医療法人の本質」について 厚労省官僚の論理や事実認識の矛盾点を鋭く指摘した「官の詭弁学」日本経済新聞出版社刊から抜粋 第2回(二〇〇三年二月六日総合規制改革会議第五回構想改革特区に関する意見交換会議事概要より)

「医療法人の本質」について 厚労省官僚の論理や事実認識の矛盾点を鋭く指摘した「官の詭弁学」日本経済新聞出版社刊から抜粋 
第2回(二〇〇三年二月六日総合規制改革会議第五回構想改革特区に関する意見交換会議事概要より) 

福井専門委員 
前のヒアリングの議論で、現在ある六十二の株式会社で営利法人であることで何の問題も発生していないという御答弁があったと思うが、今も変わりないか。 

榮畑課長 
何の問題も発生していないといったつもりはないが、株式会社立病院で何か医療安全上の問題があったとは聞いていないと言ったと思う。 

福井専門委員 
それでは、本日の資料に書いてある過剰診療や収益性の高い医療分野への集中といった現象は起こっているのか。 

榮畑課長 
成り立ちの違うものを同じ土俵で議論するのはおかしいのではないか。 

福井専門委員 
再度質問する。 

榮畑課長 
現在それを判断する材料を持ち合わせていない。 

福井専門委員 
調べてもいないのか。 

榮畑課長 
新たに株式会社立病院を認めていこうというのは、病院で収益を得ようとするものを認めることであり、現在ある従業員の福利厚生を目的とし収益を目的としていない今ある株式会社立病院と比べても意味がない。 

福井専門委員 
調べる意思があるのか。現在ある六十二の株式会社病院で……過剰診療や収益性の高い医療分野への集中といった現象は起こっているのか。 
榮畑課長 

調べる意思はない。 

福井専門委員 
これらの病院は一般開放していないのか。 

榮畑課長 
一般開放している。しかし、そういう目的でやっているので、親会社から出資、経費の補填等を受けて運営しているものであり、そもそも違う。 

福井専門委員 
一般開放はどのぐらいの比率でやっているのか。 

榮畑課長 
まちまちであるが、高い割合で行っているところもある。 

福井専門委員 
高くやっているところは、企業の福祉病院的な意味合いとは違う機能を果たしているのではないか。 
榮畑課長 
そういうところでも、親会社からの出資など、有形、無形の支援を受けている。 
福井専門委員 
有形、無形の支援を受けていたらなぜ比べてはいけないのか。 
(二〇〇三年二月六日総合規制改革会議第五回構造改革特区に関する意見交換会の議事概要より) 

結局、厚労省からは数年前のデータはおろか、現在の株式会社病院に関する実態も提出がなく、今後も調べる意思がないとの言明にまで至ったのである。 
正真「またか」とうんざりしてしまった 
。どこまでいっても前提となるのは「株式会社性悪説」。 
結局、厚労省は現在のデータはおろか数年前の株式会社病院に関する実態も提出せず、「調べる意思もない」と開き直ってしまった。 
規制改革の「本丸」ともされるだけに、医療事業への株式会社参入に対する関係者の抵抗は非常に強い。 
しかし、特区二次提案の際の判断により、二〇〇三年三月、株式会社による病院経営は構造改革特区内の自由診療に限定された形ではあるものの、認められることになった。 
内閣が従来の厚労省の主張を否定し、株式会社性悪説から脱皮したことは画期的な出来事である。とはいえ、今後の医療政策をより適切なものとしていく上で、問題点を整理しておくことには大きな意味があるだろう。 

具体的な問題点の指摘は一切なし 
そもそも株式会社病院の現状はどうなっているのだろうか.かつて認められていた株式会社病院を新規に限って禁止した後、今も存続している病院は、いわば社会的実験のまたとないサンプルとなっている。 
厚労省は、株式会社による医療サービス提供は安全性に欠け、患者無視の治療が発生したり、過剰診療が行なわれたり、収益性の高い医療分野にのみ集中するといった弊害があるため絶対に認められない、と言い続けてきたが、六十二の株式会社病院の実態を問われることは想定していなかったらしい。 

