上げる長崎大/研修医確保のため病院改革 
2009.02.08 長崎新聞   
  

 長崎市が市立市民病院と成人病センターを統合して新市立病院を建設する計画に対し、県や長崎大が日赤長崎原爆病院を含めた3病院を統合し大規模な高機能病院を建設するよう提案した問題。「なぜ今さら」と市、市民、市医師会、被爆者らの猛反発を受けながら、それでも計画の再考を求める背景には地方の医師不足の深刻化がある。これまで主に長崎大が地域の基幹病院に勤務医を派遣してきたが、臨床研修制度の変更で医師の確保が困難になり、「これ以上、派遣要請に応えるのは無理」と悲鳴を上げる事態に陥っているからだ。 


◇困難に直面 

 「入局者は残念ながら二年間ゼロ。市民病院は大学からいつでも医師が来てくれると思っているが、とんでもない。医局はつぶれているから、医者は供給できない」 

 年明け間もない一月九日、新市立病院の建設をめぐり県医師会館(長崎市茂里町)で開かれた「長崎地域医療圏に関するディスカッション」。長崎大泌尿器科の金武洋教授は激しい口調で大学の窮状を訴えた。 

 金武教授によると、泌尿器科の医局には二〇〇二年当時、七十三人(うち長崎大病院勤務十六人)の医師がいたが、現在は五十六人(同十五人)。〇六年以降十六人が医局を去り、その一方入局したのは〇六、〇七年の計三人にとどまった。このため医師派遣が難しくなり、広島、山口、福岡、佐賀各県をはじめ、県内の病院からも完全に撤退したり、派遣数を減らしたりしてきた。 

 「離島からも引き揚げたいが、腎不全の透析業務があり残さざるを得ない。今後も派遣先の集約化は避けられず、市民病院も例外ではない。それは泌尿器科だけの話ではない」。金武教授は言う。 

 長崎大によると、〇六年度から〇八年度の三カ年で派遣先から百十八人を引き揚げ、基幹病院に集約するなど再配置を進めた。 


◇新研修制度 

 かつて、医師免許を取得した人の多くは出身大学の付属病院で専門の診療科(医局)に数年間勤めて研修を積むのが通例だった。大学には人材が豊富で、外部の病院に勤務医として派遣することができた。 

 しかし、〇四年度に新臨床研修制度が導入され、状況は一変。二年間の初期研修が必修化され、研修先は研修医と病院双方の希望の組み合わせによる「マッチング」方式で決まることになった。その結果、都市部の病院や一部の有名病院に研修医が集中、地方の医師不足を加速させるきっかけとなった。 

 本県で新制度導入の前年に採用された研修医は百五人だったが、〇八年度のマッチングの結果(マッチ数)は七十三人にとどまった。長崎大は定員九十人に対し、〇六年度まで七割以上のマッチ率を確保していたが、〇七年度にはついに五割を切った。実態との乖離(かいり)が大きいため、国の指導を受け、〇八年度からは定員を十人削減せざるを得なかった。 

 長崎大の医局人事下にある医師は、県内外を含め千四百-千五百人前後。県内勤務医の六割前後を占めるとみられ、影響力は大きい。それだけに新市立病院の建設問題では「医師不足は長崎大に魅力がないから」との批判も強いが、新臨床研修制度そのものにも大きな原因はある。 

 新制度ではプライマリー・ケア(基本的な診療能力)を重視。大学病院は専門性の高い医療を中心に担うため、一般的な症例が多い公立病院や民間病院に人気が移るのは当然だった。 


◇試行錯誤 

 こうした状況下で、長崎大は何とか医師を確保しようと試行錯誤を繰り返し、大学病院改革に取り組んできた。 

 研修医の確保対策では、大学病院だけで二年間研修するプログラムに加え、市立市民病院や長崎原爆病院、佐世保市立総合病院など学外の病院と大学病院で一年ずつ研修する「たすき掛け」のプログラムも設定。初期研修終了後の後期研修を充実させるため、佐賀大など全国の大学病院と連携した医師育成事業を始めた。 

 細かいところでは、県内出身で、県外大学で学ぶ医学部生は毎年三十人程度いるとみられることから、県内高校長を通じて手紙を渡してもらうよう依頼したり、医師会名簿を当たって子息あての手紙を出したりといった対策も取っている。 

 県内出身者は地元に残る割合が高いことに着目し、〇八年度から医学部の入学定員(現在百五人)の中に、県内の小、中、高校出身者に限定した「地域医療枠」(定員五人)を設定。一〇年度入試から定員を二十人に拡大する方向で検討している。 

 病院改革は研修医対策だけでなく、一線の医療職の職場環境の整備にも及ぶ。 

 医師が大学病院を敬遠する理由の一つに挙げられるのが「雑務」の多さ。職種間の業務が整理されていないため、医師が点滴などの静脈注射をしたり、患者の検査室への付き添い、書類処理などに追われ、診療業務の負担になっていた。 

 そこで昨年十一月からは、病棟に入院カルテ作成などを行う「クラーク」やヘルパーを増員、カルテやエックス線フィルムなどを運ぶ「メッセンジャー」を新たに雇用して医師と看護師の業務分担を見直し、静脈注射を看護師に移行した。医師、看護師とも「本来業務に専念できる」と好評という。 

 さらに新年度からは、大学病院を医学部・歯学部の所管から大学本部直轄の「長崎大学病院」に機構改革する方針。人事、予算面で独立させ、診療に重点を置いて機動的な運営を図る。医局単位で調整してきた医師派遣の在り方が変わる可能性もあり得るという。 

◇統合の理由 

 しかし、長崎大の河野茂医学部長は「大学の努力だけで地方の医師不足の流れを変えるのは簡単ではない」と言う。その延長線上に今回の新市立病院に対する提案がある。 

 「まずは限られた医師を効率的に配置すること。そして長崎大と緊密な連携ができる高次機能病院をつくること。それが研修医の確保策にもつながるはず」。市民病院、成人病センター、原爆病院の統合の理由をこう訴える。