長妻昭厚労相 薄っぺらな談話! 高裁判決を受けて長妻昭厚労相が出した談話は「国のこれまでの主張が認められたものと考えている」。「国の主張」とは、自公政権時代からの厚労省保険局の主張を指すのだろう。混合診療の是非は医療制度の根幹にかかわる。官僚がお膳立てした薄っぺらな談話からは、同相の問題意識の低さがうかがえる。



長妻昭厚労相 薄っぺらな談話! 
高裁判決を受けて長妻昭厚労相が出した談話は「国のこれまでの主張が認められたものと考えている」。「国の主張」とは、自公政権時代からの厚労省保険局の主張を指すのだろう。混合診療の是非は医療制度の根幹にかかわる。官僚がお膳立てした薄っぺらな談話からは、同相の問題意識の低さがうかがえる。 民主党の衆院選マニフェスト(政権公約)の書き出しは「ひとつひとつの生命を大切にする」だ。政治主導でそれを実現するための医療制度改革に道筋をつける好機を、同相は逸した。 (日本経済新聞編集委員 大林尚) 


 ニュースの理由(わけ) 混合診療の禁止適法判決 
「患者本位」置き去りに(2009/10/8, 日本経済新聞) 

 がんなど深刻な病を患っている人に衝撃を与える判決を先週、東京高裁が出した。健康保険が利く診療や投薬(保険診療)と、保険が利かない自由診療を組み合わせて受ける「混合診療」を原則として禁じている厚生労働省の裁量行政は、妥当だと認めたものだ。患者の立場を置き去りにするような医療制度の死角を追認する司法判断に、戸惑いが広がっている。 

■  ■ 

 一審の東京地裁は2007年11月、健康保険法に混合診療を禁ずる明文規定はないとの判断を示していた。これを不服として厚労省が控訴、二審で同省が勝訴した。 

 原告は腎臓がんなどの治療を受けている清郷伸人氏。保険が利く「インターフェロン療法」と、保険適用外の「活性化自己リンパ球移入療法」を併用して受けていたところ、混合診療にあたるとしてリンパ球療法の打ち切りを告げられた。このため、厚労省を相手取って行政訴訟を起こしていた。 
  


 現行制度では、患者が一連の治療のなかで保険診療と自由診療を一緒に受けると、保険診療の分の費用も全額を患者が払わなければならない。 

 保険診療は患者の窓口負担が原則として、かかった診療費の30%で済む。残り70%分をふくめて診療費や薬代をすべて払うとなれば、法外な金額になる可能性がある。保険が適用されていない高度な診療法や海外でしか認められていない画期的な新薬を試したいと切望しても、あきらめざるを得ない人が出てくる。 

 清郷氏の治療法にあてはめると、インターフェロン療法とリンパ球療法は不可分で一体の治療とみなされ、併用するとインターフェロン療法も100%負担になる。患者の身になれば、こんな理不尽はない。 

 一審判決は(1)健保法はそれぞれの診療行為ごとに保険を適用するか否かを決める体系になっている(2)同法に混合診療を保険の対象から外すと定めた規定はない――などと指摘し、厚労省による不可分一体の法解釈には根拠がないと判断した。 

 高裁は判断を180度転換させて同省の法解釈、適用は妥当だとした。裁量行政の追認に、清郷氏は「国のいいなりだ」と批判、上告の手続きを進めている。同じような悩みを抱える患者に救いの手を差し伸べるためにも、混合診療の利点や問題点について議論を深めることが期待されていたのに、判決は制度論に踏みこむのを避けた。 

■  ■ 

 高裁判決を受けて長妻昭厚労相が出した談話は「国のこれまでの主張が認められたものと考えている」。「国の主張」とは、自公政権時代からの厚労省保険局の主張を指すのだろう。混合診療の是非は医療制度の根幹にかかわる。官僚がお膳立てした薄っぺらな談話からは、同相の問題意識の低さがうかがえる。 

 民主党の衆院選マニフェスト(政権公約)の書き出しは「ひとつひとつの生命を大切にする」だ。政治主導でそれを実現するための医療制度改革に道筋をつける好機を、同相は逸した。 

(編集委員 大林尚)