改革は、住民に一時的には不便でも、究極的に不利益をもたらすものではない。行政は、青写真を明示して住民に十分理解を求め、地域医療再生を地道に進めることが、何より求められている

改革は、住民に一時的には不便でも、究極的に不利益をもたらすものではない。行政は、青写真を明示して住民に十分理解を求め、地域医療再生を地道に進めることが、何より求められている 
 多くの病院は、全診療科を有する「自己完結型」病院を目指してきたが、「各病院とも三重苦」という状況を脱し、複数の病院が統合・再編し、相互の連携を密接にして、広域での「地域完結型」に替わる方が効率的で現実的でもある 
教訓となる成功例はすでにある。山形県酒田市でも市立酒田病院と県立日本海病院を統合、組織替えした地方独立行政法人「県・酒田市病院機構」が、小異を捨てて大同につく形で成功した 



[論点]地域医療の崩壊 公的病院再生、広域連携で 久道茂(寄稿) 
2009.09.19読売新聞   
  
皆保険の日本の医療に崩壊の危機が指摘されて数年。政府は本年度補正予算で、地域医療再生への総合的対策として「基金」の創設を盛り込み、3100億円を計上、安心の医療確保を訴えたが、政権の維持はかなわなかった。背景には、国民が医療の改善に実感を持てなかったことがあるだろう。事実、病院の診療科縮小や病院自体の閉鎖などが各地で続き、対策を急いでも地域医療崩壊の流れに歯止めがかからない印象がある。 

 筆者が本欄で「麻酔科医の不足、良質な医療へ打開策急げ」と題し、宮城県での麻酔科医一斉退職から始まった地域医療崩壊の兆しを説いたのは2005年1月。県内ではその後、呼吸器内科医の一斉退職もあり、全国でも04年度からの新臨床研修制度を機に、地方の病院の医師が大学へ引き揚げられ、病院の小児、産科などの診療科が立ち行かなくなる状況が続いた。 

 間もなく問題は首都圏にまで波及。国立がんセンターでは麻酔科医の退職により手術室業務が支障を来し、都心部で妊婦の救急搬送ができない事態まで起こった。最近では大阪府松原市立病院の廃止や千葉県銚子市立総合病院の休止など、地域の中核である公的病院が存亡の危機に立っている。 

 各都道府県は現在、補正予算で新設される基金への申請作業に追われているが、政権交代で事業の行方は未知数だ。自治体は政争に惑わされず地域の事情に即した地域医療再生の方策を遅滞なく進める必要がある。崩壊しかかった地域医療の再建は簡単ではないが、急ぐべきは国民のセーフティーネットである自治体病院の再生だ。 

 日本の自治体病院は、「ヒト、モノ、カネ」の三重苦状態にある。ヒトは医師、看護師不足、モノは建物の老朽化、カネは構造的赤字のことで、全国の自治体病院の7割が赤字の経営難に陥っており、経営改善を厳しく迫られている。 

 多くの病院は、全診療科を有する「自己完結型」病院を目指してきたが、「各病院とも三重苦」という状況を脱し、複数の病院が統合・再編し、相互の連携を密接にして、広域での「地域完結型」に替わる方が効率的で現実的でもある。 

 ただ、こうした改革が進むに伴い、住民は近所の病院が閉じる現実に不安を募らせ、行政とのせめぎ合いが各地で起こっている。県や市は、「近所だが小規模の病院が複数」あるより、「少々遠くても大規模な病院が一つ」ある方が良いことを住民に丁寧に説明するべきだ。自分の地域さえ良ければ、というエゴを捨て、限りある医療資源を広域でどう配分するかに英知を結集すべき時である。 

 教訓となる成功例はすでにある。兵庫県立柏原病院の「小児科を守る会」の母親たちの運動は住民の意識改革で、小児科閉鎖を防ぐどころか、医師増員にまで成功した。山形県酒田市でも市立酒田病院と県立日本海病院を統合、組織替えした地方独立行政法人「県・酒田市病院機構」が、小異を捨てて大同につく形で成功。宮城県は、奈良県での妊婦死亡事故を教訓に妊婦救急搬送先を調整するコーディネーター制度を作った。医師が充足するまではこんな工夫も必要だ。 

 改革は、住民に一時的には不便でも、究極的に不利益をもたらすものではない。行政は、青写真を明示して住民に十分理解を求め、地域医療再生を地道に進めることが、何より求められている。 


 ◇ひさみち・しげる 宮城県対がん協会長、東北大学名誉教授、地域医療支援中央会議座長。70歳。 




[課題@検索]市民病院統合へ 東海、知多市境に新施設=愛知 
2009.09.19読売新聞  

 ◆規模拡大し医師確保 

 医師不足と経営難に悩む東海市と知多市の両市民病院の間で、統合に向けた話し合いが進んでいる。両市では「東海市・知多市病院等連携協議会」(会長=早川豊彦・知多市副市長)を設置、10月に中間報告をとりまとめ、来年3月には最終報告書を提出する計画だ。今後の課題を探ってみた。(松原輝明) 

 両病院では医師不足から診療科目が減少し、その結果、患者や入院患者数が減ったため、経営が悪化しており、両病院の累積赤字は、合わせて約100億円(2008年度末現在)にも上るという。 

 東海市民病院の病床数は、分院と合わせ353床。これに対し、常勤医師数は32人。昨年の病床の平均稼働率は50%強にとどまる。一方、知多市民病院も、眼科や脳神経外科の常勤医師が不在に加え、今年6月からは産婦人科も常勤医師がゼロになった。昨年の平均稼働率は約80%だが、同病院管理課では「病床数が300から240に減ったことによって、稼働率が上がったに過ぎない」と話す。 

 同協議会には両市の関係者のほか、大学病院の院長、副院長、市民代表ら約30人が参加。7月3日と8月17日に開かれ、名古屋大学医学部付属病院の後藤秀実副院長は、最初の会合で「今のままでは二つともつぶれる。規模を大きくし、魅力ある病院に」と提言した。 

 協議会事務局では「病床数400~500で、建設場所は両市境」という試案を作成し、10月の中間報告に盛り込む方針だ。基本構想に1年かけ、基本設計から実施設計、施工、開院まで5年にわたるスケジュールを見込む。経営形態については、「最初から経営統合をするのではなく、事務組合形態も視野に入れて」として、現在、両市がし尿処理で作っている西知多厚生組合を受け皿にする案が浮上している。 

 一方、同協議会では、建物以外で160億~190億円、建物も108億~132億円が必要だと試算しており、資金の調達方法もこれからの課題だ。また、新病院建設後の各市民病院の扱いについても未定で、課題は山積している。 

 協議会長の早川副市長は「中小の病院が二つあるよりも、病床500の大規模な病院の方が、医師や看護師の確保をしやすい。できるだけ早い時期に経営統合し、地域医療の存続、向上に努めたい」と強調した。