元財務官僚の古川氏が副大臣に抜擢されたことは医療界にとっても幸運である・・・



鳩山新内閣・・医療政策リーダー 
  
厚労省も含めた5つの機関の中でも、特に大きな影響力を持つのは内閣府に設置された国家戦略局と行政刷新会議だ。これらの会議を仕切るのが、菅直人・国家戦略局担当大臣、仙谷由人・行政刷新担当大臣、さらに両者の担当副大臣の古川元久氏である。菅大臣、仙谷大臣は後述するとして、元財務官僚の古川氏が副大臣に抜擢されたことは、医療界にとっても幸運である。 
古川氏は事務処理能力も高く、人柄も温厚だ。さらに医療への造詣も深い。2003年には民主党の「次の内閣厚生労働大臣」に就任、2006年以降、民主党の医療制度改革チームの座長を務め、民主党の医療政策をリードしてきた。最近は民主党税制調査会副会長としての露出が多いが、医療に詳しい財務省OBが重要なポジションにつき、菅・仙谷大臣をサポートすることは、民主党の医療改革にとって極めて意義深い。 


民主党の医療ガバナンス-組閣人事を斬る◆Vol.2 
厚労省に加え、国家戦略局と行政刷新会議、総務省、文科省の5機関で連携  2009年9月20日 上昌広(東京大学医科学研究所先端医療社会コミュニケーションシステム社会連携研究部門准教授) 


-9月18日、民主党の内閣人事が発表された。19日の日経新聞は「政治主導へ政策通起用 副大臣や政務官、意思決定影響力強く」と報じているが、筆者も同感である。今回は、民主党の医療政策人事を考察したい。 

 【厚労省だけ注目していては「木を見て森を見ず」】 

 民主党政権が発足後、早期に直面する問題は外交・組織作り・予算だ。恐らく、新型インフルエンザを除いて、医療は当面の問題にはならない。 

 医療業界の関心は、もっぱら厚生労働省人事にあるようだが、医療政策を考える場合、厚労省だけ注目していると「木を見て森を見ない」ことになる。 

 民主党の目標は「政治主導」。その最大の売りは、内閣府に創設された国家戦略局と行政刷新会議である。前者は予算の付け替え、後者は無駄の排除をうたっている。医療政策に大きく影響するのは明らかだ。次いで、民主党の医療マニフェストの売りの一つが、医学部定員50%増員だ。これは、厚労省ではなく、文部科学省が所管する。また、地域の医療崩壊を食い止めるために、中核病院の入院診療報酬の「少なくとも10%」の増額を表明している。該当する病院の多くは、公立病院で、その所管は総務省である。 

 このように、民主党の医療政策を実現するには、厚労省以外の4つの関係機関・省庁の果たす役割が大きい。民主党の医療政策の実現は、これら組織の有機的な連携にかかっていると言っても過言ではない。 

 【国家戦略局と行政刷新会議】 

厚労省も含めた5つの機関の中でも、特に大きな影響力を持つのは内閣府に設置された国家戦略局と行政刷新会議だ。これらの会議を仕切るのが、菅直人・国家戦略局担当大臣、仙谷由人・行政刷新担当大臣、さらに両者の担当副大臣の古川元久氏である。菅大臣、仙谷大臣は後述するとして、元財務官僚の古川氏が副大臣に抜擢されたことは、医療界にとっても幸運である。 

 古川氏は事務処理能力も高く、人柄も温厚だ。さらに医療への造詣も深い。2003年には民主党の「次の内閣厚生労働大臣」に就任、2006年以降、民主党の医療制度改革チームの座長を務め、民主党の医療政策をリードしてきた。最近は民主党税制調査会副会長としての露出が多いが、医療に詳しい財務省OBが重要なポジションにつき、菅・仙谷大臣をサポートすることは、民主党の医療改革にとって極めて意義深い。 


 【国家戦略局と行政刷新会議】 

菅国家戦略局担当大臣に関しては、過去のメディア報道を見る限り、医療に対する見解ははっきりしない。恐らく医療や教育の具体的内容よりも、「官僚内閣制」から「政治主導」へという政治システムの変換に大きな関心があり、医療政策の内容に口を挟むことは少ないと考える。 
管大臣の考えを知る上で、自身のホームページで表明している「行動規範」は参考になる。 

(以下、菅大臣のホームページより) 

