事業仕分けで廃止になった「若者支援」



事業仕分けで廃止になった「若者支援」 
事業の恩恵を受けていたのは誰だったのか? 
日経ビジネスオンライン[ニュースを斬る]12月7日 
小林美希 

http://business.nikkeibp.co.jp/ 

内閣府の行政刷新会議が行った「事業仕分け」には賛否両論あるが、仕分けの現場に足を運べば、今まで隠れていた問題が議論された1時間があった。予算編成にけ仕分けの結論を巡って官僚や関連団体の攻防戦が始まっている。“劇場型”とも揶揄された事業仕分けだったが、それは報道の“見せ方”が劇場型だっただけではないのか。 

 例えば、若者の雇用対策として合宿型のニート就労支援「若者自立塾」(若者職業的自立支援推進事業)がいったん廃止と判定されると、「若者を見捨てるのか」というような廃止に対する反発の声も上がったが、それは議論の中身が冷静に伝わっていないからだ。 

 「鯛焼きで例えるなら、頭と尾っぽだけをとらえて、肝心のあんこの部分を伝えていない」と振り返るのは、第2ワーキング・グループ(WG)の仕分け人、海東和・滋賀県高島市前市長だ。第2WGでは仕分けの前半戦、厚生労働省の事業をメーンに、就労支援関係や医療関係の事業について議論された。その中で、若者自立塾はなぜ廃止となったのか。 


入塾者は定員の半分以下 

 若者自立塾とは、教育訓練も受けず、就労することもできないニートなどの就労や進学などを支援する事業で、2005年度からスタートした。ニートは全国で60万人強と言われる。 
自立塾は合宿形式で集団生活を行い、生活訓練、就労体験などを通して社会人としての基本的能力を身につけ就労に結びつける。期間は原則、3カ月。 

 厚生労働省から委託を受けた日本生産性本部(旧・社会経済生産性本部)が「若者自立支援中央センター」として、民間に事業を委託。2次委託先となるNPO法人(特定非営利活動法人)などの監査、業務指導、研修などを行っている。2次委託先は入塾実績に応じて「訓練等奨励金」を受け取る。 

 2006年度、若者自立塾の実施団体は25カ所、入塾者は704人だったが、2008年度は実施団体は30カ所に増加したものの、入塾見込み(定員)1200人に対して、実際の入塾者は半分にも満たないわずか490人。 
入塾者1人当たりにかかった費用は2006年度の34万4000円から2008 年度は44万6000円に増えた。それにもかかわらず、「卒塾後6カ月後の就労率」は2006年度65.4%から2008年度は55.1%に低下した。 

 財務省では、約64万人のニートの中で若者自立塾に参加した率が0.1%を対象とした事業となっていることや、ほかに通所型のニート支援事業となる「地域若 
者サポートステーション」(延べ来所者数20万2000人)もあるため、若者自立塾を別途行う必要性を疑問視した。 

 仕分け人らがとりわけ疑問視したのは、国費を投入するだけの効果があったかということと、委託先やコストの合理性についてだった。 

 菊田真紀子・衆議院議員の「若者の支援であるのに、なぜそのノウハウがない生産性本部が委託を受けているのか」との疑問に対し、厚労省は「入札で毎年募集している。 
日本生産性本部はキャリアコンサルタントの資格試験を実施しているのでノウハウがある」と答えた。それに対し、仕分け人は「ニートの環境とキャリアコンサルティングの関係に合理性がない。 
何も日本生産性本部を通さなくても、直接にNPO法人などに補助すればいいのではないか」と言及し、「利用者が少なすぎて、生産性本部にマネジメント能力があるとはいえない」と畳み掛けた。

 尾立源幸・参議院議員は「研修生1人当たり50万円ものコストをかけて就労率が55%では効果が薄いのではないか。1次委託の3億7500万円のうち業務管理費はいくらか」と、日本生産性本部が得ている間接費用について問いただすと、「3300万円が間接コスト」(厚労省)と答えた。 
さらに、公立病院改革懇談会座長だった東日本税理士法人の長隆氏は「管理費の中身はどうなっているのか。生産性本部の職員は何人分を日当いくらで計上しているのか、年に何日どんな仕事をしているのか」と経費計上の詳細について激しく追及した。 

 この間接コストについて、筆者が情報公開請求で調べたところ、例えば2007年度の最終的な支出について「委託事業精算報告書」を見ると、委託費そのものは予算ベースで10億6212万円だったが実際に支出されたのは3億6667万円。間接コス 
トは、3949万円。 

 内訳は、団体事務経費に研究員4人の人件費として合計2256万円。ニート関連の研究者など有識者への諸謝金が107万6193円、職員や有識者の旅費が402万7078円、庁費が850万8391円だった。事業仕分けの場で「研究員」の人件費計上の意味、どんな監督・指導がされていたかについて厚労省が言及することはなかった。 