周知のことであるが、六十二の病院の多くは、トヨタ、麻生セメントなどの企業が従業員の福利厚生施設として直営で開設したものが多かった。 
しかし、長期間を経て企業と関係のない一般市民の診療が中心となったところが多く、現在では通院、入院患者のほとんどを従業員以外が占める病院が多い。 
当たり前だが、現に存在する個人開業、医療法人、株式会社病院の三形態のそれぞれにおいて、患者無視の弊害がどの程度発生しているかは調べればすぐわかることである。 
だからこそ私達は総合規制改革会議の場で一貫して、厚労省に対して主張が正しいのであれば、存在している六十二の株式会社立病院の弊害を具体的に教示するように求めてきた。 
うかつに調査を前提とした答弁をしたところまではよかったが、仔細に調べようとしたら弊害等を発見できそうにもないことが判明し、答弁の方針を「調べる意思がない」に転換したと推測するのが最もつじつまが合うと思われる。当然であろう。 
トヨタ病院や麻生セメント病院は医療技術、地域からの信頼、採算性等の上でも優等生であり、株式会社が経営しているがゆえの弊害もなければそれを懸念する声も存在しない。 
経営形態が株式会社であるという一時のみを持って、何か支障があるという主張に根拠がないことの生きた反証が既に存在しているのである。 
厚労省は、苦しまぎれに、もともとの成り立ちが福利厚生目的であったから、一般開放中心になったとしても弊害は発生しない、といえば、まともに調査をして、不利な事実があらわになることを防げると考えたらしい。 
仮にこの奇妙な理屈が正しいのであれば、今後の株式会社による病院経営は、まず設立時は従業員の福利厚生目的でスタートすることを義務付けさえすれば、その後いかに一般診療中心に転換したとしても、「成り立ちが福利厚生目的」であるから、弊害や実害を調べるまでもなく、立派な診療をし続けることになるはずだ。 

もっともこのような奇妙な条件を付ける必要があるのは、厚労省がいうところの「成り立ちが福利厚生目的であったなら、長年月を経てもその組織は利潤追求やそれに伴う弊害口を一切発生させない」という命題を本気で信用することができるのであれば、という留保付きになる。 
ある組織形態が適切な運営を行っているかどうかは、現在のその組織の活動を審査することによって判断すべきであろう。 
そうでなければ成り立ちの「健全」な組織には税務調査も会計検査も、官民問わず、およそいらないということになってしまう。 

開業医は利益を追求しない? 

もし厚労省の主張が正しいのであれば「利潤を追求しない」はずの個人医院や、医療法人が巨額の脱税をしたり、乱脈経理で社会問題となる事実はどのように説明できるのだろうか。 
患者無視の過剰な薬の投与や初歩的な医療ミスがなぜ頻発するのであろうか。 
それらの頻度が株式会社病院よりも小さいのであれば、簡単に調べることが可能なその事実をもって、堂々と株式会社病院を批判すればよい。 
厚労省の言い分のおかしさはそこにある。 
日本医師会では三月三十日、「医療特区構想に関する緊急決議」なるものを採択し、医療特区構想に断固反対する姿勢を公言している。 
しかし、この決議自体は十分な理由を付さない短いものだ。そこで、ためしに日医のホームページ上で「株式会社」といれてサーチをかけてみると、機関紙「日医ニュース」の論文が多数表示された。 

二〇〇二年九月二十日付「日医ニュース」九百八十五号には、日医総研の石原研究部長名の「株式会社の本質と医療機関経営は相反する」と題する論文が掲載されている。 

ここでは、株式会社の設立目的は利益の最大化である、日本の医療は奇跡に近い効率的な有効活用をしているとし、「株式会社経営で医療サービス改善の保証はないどころか、不安な先行事例が多い」とも述べるが、その具体例は示されない。 
同様の視点は、厚労省から三月に総合規制改革会議に提出された「株式会社立病院について」という資料にも見られる(二〇〇三年二月六日の特区WGに対する「厚生労働省追加資料」)。 
これは、「株式会社は、事業活動により生じた利益を株主に還元することが本質であり、……①医療費の高騰を招く、②事業の継続性が担保されない、③剰余金の配当禁止等に懸念心がある」と述べる。 

株式会社は利益追求するから医療になじまず、個人開業医や医療法人があたかも収益を追及することはあり得ないとするがごときの主張だが、二〇〇二年十月二日の特区WGの議事録では、前出のとおり、いみじくも「個人開業医は利潤最大化しないのか」という質問に対して、厚労省医政局総務課長が「過剰診療など不当な利潤を追求した場合は処分を受ける」と答えており、正当な利潤追求を行なうことは当然の前提として認めている。 

