日本看護協会の小川忍常任理事は、「離職を減らすには、短時間正職員制の導入、日勤と同レベルの夜勤人員の配置、夜勤の労働時間の短縮などの対策が必要だ」と指摘する。



日本看護協会の小川忍常任理事は、「離職を減らすには、短時間正職員制の導入、日勤と同レベルの夜勤人員の配置、夜勤の労働時間の短縮などの対策が必要だ」と指摘する。 
医労連の田中千恵子・中央執行委員長「日本は看護師の増員とセットでILOの条約批准を目指すべき。看護師に限らず、夜勤労働者の労働環境の改善が必要だ」と強調する。命を預かる立場の看護師が過労死寸前という現実を見過ごして、日本の医療は守れない。」 


〔医師だけではない 看護師不足による医療崩壊の深刻〕2009.07.21 エコノミスト    小林 美希(労働経済ジャーナリスト) 

 看護師不足は、今に始まったことではない。日本唯一の医療産業別労働組合である日本医療労働組合連合会(医労連)の前身が結成されたのは1957年。医労連は当時から医師や看護師の増員を訴えてきた。 
 人員不足による勤務の厳しさから、「夜勤は複数で、月8日以内」という「ニッパチ闘争」が起きたのは68年。89年からは、看護師不足の解消と社会的地位の向上などを求めた「看護師闘争=ナースウェーブ」が展開され、これが92年の「看護師確保法」につながった。 
 それでも慢性的な看護師不足は解消されず、医療の高度化、IT(情報技術)化などに伴い、業務は増える一方だ。厚生労働省の「第6次看護職員需給見通しに関する検討会」(05年12月公表)における推計では、06年の不足数は約4万1600人。現在、第7次検討会で需給を改めて試算され直すところだ。 
 厚労省によれば、06年時点で就業している看護職員数は約133万人。准看護師、助産師を除く看護師のみでは約84万8000人。この年の新規免許取得者は4万5000人、離職者は11万5000人、再就業者は9万5000人だった。差し引き2万5000人の看護師が増えたが、一方で、看護師の免許はあるものの就業していない「潜在看護師」が多い。02年推計値では、その数は約55万人に上る。 
 同志社大学技術・企業・国際競争力研究センターの宮崎悟特別研究員らの調査(06年)によれば、看護師の年齢層別就業率は、20~24歳で87・64%。これが25~29歳では77・58%と約10ポイント低下し、30代ではさらに69・97~69・83%に低下する。離職理由の1位は妊娠・出産だ。日本看護協会の小川忍常任理事は、「離職を減らすには、短時間正職員制の導入、日勤と同レベルの夜勤人員の配置、夜勤の労働時間の短縮などの対策が必要だ」と指摘する。 
  
全体的な人数不足に加えて、看護師の争奪戦による看護師数の“偏り”も大きな問題だ。 
 もともと、都市部や労働条件のよい大病院に看護師が集中する傾向があるが、06年改正の診療報酬で新設された「7対1入院基本料」に基づく看護配置基準が大規模な看護師の争奪戦を生んだ。 
 1人1日入院当たりの入院基本料金は、看護職員の配置、正看護師比率、患者の在院日数などによって異なる。06年改正では、看護配置基準が細分化され、患者と看護師の人数比による入院基本料が、「15対1」で9540円、「13対1」で1万920円、「10対1」で1万2690円、「7対1」で1万5550円とされた(08年改正で「10対1」は1万3000円に引き上げ)。 
 急性期病棟などの看護配置を手厚くする狙いだったが、実際には看護師総数がさほど増えないなかでの「7対1」は、看護師の争奪戦を激化させた。08年改正では、その対策として「看護必要度」も入院基本料の要件に含むこととされたが、結果的には、大病院やブランド力のある病院に看護師が集中。それ以外の病院の看護師不足がさらに顕著になった)。 

ILO条約批准で 労働環境改善を 。 
 看護師不足を原因とした病床休止や病棟閉鎖についての正式な統計はないが、日本自治体労働組合総連合(自治労連)が08年4月に行った「全国自治体病院アンケート」(約1000病院に配布、回答は161病院)にその一端が表れている。看護師不足による「病床削減」が回答病院の11・8%、「病棟閉鎖」が7・5%、「救急中止・休止」が3・7%で行われていた。 
 こうしたなか、国は昨年からインドネシア、フィリピンからの看護師・介護福祉士受け入れ事業を始めたが、看護や介護の現場からは、「人件費削減の温床になるのでは」と危惧する声が強い。医労連の田中千恵子・中央執行委員長は、「国民の生命を守ることは国の最も大きな責務。安易に外国人労働者に頼るのではなく、国が責任をもって医療・福祉人材を養成するべきだ」として、労働環境を整え、国内で看護師増員を行うことが先決と訴える。 
 国際労働機関(ILO)は、32年も前の1977年に「看護職員の雇用、労働条件及び生活状態に関する条約」を採択。(1)1日の労働時間は8時間以内(超過勤務を含み12時間以内)、(2)週休は継続する36時間以上、(3)交替制は間に12時間以上継続した休息を入れる--などを規定しているが、日本はこの条約を批准していない。 
 田中委員長は「日本は看護師の増員とセットでILOの条約批准を目指すべき。看護師に限らず、夜勤労働者の労働環境の改善が必要だ」と強調する。命を預かる立場の看護師が過労死寸前という現実を見過ごして、日本の医療は守れない。