 政権移行の準備が始まった。各省の官僚は早速省益を守るため、民主党のマニフェストがいかに非現実的でこれまでの政策がいかに正しいかということをマスコミを通じて国民に伝え、世論形成を図っている。 
霞が関の官僚もマスコミも民主党による政権交代の意味を理解していない。 
イギリスでは高級官僚が国政に関して公の前で意見表明することが禁じられている。 
イギリスでは官僚はあくまで大臣など内閣のメンバーを専門集団として支えるもので、官僚自身が国民に働きかけることは「政治行為」として禁止されている。 
官僚の省益を守るための説明を鵜呑みにして報道するマスコミも官僚政治の片棒を担がされている。 
しかもそのことを彼ら自身十分には気がついていない。 

  
【行政刷新会議:注目が集まる仙谷由人氏】 

筆者が医療に対して最も大きな影響力を持つのは、仙谷行政刷新担当大臣だと考えている。その理由は以下だ。 

 まず、医療への関心が深いことが挙げられる 
。彼の政治信条は「コンクリートから人へ」。 
2002年に胃がんを患い、国立がんセンター中央病院で手術を受けて以降、医療に関心を持ち、民主党の医療政策の第一人者として活躍している。 
例えば、がん対策基本法、福島県立大野病院事件支援、骨髄フィルター不足問題などは、仙谷行政刷新担当大臣が主導したものだ。 

 彼の考え方は、ロハス・メディカルのインタビューが参考になる。 
そのタイトルは刺激的だ。「医系技官を通さず現場の情報を集める仕組みを」、「中医協 なくすか、改革改組か」、「社会保障国民会議報告書 まったく関係ない」などである。 

 次いで行政刷新会議の対象が、独立行政法人・審議会・補助金・天下り・技官問題を含めた官僚人事であることが挙げられる。仙谷大臣は就任の記者会見で、「縦割り、補助金、天下りという日本の宿痾と言える大病にメスを入れてえぐり取る」と宣言している。この記者会見は秀逸で、一見の価値がある(You Tubeを参照)。 

 このような問題は、まさに厚労省が抱える「宿痾」だ。例えば、独立行政法人については、ナショナルセンター、社会保険・厚生年金病院、国立大学が俎上に上がる。特にナショナルセンター問題は、仙谷行政刷新担当大臣が、本年3月の衆議院予算委員会で追及したものだ。真っ先に取り上げるだろう。 

 ナショナルセンターを取り上げれば、補助金や審議会、さらに医系技官問題に波及することは確実だ。 
例えば、がんの研究予算は、国立がんセンターに天下った役人と一部の御用学者たちが恣意的に使っていることは有名だ。 
昨年、国立がんセンター中央病院外来で多額の使途不明金が見つかったが、うやむやになってしまった。 
このような厚労省の恣意的な運営にはメスが入るだろう。 

 余談だが、役所の事業の検証は、「事業仕分け」という手法を用いる。 
この分野では、財務省OBの加藤秀樹氏が主宰する「構想日本」の活動が有名だ。 
自民党政権時代、河野太郎議員らが中心となって厚労省の事業仕分けを企画したが、様々な圧力で日の目を見なかったという。仙谷行政刷新担当大臣は、就任の記者会見で「事業仕分け」を明言している。 

 審議会制度も問題山積だ。例えば、新薬審査ではPMDA(医薬品医療機器総合機構)で審査を行った後に、厚労省の「薬事食品衛生審議会」でも行い、合わせて2回審査することになっていることは、ドラッグラグを2カ月間ほど延長させている。このような審査は、果たして本当に必要か。 

 また、医療行為の値段を決める中医協のあり方も見直されるだろう。 
9月末には、7人いる診療側委員のうち6人の任期が切れる。 
このうち5人が医療機関の代表で、3人が日医委員だ。これまでの診療報酬改定の動向を見る限り、日医が医療現場の声を反映してこなかったことは明らかだ。日医に変わり、誰が医療現場代表として選出されるか見物である。 

 最後に、今回の組閣では厚労大臣のポジションを仙谷大臣から長妻大臣に譲ったことを挙げたい。 
組閣前夜まで、厚労省には仙谷氏が内定したとの報道が流れていた。 
この人事を、多くの患者は歓迎したようだ。しかしながら、長妻大臣が「年金を担当したい」という強い希望を受け入れる形で、鳩山総理が人事を変更した。 
組閣当日、このニュースを知った患者たちは、民主党本部や鳩山事務所に多くのメールやFAXを送り、仙谷氏の厚労省就任を要請したと言う。このような事情は、仙谷氏と長妻氏の間に微妙な力学を及ぼすことは間違いないだろう。 