 また、露木幹也・小田原市職員が、事業の評価について「入塾者490人のうち率が55%であれば、昨年度は250人の自立のために3億 7500万円を使っていることになる。 
この成果に対して厚労省はどう評価するのか」と尋ねると「塾を卒業してから12カ月後の就業継続は62%。合宿型のきめ細かい支援が必要」と、答えはうやむやだった。前述の海東氏も「生産性本部から先の委託先の支出の把握はしているのか。全額使わず資金をプールしていないか、人件費を要求した分満額スタッフに支払っているか、私物を購入していないか、そうしたこを細かく調べているか」と詰め寄ると、厚労省「把握していません」と言葉少なく答えた。 


キャリアコンサルティングが必要なのか 

 コストの問題以外にも、なぜ、日本生産性本部なのかという問題が仕分け人の間で拭えなかった。なぜなら、深刻なニート状態の若者は、昼夜が逆転して就労 
意欲がないことが多く、規則正しい生活習慣を身につけることから始まる。若者自立塾のように、朝起て、きちんと食事し昼は作業をして夜に眠るという規則 
正しい生活から始める合宿型の支援を必要とする若者には、キャリアコンサルティングのノウハウは2の次ではないか。 

 ところが、この事業でキャリアコンサルティングが重要視されるのは、厚労省の職業能力開発局の中にあるキャリア形成支援室が若者自立塾を担当していたか 
らだ。同支援室はキャリアコンサルタントの養成を推奨していおり、キャリアコンサルティング業界では現在、日本生産性本部など10社が実施する資格試験が厚 
労省によって「キャリア形成促進助成金(職業能力評価推進給付金)」の対象に指定されている内情があり、身内可愛さともいえる状況だ。 

 卒塾後の進路にしても、合宿型であれば追跡調査できるはずなのに、それが2年後の実績について問われると、追跡していないため明確な回答は出ない。「就労 
率」という実績についても、担当課からあえて正社員や非正社員の内訳を示さない。委託費の最終的な使途も「監査している」というものの実際は不明瞭。さら 
に、ニート支援事業の「地域若者サポートセンター」の話題が上ると、厚労省は「サポートセンターから若者自立塾に誘導している例もある」と強調しながら、 
その実数について把握していなかった。これでは「分からない」のではなく「表に出せない」と疑われても当然だ。 

 厚生労働省によれば、若者自立塾がスタートした2005年度から2009年3月末までの間に合宿を修了した1796人のうち、終了後6カ月後の時点で就労している者は1050人。うち、正社員が375人、アルバイトなどの非正社員が627人、その他(農業研修など)が478人だった。 

 確かにニート状態から脱出できずに生活保護を受けるような事態は避けられたかもしれない。事業の趣旨は社会的に必要だったが、一部の関係者のための事業 
になってしまったと判断されても仕方のない状況だ。ニート支援は成果の出にくい事業という理由があったとしても、国費を投入する以上、それ相応の委託費管 
理や支援過程と結果に対する説明責任はあるはずだ。 

 しかも、担当官は、あの体育館の現場で突然に質問攻めに合ったわけではなかった。事業仕分けのメンバーが召集されたのは10月30日。そこから2週間かけて、 
仕分け人は関係各所に視察にいき、内閣府で各省庁の官僚と、体育館での質疑と全く同じことを事前に行っていたという。 

 「事前にあまり突っ込んで聞いては、敵に塩を送ることになる」(仕分け人)と囁かれるほどだったが、そこから本番までの間に官僚には調べる時間があったはずなのに、答えに詰まる場面は多かった。 

 仕分け人の中からは「国に見えない形の事業にするのではなく、ニートを利権のタネにするものを見逃してはならない」との指摘があり、「名簿をサポートステーションから借りているという実態を聞いている」との指摘があった。不正受給すら疑われることを厚労省は把握していない。徹底的な実態調査が求められる 

「志」よりも委託ありき 

 日本経済の足腰となる若者の就労支援をすることは大事だ。しかし、そのもっともらしく聞こえのいいフレーズを隠れ蓑にして、「志」ではなく委託費ありきでNPO法人を設立したり、予算の不正計上を行ってでも委託を獲得する団体があったりすることを前提に委託の仕組みを構築し直さなければいけない。特に就労支援事業となれば、役人のマンパワーが限られ民間委託することは避けられず、新たな公共事業として利権が生ずるだけだ。 

 そもそも2003年6月、文部科学省、厚労省、経済産業省、内閣府が連携して、若者の自立支援や就労を高めるための「若者自立・挑戦プラン」を策定したことから、若年者向けの就労支援事業が広がった。政府は国民生活白書で報告された、2001年の15~34歳に“フリーター”が417万人いるという報告を受けて、目玉政策として若年者就労支援事業として通称「ジョブカフェ」事業を全国の都道府県で行い、その中でもモデル地域として全国で20地域(道府県)について、2004~2006年度の3年間だけ厚労省の予算に経産省も時限的に予算を計上した。 