むろん株式会社も収益を追求するであろう。しかし、あたかも個人開業医や医療法人だけが、収益を追求せず悪をなし得ない聖人君子のごとき存在であるとする命題は成り立つのだろうか。 
この点で、厚労省「これからの医業経営の在り方に関する検討会」第十回議事録に非常に興味深い発言が載っている(http://www.mhlw.go.jp/shingi/2002/12/txt/s1211-2.txt)。検討会委員で、自ら医療コンサルティング会社を経営する大石佳能子氏はこう述べている。 
「個人開業医というのは、売上げから費用、自分の給料ではなく、看護婦の給料や医療機材等、色々なものを引いて、その残りの税引き後の部分が、全部医院長先生の取り分になるわけです。 
これは実態として、一〇〇%配当と非常に近い形だと思います。 
その一〇〇%配当の部分を診療所に戻すか、それとも自分の生活費として使うか、場合によっては遊興費として使うかというのは、完全にその先生の判断に任されています。 
それと株式会社的な配当とどう違うのかが、私にはよく分からない」。 
株式会社利益追求論を主張することは、天に唾する行為であろう。 


目覚めよ厚労省―国民の利益はどこへ 
ひょっとすると厚労省や医師会は、「会社」の存在理由について、何か重大な誤解をしているのかもしれない。 

会社、特に株式会社という組織形態は、事業規模を拡大・多角化するとともに、事業の安定性を増大させるため、広く資金を資本市場から調達できることに大きな存在理由がある。むろん株式会社が常に倫理にかなう行動をしてきたわけではない。 
しかしそれは、昨今の日本でも政府や自治体はおろか、個人開業医や医療法人にも様々な不祥事が発生するのと同じことであって、特定のレッテルを組織に張りさえずれば問題がなくなるわけではない。非倫理的な行為に対してはいずれにせよ厳格な規律によって対処すれば済む話だ。 
しかも現在の個人開業医・医療法人の圧倒的多数は個人企業形態であり、出資者の財産権が全面的に保証される。「一〇〇%配当」が医院のオーナーになされ、出資者が常にその分の返済を求めることができるという今の医療経営形態のどこが、株式会社よりも「非営利的」で「事業の継続性」が担保されると言い得るのであろうか。 
株式会社では通常余剰の恣意的な配分は認められない。有価証券報告書等による情報開示と第三者監査も厳格である。 
事業の私物化を許さない近代的会計原則も徹底されている。結局のところ情報の開示の点でも、透明性の点でも株式会社形態には利点こそあれ、欠点は少ない。 

また厚労省は、医療法人等は剰余金の配当禁止があり、株式会社にはそれがないから剰余金が医療外に流失するのが問題であるとも言うが、そもそも株式の配当とは資金調達の対価であり、個人開業医や、医療法人が金融機関からした借金の利子支払いと同等である。 
剰余金が流失するのが問題だというのであれば、個人開業医・医療法人の金融機関に対する利子支払いも即刻禁止すべきだ。この点に関するやり取りを見てみよう。 

榮畑課長 
株式会社における医療機関経営を認めれば、過剰診療や収益性の高い医療分野への集中により医療費負担の増大や医療の質の低下を招くおそれがある。 

八代尚宏主査((社)日本経済研究センター理事長) 
今の医療法人は過剰診療や収益性の高い分野に集中していないのか。例えば、小児医療を切り捨てるなどしていないのか。 

榮畑課長 
株式会社の本質は、利潤を追求することにある。 

八代主査 
医療法人は利潤を追求していないのか。 
榮畑課長 
利益の追求は、医療法人の本質ではない。 

八代主査 
医療法人は個人の財産で病院を作っているものであり、内部留保して医療機械を購入したり新しい病院を作ったりしているのではないか。 

榮畑課長 
医療機関に充当されているということであればいい。 

八代主査 
であれば、株式会社も利益を医療機関の経営にあてればいいということになるのか。 

榮畑課長 
そうはならない。医療法人はすべて再投資に回るが、株式会社は利益の一部を配当に回す。 

八代主査 
配当は資金調達のコストである。医療法人も銀行借り入れをすれば利子を払ってその分再投資できない。株式でも銀行借り入れでも、同じ医療外流出するのではないか。 

榮畑課長 
株式会社は本質的に配当するものであり、その点銀行借り入れと株式は違う。 

福井専門委員 
話を戻すが、医療外にお金が流出するのがよくないというテーゼをお持ちだが、配当も利子も会計原則が何であろうが、とにかく流出している。 
その機能は、お金を調達したことの対価である点について何も変わらない。その点について、何の違いがあるのかが分からない。 
(二〇〇三年二月六日総合規制改革会議第五回構想改革特区に関する意見交換会議事概要より)