守ろう地域医療救急搬送の現状



守ろう地域医療救急搬送の現状 
  
末村幸次・安房消防警防課長2009年11月18日 房日新聞 

 安房消防の昨年の年間救急出動件数は6262件。ここ数年はわずかながら減少しているが、10年前の約1.3倍、15年前の1.6倍という状況で、地域の人口が減る中、救急利用は依然高水準にあるといえる。 

 出動が増えた原因は、住民の意識の変化だ。昔は救急車を呼ぶのは"大事(おおごと)"だったが、いまは積極的に利用するようなった。 
  
  
内房地区の小児患者対応に苦慮 
  
 患者の搬送先は3次救急医療機関が全体の44%。そのほぼすべてが亀田救急救命センターだ。亀田がほとんど受け入れてくれるため、安房地域外へのいわゆる管外搬送は少ない。君津中央病院(木更津市)への搬送もあるが、全体の2%にも満たない。 

 搬送にあたって苦慮しているのは夜間の精神科救急と、内房地区(館山市を除く)の重篤、重症な小児科患者の受け入れ先がないことだ。 

 夜間の精神科は、患者のかかりつけ医であればその病院で診てくれることもあるが、それ以外は診てくれる医療機関がほとんどない。現場の救急隊員は、片っ端から医療機関に連絡するが、搬送先が決まらず30分以上現場にとどまることも少なくない。2時間以上ということも。結局見つからず、県内の輪番指定病院を見つけ管外搬送することもある。 
  
 鋸南町、南房総市の富山、富浦地区の重い小児患者は、君津中央病院に搬送しているのが現状。他地域でたらい回しが問題となっている産科については、亀田病院に総合周産期センターがあるため、いまのところ問題はなく恵まれていると思う。 
  
  
受け入れ先探し 難しいのは冬場 
  
 昨年のデータをみると、救急隊の医療機関への受け入れ依頼件数は約85%が1回で決まっており、1回で決まらなくても数回のうちにほとんど決まっている。しかし、10回を超えるケースも6件あった。最多で12件という例も2件あった。 
  
 搬送を断られた理由は、専門外で見られない、ベッドが満床、医師がいない、かかりつけ病院へ搬送してほしい--など。断られるたびに電話で医療機関を探さなければならず、現場は切ない思いをしている。 
  
 盆や正月などの流入人口が増える時期は、病院のベッドが満床になることも多く、やはり搬送に苦しむ。かぜや脳卒中などが増える冬場は特にそうだ。最多の12件の時はいずれも季節は冬だった。夷隅、長生地区などに比べれば恵まれているが、時期によっては苦しい状況にあることを理解してほしい。 
  
  
搬送者の47%は軽症 
  
 医療機関の状況によって搬送に苦しむこともあるが、それ以上に問題なのが住民の安易な利用。全国的に見ても傾向は同様のようだが、搬送者の実に47%が結果的に軽症者だった。住民が救急車を呼ぶことにためらいがなくなったのはいいが、軽症者が本来の救急業務を圧迫している。本人、周囲が軽症かどうか見定めるのは難しい場合もあるが、中には明らかにおかしなケースもある。 
  
 「具合が悪くなったが、夫が飲酒してしまって運転ができないため、代わりに病院に搬送してほしい」「当番医が分からなかったため、救急車を呼べば連れて行ってくれると思った」「救急車で行けばすぐに診察してくれると思って」などだ。タクシーー代わりに使う常習者もいるほどだが、通報、要請があれば断れないのが現状だ。 
  
 そういった救急車の利用が、重篤患者に悪影響を与える恐れもある。例えば館山でそのような安易な利用があったとする。直後に生命の危うい患者から要請があっても、すぐに現場に到着できる救急車はいなくなってしまっている。結局、軽症者を病院に運んだ救 
急車が帰るのを待つか、他のエリアから救急車を回すしかない。本来は10分で着くところが、20分、30分とかかってしまう。 
  
 消防では現場に一番近い救急車をすぐに回すようやりくりするほか、近くの消防署所から消防隊を現場に向かわせ、応急措置などをさせる対応をとっているが、そうならないのが一番いい。自分や家族が重病人となった時、救急車が来てくれない事態を考えたら、安易な利用などできないはず。モラルの問題だが、住民のみなさんには救急車の本来の目的を改めて理解してもらい、適正利用を心がけてほしい。 