 両省の予算は3年間で合計265億円。その予算は、3年間で全国20地域、最終委託先は330社を超えた。 

 1次委託先、2次委託先の取材を重ね、その驚くべき実態が分かった。就労支援事業全般について、個々に情報公開によって山のように資料を集めたが、肝心の2次委託先以降の詳細な資金の使途については「民間同士の契約となるから」と文書は「不存在」とされた。また、合理的な理由なく委託事業の中から謝金などを受けることで利益を得たであろう有識者や実施団体の職員の実態をつかもうとすると「個人情報に抵触するから」とマスキングされ、内閣府に対し意義申し立てを行っても、さらなる公開は実現しなかった。しかし、その内部文書を入手すると、 
驚くべき実態が浮かび上がったのだ。 

 その詳細については筆者は2年前に週刊誌で報じ、この問題について2007年12月25日の参議院厚生労働委員会でも取り上げられた。ジョブカフェでは、2次委託先となるリクルートが自社のプロジェクトマネージャーに対し「日給」当たり12万円、キャリアコンサルタントで同7万5000円、事務スタッフで同5万円を計上していたことが判明した。 

 さらに、2次委託先が事業実施のために人件費などを計上しながら、実際には事業を三次委託する「中抜き」があったなど、民間委託の多重構造問題も追及した。 
ジョブカフェの当時の経産省予算は2004~2006年度で合計186億円。その中で、再委託先が「外注」する形で「再々委託」をして、その委託の事業費に占める割 
合が50%を超え「丸投げ」したケースが全国で92件。丸投げしたにもかかわらず、2次委託先が計上した人件費は合計1億6443万円に上っていた。 

 それらが記事になった直後、会計検査院がこれらの2次委託先について調査に入った、「おとがめなし」だった。経産省も「日給12万円は高額ではない。1次委託 
先と2次委託先との契約は民間同士のもの。民民ベースの契約を国はチェックしない」とした。これがもし、事業仕分けで公の場で議論されたら、同じことが言えただろうか。 

 さらに、2次委託先の選定についても疑問が残った。ジョブカフェなどの場合、 
1次委託先となる各道府県が決めたNPO法人や企業などに政府が直接、事業を委託。 
委託を受けた民間団体がさらに、カウンセリングや広報活動など細かい若年者就労支援を再委託する仕組みではあったが、その再委託がムダの温床となり、過去 
に話題になった“やらせタウンミーティング”のように、過大とも言える多額な予算が特定の企業やNPO法人に流れ込んでいたのだ。 

 ジョブカフェの再委託先には、リクルートやLEC、日本マンパワー、富士通など名企業が名を連ねる。ま有た、地域によっては、政治家が社長を勤める企業や建 
築関係会社、再委託先同士の役員が同じ、設立間もないNPO法人、有限会社、予算の受け皿を作るために慌てて“1円起業”された会社まで存在し、再委託先は“お友達委託”の傾向が見受けられた。

 経産省の予算は、まさに、あぶく銭だった。就労実績は3年間の累計で15万7000人。経産省は成功したと自信を見せたが、就職者の中には日雇い労働者やアルバイトも含まれていた。 

支援対象者に届かない構造問題 

 こうした現象は、独立行政法人などの事業仕分けでも露呈し、国民の知る権利を奪う「多重構造」の問題が、仕分けの現場では追及され、白日のもとにさらされた意味は大きい。 

 前述の海東氏は「若者自立塾に限らず、仕分けをして見えてきたことは、外郭団体に多額な予算を流し、平均すれば約3割が管理費として抜かれ、次々と委託されるたびに“中抜き”されていく。現場で頑張る人間には、ほんのわずかな委託費しか残らない。これでは、中央省庁の外郭団体を存続させるために税金を使っているようなもの。そうした方法が常態化していることは残念なことだ」と語った。 

 若者自立塾については、3億8000万円の予算要求は見送られいったん廃止となり、来年度の合宿型のニート支援事業は職業訓練中の生活費を支給する「緊急人材育成・就職支援基金」を活用して改めてスタートすることになる見通しだ。 

 民間委託を伴う就労支援事業には、就職氷河期という時代に翻弄された若者を救う事業の大義名分に隠れ、委託事業で潤う裏舞台がある。委託費が段階的に中間搾取され、現場で支援する者や支援を受ける者に届かない構造問題が事業仕分で明るみに出た。 

 若者自立塾の廃止から見えたものは、結局、真に事業の恩恵を受けたのは、政府や自治体の周辺にいた“大人”たちで、肝心の就労支援を必要とする若者に 
予算が配分されたとは言えないということだった。 


2007.2.1よりフリー 
…………………………………………………………… 
 小林美希 MIKI Kobayashi 

 労働経済ジャーナリスト 
(日本労働ペンクラブ、農政ジャーナリストの会会員) 
〒160-0013 
新宿区霞ヶ丘町7番1号 日本青年館B1 
シャオリン出版株式会社