山形県酒田市・ 旧県立日本海病院と旧市立酒田病院が困難を乗り越え、2008年4月、独立行政法人として経営統合し、再出発を果たした。



 
山形県酒田市・ 旧県立日本海病院と旧市立酒田病院が困難を乗り越え、2008年4月、独立行政法人として経営統合し、再出発を果たした。 
両病院を束ねる山形県・酒田市病院機構の栗谷義樹理事長は「医師不足や少子高齢化で、いずれ共倒れするという強い危機感が、両病院関係者の背中を押した。自治体病院の集約・再編のモデルケースになるのではないか」と話す』 


[医療改革・提言](2)「流れ作業」脱しゆとり(連載)=宮城 
2009.02.07読売新聞  
 ◇宮城の現場から 

 「もうすぐお姉ちゃんになるんだよ。よかったなあ」。東北公済病院(仙台市青葉区)の上原茂樹・産婦人科部長は、傍らにいた小さな女の子に優しく語りかけた。大きなおなかの母親が、超音波検査を受ける様子を見つめていた女の子は、にっこりとほほ笑み、上原部長も笑顔で応えた。 

 こんな和やかな診察風景が当たり前になったのは、実はここ3、4年だ。以前は待合室がいつも妊婦であふれ、「待たせてはいけない」という焦りから、診察は一人せいぜい5分弱。不本意な形で流れ作業のような医療を強いられ、不安げな妊婦に声をかけたり、素朴な質問に丁寧に対応する余裕はなかった。 

 2005年、市内の産科開業医と病院が役割を分担する「セミオープンシステム」を導入しことが、転機となった。33週までの妊婦健診は、計31か所の診療所が引き受け、分娩(ぶんべん)とその準備は、6か所の大規模病院に集約するようになった。 

 現在、市内の年間分娩数は1万件程度だが、6病院では平均4割近くがシステムの利用者だ。上原部長は「今は、一人の診察に10分以上かけられる。何よりも、心にゆとりができたことで、患者本位のあるべき医療に立ち返れた」と話す。 

 同市周辺部でも、産科は訴訟の多さや昼夜の別がない忙しさが敬遠され、分娩を扱う医療機関は1999年の41施設から3割も減少した。この影響で施設の整った大規模病院に妊婦が集中し、勤務医の負担が急激に重くなった。打開策として同市産婦人科医会が提案したのが、このシステムだった。分娩を扱う病院が集約されたことで、勤務医の労働環境も改善された。 

 ただ、6病院すべてがシステムの利点を十分に活用できている訳ではない。県内唯一の総合周産期母子医療センターである仙台赤十字病院(太白区)は、市中心部から離れているため、連携できる診療所が近くにない。妊婦は妊娠早期から通院を続け、システム利用率は1割弱と低い。 

 同病院は、切迫早産や多胎妊娠など高リスクの妊婦を、24時間体制で受け入れる「最後の砦」だ。だが、救急搬送の急患が来るたびに、外来診療を中断して乗り切っているのが現状だ。 

 谷川原真吾・産婦人科部長は「本来、高リスクと低リスクの出産を同時に取り扱うことに無理がある。さまざまな妊婦が混在する今の環境では、医師の気力と体力に頼るしかないが、それにも限界がある」と窮状を訴えている。 


 ◆共倒れより集約・再編 住民納得の将来像必要 

 医師不足に対する処方せんの一つが、病院の機能集約や再編だが、運営母体の違いや住民意識などが障害となり、容易には進まない。だが、山形県酒田市では、旧県立日本海病院と旧市立酒田病院が困難を乗り越え、2008年4月、独立行政法人として経営統合し、再出発を果たした。 

 赤字続きだった旧県立病院は528床から648床に増床し、迅速な医療処置が必要な急性期診療や出産を一手に引き受ける計画だ。一方、老朽化した旧市立病院は、400床から110床に縮小し、病状安定後の回復期リハビリや在宅療養支援に特化する。 

 両病院の機能再編は緒に就いたばかりだが、人材配置の効率化で医師の労働環境は改善し、看護体制も充実したという。08年度上半期の医業収支は約3000万円の黒字。前年度同期の5億円余りの赤字から、船出早々に転換し、予想以上に順調な滑り出しだ。 

 両病院を束ねる山形県・酒田市病院機構の栗谷義樹理事長は「医師不足や少子高齢化で、いずれ共倒れするという強い危機感が、両病院関係者の背中を押した。自治体病院の集約・再編のモデルケースになるのではないか」と話す。 

          ◇ 

 県内では、白石市の公立刈田総合病院(管理者・風間康静市長)と大河原町のみやぎ県南中核病院(管理者・斎清志町長)で、集約・再編議論に弾みがつき始めた。両病院と県は昨年9月から、連携・協力関係のあり方について、定期的に意見交換を重ねている。 

 車で20分程度の距離しか離れていない両病院は、いずれも2002年に完成したばかりで、病床数も300床と同規模。関係者の議論はこれまで、建て替えの検討が必要となる20年後をめどに集約・再編するという段階で止まっていた。 

 だが、両病院とも赤字基調で、経営改善の見通しが立たない上、刈田病院で医師不足が深刻化。出入り業者の選定などを巡って、前院長と対立した医師の退職が引き金となり、医療崩壊が起きた。約40人いた常勤医は昨年末には半減した。 

 東北大から招かれた高林俊文・現院長は「医師確保の限界は明らかだ。集約・再編を20年先とは言っていられない」と話す。内藤広郎・中核病院長も「数年以内に連携を具体化させることが必要だ」と指摘する。風間白石市長と斎大河原町長も昨秋の再選後、同様の問題意識を強めている。 

 今後、住民が納得する地域医療の将来像を示せるかどうかが、集約・再編議論の行方を左右しそうだ。 


 ◇提言要旨 

 ◆緊急対策 たらい回し防止、開業医も病院救急に積極参加 

 ◆構造改革 医療機関の役割分担と連携強化 

 医療の高度化や少子高齢化など社会情勢の変化に合わせ、地域医療の提供体制を再構築する必要がある。 

 まず、地域にある複数の病院の集約化がカギになる。どんな病院でも、すべての診療科や医師、高度な医療機器をそろえようとすると無理が出てくる。類似した診療分野や規模を持つ病院を集約し、拠点病院を決めて医師の集約と再配分を行う。規模が縮小する病院には、拠点病院がバックアップ体制を取る。 

 開業医側の協力も欠かせない。地区医師会で、時間外診療所を設けたり、輪番で夜間・休日診療にあたったりしているところもある。だが、患者の病院志向は根強い。基幹病院と医師会が協力し、開業医が夜間や休日の病院勤務に参加する体制を作る。 

 また、夜間や休日でも、医師や看護師らが相談に応じる電話窓口を設けるなど、不要不急の救急搬送や受診を減らす工夫も必要だ。