2009年11月19日 房日新聞 
  
守ろう地域医療 
  
④救急医療の現場から 
 葛西 猛・亀田総合病院救命救急センター長 

  
 いま全国で救急医療機関が衰退の一途をたどっている。全国で218の救命救急センター、約4000の2次救急医療機関があるが、医師が10人以上いるのはわずかに6%。5人以下でやっているところが約70%だ。そういうところは医師の肉体的、精神的疲弊がどんどん高まり、1人欠け、2人欠け、そして必ずつぶれる。夢も希望もない。それが日本の救急医療の現状だ。 
  
 国の財政抑制策がもたらした結果だが、多くの救命救急センターが、いまだ重症患者のみを診る3次救急医療をやっている。しかし、それでは医師はまらない。若い研修医らが魅力を感じているのは、軽症から重症まで疾患に関係なく、救急外来の門を叩いた者はすべて診る「北米型ER方式」だ。亀田の救命救急センターでは、2003年から北米型に切り替えた。 
  
  
夷隅、長生、君津からの患者も半数 
  
 現在の常勤医師は13人。昨年度の救急外来受診患者数は2万8353人、うち救急車で運ばれてきた患者は4274人。安房地域の患者の割合は半分ぐらい。その他は夷隅、長生、君津。君津中央病院にドクターヘリが配備されて以来、ヘリ搬送がとても増えている。 
  
 当院で問題となっているのは看護師不足。救命救急センターも同じ。医師、ベッドがあっても、看護師が足りないため受け入れできないこともある。ベッドの有効活用ができないのは本当に辛い。
  
  
3次救急支える体制を 
  
 しかし、ここは救急の「最後の砦」。他が断った2次救急(入院が必要な重症)患者、一番重症な3次救急患者は絶対に断らない。そのためには、地域の2次救急医療機関にがんぱっていただき、2次救急患者をそこでストップしてもらいたい。 
  
 安房の2次救急を支えるのは安房地域医療センターなどだ。特に同センターには当院から医師も派遣している。かなりの軽症患者や2次救急患者をストップしてくれるため、その分救命救急センターでは重症患者の受け入れスペースを確保できている。来年4月からはさらに亀田から地域医療センターヘの医師の派遣人数を増やし、質の高い医療を夜間でも提供できるようになる。 
  
 また、安房の2次救急のネットワークづくりに向けた取り組みを、保健所が中心となって進めている。各2次医療機関の空床状況、当直医師数、専門分野などその日の当直体制について、一覧として毎日把握できる仕組みもつくった。 
  
  
小児科、産科の当直医がいない 
  
 しかし、安房地域医療センター以外の各医療機関の空きベッドは、ゼロから2床程度で、当直医はどこも1人しかいないのが現状。1人でやれることは限られ、2次の患者を留め置いてくれるかは疑問が残る。 
  
 さらに安房地域で残念なことは、亀田以外に小児、産科医の当直医がいないことだ。日中は、やっている診療所があるからいい。困るのは夜間。人が眠ってる時に子どもが喘息発作を起こしたり、帝王切開が必要な患者が発生した時、受け入れるところがここ(亀田総合病院救命救急センター)しかない。 
  
 このような状態が続くと、亀田ですら小児科と産科がパンクする可能性もある。現在は君津中央病院でも診ているが、万一診られなくなった状態を想定すると、亀田が空きベッドをある程度確保しなければならない。場合によってはさらに2次救急の患者を断らざるを得ない状況が差し迫っている。 
  
  
救命センターは最後の砦 
  
 安房だけでなく夷隅、長生も含め南房総の半径5キロ圏内が、亀田救命救急センターの診療圏で、この地域に住む50万人の住民の最後の砦として有効活用することが何よりも大事。 
  
 住民のみなさんには3次救急ベッドを守る大切さを知っていてほしい。亀田の救急外来には、電話で患者の重症度を判別するトリアージナースや医師がいる。「その程度の熱だったら明日の診察で大丈夫」とアドバイスしたりするので、それらの指示に従ってもらいたい。また、時には2次救急の患者を他の医療機関に紹介することもあるので、そのような事情をぜひ理解してほしい。