 【厚労省 足立信也政務官がキーパーソン】 


 9月19日現在、厚労省には大臣1人、副大臣2人、政務官2人、計5人の政治家が任命された。これまでの活動から考え、長妻大臣は年金、細川律夫副大臣は労働、山井和則政務官は介護、医師である足立信也政務官は医療を担当し、長浜副大臣が調整・バックアップを担当するだろう。 

 医療に関しては、足立政務官が就任した意義は極めて大きい。足立政務官は、筑波大学の助教授まで務めた外科医であり、国会議員の中で最も臨床経験が豊富な医師だ。また、医療事故調問題の民主党案をまとめたり(「民主党が厚労省『大綱案』の対案まとめる」を参照)、今回の総選挙では政調副会長としてマニフェストの医療分野を取りまとめた政策通である。当選1回で、来年の参議院選挙には改選を控えるにもかかわらず、あえて政務官に抜擢したことは、党内の期待を反映しているのであろう。この人事、長妻大臣のファインプレーだ。 

 今後、医療界の窓口は足立政務官が担当する可能性が高く、民主党のマニフェストを着実に遂行すると考えられる。民主党のマニフェストは、これまでの厚労省の方針が合わないものが多く、両者の綱引きが注目である。最初の戦いは「新型インフルエンザ対策」である。連休明けにも動きがあるだろう。 

 【文科省 鈴木寛氏が副大臣に就任し、医学部定員とライフ・サイエンス促進を担当】 


 文科省では、鈴木寛参議院議員が副大臣に就任した。彼は経産省OBで、慶應義塾大学SFC教官を経て、2001年に参議院議員となった。それ以後、教育、医療問題のエキスパートとして活躍している。また、鳩山総理の側近として知られ、仙谷行政刷新担当大臣とも近い。松井孝治官房副長官らと並んで民主党のブレインと言われている。今回の総選挙では、国家戦略局の立案やマニフェストの医療・教育分野に関与した。 

 今回、鈴木議員が文科副大臣に就任したことで、文科省が所管する医学部定員問題、医学教育問題の見直しは加速すると予想する。医学部定員の増員が、医学教育全体の見直しにつながるのではないだろうか。 

 さらに、鈴木副大臣はライフ・サイエンスへの造詣も深い。19日未明に「最先端研究開発支援プログラム」の見直しを表明した。同プログラムは今年度の補正予算で決まったもので、総額2700億円という、この分野では従来とはケタが違う予算だ。その有効な活用が期待されたが、実際には現場からの申請、さらには審査が極めて短時間に行われた。しかも、総選挙後、新政権誕生前の9月4日という時期に、"駆け込み"的に支給先が決定した。 

鈴木大臣のコメントは「2700億円という額以上に、支給対象者の選考プロセスに問題がある」である。族議員・文科省・御用学者が一体となったライフ・サイエンス研究のあり方にメスが入る可能性が高い。 

 【医療に造詣の深い議員が配備されなかった総務省】 


 今回の総務省人事のウィークポイントは、総務省に医療に造詣の深い議員が配備されなかったことだ。総務省には原口一博大臣を筆頭に、小川淳也議員、階 猛議員など政策通が並ぶが、いずれも医療とは縁遠い。総務省は、公立病院や救急隊を所管する重要な省庁である。民主党は内閣に100人の国会議員を送り込むと公言しており、今後、送り込まれる人材が注目される。 

 【議員の有機的な連携を望む】 


 今回の人事では、民主党の医療政策を主導してきた仙谷由人氏、鈴木寛氏、足立信也氏に対して、妥当なポジションが提供されたと考えられる。いずれも政策通だ。彼らは、従来から連携してきた議員たちであり、意思疎通に問題はない。このネットワークが有機的に活用されれば、政治家主導の省庁間の縦割り是正が期待できそうだ。この辺り、自公政権の大臣、副大臣、政務官の関係とは対照的である。 

 今後の注目は、医師出身である桜井充参議院議員、岡本みつのり衆議院議員、梅村さとし参議院議員などの中堅議員がどこに配置されるかである。彼らは長年の議員活動を通じ、医療現場への認知度も高い。特に、桜井議員の歯科医への信頼は絶大だ。このような人材を活用しない手はないだろう。個人的には手薄な総務省で辣腕を振るってほしいと考えている。 

  

筆者プロフィール 上 昌広(かみ まさひろ)氏 

1993年東京大学医学部卒。97年同大学院修了。医学博士。虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床研究に従事。2005年より東大医科研探索医療ヒューマンネットワークシステムを主宰し、医療ガバナンスを研究。帝京大学医療情報システム研究センター客員教授、コラボクリニック顧問、周産期医療の崩壊をくい止める会事務局長、現場からの医療改革推進協議会事務局長を務める。